デジタル証券で変わる地域金融、“地産地消”から“互産互消”へ──日本初の地銀系証券ST参入に見る次なる展望【イベントレポート】

証券や不動産といった伝統的な資産がブロックチェーン技術により「デジタル証券(セキュリティ・トークン、ST)」として生まれ変わり、いま新たな広がりを見せている。これまで大手金融機関を中心に進められてきたST事業だが、共同スキームの構築などによってシステム導入や変更登録に伴う負担が軽減され、地方金融機関へと波及し始めた。

この動きは、地域の投資家へ新たな選択肢を提供するにとどまらず、将来的には地域の特産品や観光資源などを資産化し、地域経済そのものを活性化させる新たな可能性を示している。

NADA NEWSを運営するN.Avenueは4月22日、「地域金融機関におけるデジタル証券の可能性 ── 地産地消から互産互消まで」と題したオンラインイベントを開催。国内で初めて地銀系証券としてSTの取り扱いを実現した証券会社とプラットフォーム提供事業者を招き、新たな金融インフラの構築と地域貢献のあり方について意見が交わされた。

登壇したのは、BOOSTRY COOの周藤一浩氏と同社Managerの小柳将輝氏、東海東京証券の投資銀行カンパニー STOセンターマネージャーの秋山諒氏、十六TT証券の執行役員管理本部長の鈴木真司氏。MCは一般社団法人日本セキュリティトークン協会代表理事の増田剛氏が務めた。

成長フェーズに入ったST市場、「互産互消」によるエコシステム構築へ

BOOSTRYの周藤氏は冒頭、国内のST市場がすでに成長と多様化のフェーズに入っていると指摘した。公募STの発行総額は3333億円に達し、すでに82件のトークンが個人投資家向けに販売されるなど、着実な広がりを見せているという。特に注目すべきは「ステークホルダーの多様化」であり、これまでコストの壁があった地域金融機関の参入に期待が寄せられていると述べた。

〈BOOSTRY COOの周藤一浩氏〉

周藤氏は、同じ地域の金融機関が地元のアセットを地元の投資家に届ける「地産地消」が実現できるとしたうえで、「より持続的なビジネスにするためには、お互いで生み出してお互いで消費し合う『互産互消』のエコシステム構築が重要になる」と強調。大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)などを活用し、他地域のアセットも相互に行き交う環境づくりの意義を語った。

参入障壁を下げる、セカンダリー市場への取次スキーム

東海東京証券の秋山氏は、地域金融におけるSTの活用延いてはST事業の推進には、金商業者による新規参入が最重要の課題であると述べ、同社と新規参入者で協働するスキームを紹介した。

〈東海東京証券で投資銀行カンパニーSTOセンターマネージャーを務める秋山諒氏〉

秋山氏は、金商業者がST事業へ新規参入する際の課題として、「商品の選択」「オペレーションやシステムコスト」「変更登録」の3点を提示した。同社はこれまで自社を含め4社分の変更登録を支援してきたノウハウを活かし、他社との共同販売体制の構築を進めているという。

これらの課題を解決するアプローチとして、ODXの「START」市場(セカンダリー市場)銘柄からの取り扱いを推奨した。プライマリー市場での資金調達スケジュールに左右されず、すでに審査や販売ツールが整備されている点が新規参入者にとって大きな利点になると説明。さらに「基準価格10万円付近の銘柄であれば、分配利回り3%台後半と投資家にとっても魅力的な水準にある」と具体的なメリットにも言及し、同社の名義で市場に発注する共同参加スキームによって、他社との決済業務も効率化できるとその有用性を語った。

地域貢献の新たな武器となる不動産STの可能性

十六TT証券の鈴木氏は、地域に根ざした小規模な地銀系証券であっても、東海東京証券との共同スキームを通じて低コストで不動産STを提供できるようになった背景を語った。

〈十六TT証券の執行役員管理本部長の鈴木真司氏〉

従来の株式などで投資成果を享受する顧客がいる一方で、安定的な成長や定期的な配当を求める顧客も多く、「実物資産を小口化したSTは、ポートフォリオ提案において魅力的な選択肢になる」と指摘した。

また、鈴木氏は将来の展望として、単なる不動産にとどまらず、地元・岐阜県の観光資源や観光地で提供される商品、地場産品などをトークン化する構想に言及した。「次世代の新たな産業や市場を創出していく必要がある」と語り、地域貢献の新たな武器としてSTを位置づける前向きな姿勢を見せた。

複雑な実務を滑らかにするE-Walletのハブ機能

BOOSTRYの小柳氏は、東海東京証券と十六TT証券の連携を裏で支える基盤システム「E-Wallet(イーウォレット)」の仕組みについて解説。E-Walletは、証券会社の基幹系システムとブロックチェーンを接続するハブとして機能し、多様な外部システムとの連携を可能にしている。

〈BOOSTRYでManagerを務める小柳将輝氏〉

今回のスキームでは、「マルチユーザーオプション」を活用し、個人情報などの重要データ領域を各社で分離しつつ、ODXへの受発注や決済に必要な情報のみを東海東京証券へ連携させる仕組みを構築した。小柳氏は「受注からT+2(約定日から2営業日後)のSTや資金の決済に至るまで、極力自動化できる仕組みを整えた」と強調。

また、画面のUIも直感的でわかりやすく設計されており、金商業者にとって参入障壁となりがちなオペレーション業務をなめらかにすることで、ST事業への参入をシステム面から強く後押ししていると述べた。

地域企業が発行する社債STのポテンシャル

イベント終盤のQ&Aセッションでは、今後の発展が期待される社債STにおける地産地消の可能性について意見が交わされた。

〈MCを務めた日本セキュリティトークン協会代表理事の増田剛氏〉

周藤氏は、現状の社債市場は大手企業の事業債が中心であるものの、今後は地域に根差した企業の社債をST化するポテンシャルが大きいと指摘。「地域の人なら誰でも知っているが、東京の人は誰も知らない」といった地域密着型の企業の場合、大手の金融機関よりも地元の顧客基盤を深く理解している地域金融機関のほうが売りやすい特性があると説明した。

さらに、地方債のデジタル化に向けた法改正の動きにも触れ、県民債のような地域性の強い商品がデジタル証券として流通するようになれば、地方企業や自治体の新たな資金調達手段としてSTが活用される機会はますます広がっていくと、将来に向けた展望を示唆して締めくくった。

|文・画像:NADA NEWS編集部

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