変化に直面する暗号資産取引所──金商法移行、ステーブルコイン、ETFをいかに乗り越えるか

日本の暗号資産(仮想通貨)市場はいま、大きな転換点を迎えている。金商法移行、ステーブルコイン普及、ビットコインETF解禁議論──。“投機市場”として語られてきた暗号資産は、金融インフラとして再定義され始めている。

そうした変化の最前線に立つのが、暗号資産取引所だ。

5月24日、東京・恵比寿で行われたパネルディスカッション「暗号資産交換所のリアルと未来」には、OKJ マネージングディレクター Sunny Wang氏、BitTrade マーケット運用部顧問のKB氏(小林大輔氏)が登壇。モデレーターは XWIN Group 代表の荒澤文寛氏が務めた。

ディスカッションでは、「金商法移行」「ステーブルコイン」「ETF」といったテーマを軸に、日本の暗号資産取引所が直面する変化と課題について、現場にいる当事者たちが議論した。

世界中からサイバー攻撃──取引所ビジネスの現実

冒頭、まず各社の紹介と、それぞれの強みについて説明が行われた。

OKJのSunny Wang氏は、OKJが「世界中から日々サイバー攻撃を受けている環境だからこそ、セキュリティ体制にはかなり自信を持っている」と語った。

また、ユーザー目線での強みとして、「比較的狭いスプレッドによる低コスト取引」「毎日報酬が受け取れるステーキングサービス」などを挙げた。

一方、BitTradeのKB氏は、「セキュリティというのは“事故を起こさないこと”がすべて」と語り、会社としては不要なSNS露出を極力避けるなど、非常に保守的な運営を行っていることを明かした。

さらにBitTradeは、暗号資産交換業ライセンスだけでなく、第一種金融商品取引業ライセンスも保有している点を強調。「今後、暗号資産が金商法へ移行していく流れの中で、その準備はすでに進めている」と説明した。

華やかに見えるが、実際は泥臭い

続いて議論は、「取引所で働くリアル」へ移った。

Sunny Wang氏は、「業界の最新トレンドを最前線で見られることが一番楽しい」と述べた。特にConsensus香港などの海外イベントへ行くと、「ミーム」や「NFT」が中心だった市場が、現在は「RWA」「トークン化」「銀行ライセンス」「ステーブルコイン」へテーマが急速に転換していることを肌で感じるという。

しかし、その一方で最も大変なのは「規制対応」だとも語った。

「広告を出すにも規制に準拠した対応や社内承認が必要。新しい資格取得も必要になる。会社全体のガバナンスも変わる。日々の行動レベルまで規制が入ってくる」

KB氏も、「外から見ると華やかに見えるかもしれないが、実際はかなり泥臭い」と率直に語った。

「まだまだ成熟産業ではなく、現場は少人数で回している。誰かが休めば、その分を他のメンバーが埋める。朝から晩までパソコンの前に張り付いている日も多い」

暗号資産取引所は、“自由で最先端な業界”というイメージを持たれることもある。しかし実際には、金融機関以上に緊張感のあるオペレーションと、絶え間ないコンプライアンス対応が求められていることがうかがえた。

金商法移行で何が変わるのか

今回の議論で最も重要なテーマの一つとなったのが、「暗号資産の金商法移行」だった。

現在、日本では暗号資産は資金決済法のもとで規制されている。しかし実態としては、“決済”より“投資対象”としての性格が強くなっている。

荒澤氏は、「今後はインサイダー規制や情報開示義務など、株式市場に近いルールが求められていく」と整理した。

Sunny Wang氏は、金商法移行について「ユーザー目線ではかなりポジティブ」と語った。

最大の理由は税制だ。

現在、日本の暗号資産は総合課税だが、将来的に分離課税化されれば、株式と同じ感覚で投資しやすくなる可能性がある。「取引所としても、ユーザー増加には追い風になる」と期待を示した。

しかし同時に、新たな課題も浮上する。

特に問題となるのが、「誰が情報開示責任を持つのか」という点だ。

株式市場では発行体企業が存在する。しかし暗号資産市場では、コミュニティ主導で運営されるプロジェクトや、すでに発行主体が曖昧になっているケースも多い。

Sunny Wang氏は、「ミームコインやコミュニティ主導型プロジェクトに、どこまで開示義務を求められるのか。これは非常に難しい問題」と指摘した。

ETF」は日本市場を変えるのか

議論はさらに、日本版ビットコインETFへと及んだ。米国ではすでにビットコインETFへ巨額の資金が流入しており、日本でも制度化への期待が高まりつつある。

Sunny Wang氏は、「日本で本格的な暗号資産ETFが実現すれば、日本市場だけではなく、グローバル市場全体に影響を与える可能性がある」と語った。

その理由は、“既存金融資産”の流入余地にある。

現在でも証券会社や一部金融機関は暗号資産へ関与している。しかし保険会社や年金資金など、大規模な機関投資家マネーはまだ参入できていない。

もしETFが実現すれば、「ポートフォリオの1%だけでもビットコインに振り向ける」という動きが可能になり、それだけでも市場には大きなインパクトを与えるという見方だ。

ただし、課題もある。最大の壁は「カストディ(保管)」だ。

「誰が暗号資産を安全に保管し、その責任を持つのか。そこが現在の最大のボトルネック」とSunny Wang氏は説明した。

KB氏も、「ETFによって暗号資産市場は一気にメジャー化する可能性がある」と語り、今後は既存証券会社の参入も加速するとの見方を示した。

ステーブルコインは決済革命になるのか

今回、もう一つ大きなキーワードとなったのがステーブルコインだった。

Sunny Wang氏は、USDCやUSDGなど、米ドル連動型ステーブルコインの国内活用が少しずつ進み始めていることに触れ、「決済用途での実装は確実に始まっている」と説明した。

特に、羽田空港でのUSDC決済実験などを例に挙げ、「決済領域ではすでに現実的なユースケースが出始めている」と語った。

KB氏も、「JPYCのような日本円連動型ステーブルコインは、日本国内ビジネスにおいて非常に大きな可能性を持っている」と強調。貿易、企業間決済、Web3決済など、“送金インフラ”としてのステーブルコインの可能性は、今後さらに拡大していくという見方を示した。

暗号資産は終わっていない

セッション終盤、Sunny Wang氏は「市場は弱く見えるかもしれないが、ETFやステーブルコインなど長期的なテーマはむしろ強まっている」と語り、「今こそ長期視点を持つべき時期だ」と参加者へメッセージを送った。

またKB氏は、「業界再編は避けられない」としながらも、「中堅取引所だからこそ、フットワーク軽く新しい挑戦ができる」と強調した。

今回のディスカッションから見えてきたのは、日本の暗号資産業界が、単なる“投機市場”から、“金融インフラ”“決済インフラ”“資産運用インフラ”へ進化し始めているという現実だった。

暗号資産取引所は単なる「売買の場」ではなく、オンチェーン金融時代のインフラへ変化し始めている。金商法移行、ETF、ステーブルコイン──2026年、日本の暗号資産市場は、新たなフェーズへ入りつつある。

|文・撮影:NADA NEWS編集部
※本セッションは「OrbsCafe Tokyo Special 2026」にて開催された。

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