AIが商品を探し、比較し、購入する。そして、そのまま支払いまで行う。
第1回では、「エージェント経済圏共同研究会」のメンバーである澤村周平(コインチェック 専門役員 / Head of Product)と、布目雅登(Komlock lab代表取締役CEO)による対談を通じて、「なぜ今、エージェント経済圏なのか」を考えました。
では、AIが実際にサービスを利用し、お金を使うようになると、何が変わるのでしょうか。
第2回では、サービスの課金モデルや決済手段、そしてAIに安心して取引を任せるための信用の仕組みについて、引き続き両名が対談します。
※エージェント経済圏共同研究会の取り組みは研究段階のものであり、現時点においてKomlock labおよびコインチェックの特定のサービス提供を目的とするものではありません。
SaaSは「月額○円」から「使った分だけ払う」へ?
──AIがサービスを利用するようになると、企業やビジネスモデルはどう変わっていくのでしょうか。
澤村: SaaSって、月額や年額のパーシート課金が多いですよね。例えば週1回しか稼働しない業務委託の人にも、1人1アカウント分の料金を払っていたりする。
AIエージェントがサービスを使うようになると、普通に考えれば、リクエスト単位の課金に寄っていくと思うんですよね。必要なときに必要な分だけ使って、その分だけ支払う。
世の中の商品も、使う人のニーズに合わせてどんどん細かい単位に分かれてきたと思うんです。サービスも同じように、利用した分だけ払う方向に進んでいくんじゃないかと思います。
布目: 使う側からすると、その方が合理的ですよね。
一方で、サービスを提供する側からすると、今までサブスクリプションで買ってもらっていたものを、必要な分だけしか使われなくなったら、当然売上が下がる可能性があります。
なので、短期的には「今のビジネスモデルを変えたくない」というモチベーションが強く働くと思うんです。
ただし使う側が「こっちの方がいい」となっていけば、それに対応したサービスが伸びて、それ以外が淘汰されていく、という変化は起こると思います。
澤村: 買い切りのソフトウェアからSaaSに変わったように、その次の形が出てくるのかもしれないですね。
布目: 先ほどの「今のビジネスモデルを変えたくない」という観点から、初期ユースケースは既存のSaaSから生まれるのではなく、AIネイティブな新しいユースケースが生まれ、それが使われる形になる方が早いと思っています。
実際にSaaS企業の方々と話すと、皆さん口を揃えて「AIでSaaSが変わることに危機感があります」と言います。ただ、いざビジネスモデルを変えてまで取り組むかというと、まだそこまでではないですね。

AIの支払いは、クレジットカードか、ステーブルコインか
布目: エージェント経済圏だからといって、絶対にステーブルコインが適切だとは思っていません。
以前は「AIは銀行口座やクレジットカードを持てない。だからステーブルコインが適切だ」という一般論もありましたけど、今は時間軸や用途によって適切な決済手段が変わると思っています。
澤村: 機械同士ですごく小口の決済をたくさん行うような世界になると、ブロックチェーンやUSDCのようなステーブルコインは合理的だと思うんですよね。
布目: そうですね。それがまさに用途によって変わるとお話した内容で、AIだからステーブルコインという話ではなく、AI決済の中で機械同士の小口の大量トランザクションはステーブルコインが適切だ、ということだと思っています。
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対談後には、こうした「用途によって決済手段を使い分ける」という考え方を示すような動きも出てきました。
Stripeが提供する「Link」のエージェントウォレットでは、AIエージェントによる代理購入に対応。公式サイトでは対応するAIエージェントとしてGrok Botなどが紹介されており、ユーザーが支払額を承認したうえで、一回限りのカードなどを使って購入できます。実際の決済情報をAIエージェントに直接渡さずに支払える仕組みで、現時点(2026年9月)では米国の消費者向けに提供されています。

AIに取引を任せるとき、何が不安なのか
──AIに買い物や発注を任せることへの不安や、課題はどこにあると思いますか。
布目: AIによる決済前に、例えばスマホに承認通知が飛んでくるような準自律型の決済であれば、特に不安はないですね。
一方で、完全自律型になって、僕が「○○欲しいな」みたいな抽象的な依頼をしただけで、AIが自動で何かを買ってくれるような世界になるのであれば、いろいろ不安になる点もあると思います。
例えば、高額なものや代替許容度が低いものだったりすると、完全に任せるのは当然不安ですよね。
澤村: そういうときに、僕はやっぱり「検証」が大事だと思うんですよね。
Identity、Reputation、Verification。つまり、「それが誰なのか」「過去にどう評価されてきたのか」「本当に依頼したことが完了したのか」。この3つはすごく大事だと思います。
個人的な経験になるのですが、以前、自分が管理している遠隔地の不動産物件のエアコン修理をしたときに、市場価格の7割くらいでやってくれる人が見つかって、その人に頼んだんです。
作業が終わって写真も送られてきたんですけど、「これ、本当にちゃんと仕事が終わってるのかな」と不安になって、結局、自分で現地まで見に行ったんですよ。「本当に依頼したことが完了したのか」不安を感じたから、そういう行動をしたんですね。
今は、人に仕事を依頼すると、その人にレビューや実績が蓄積されていきます。今後、人がAIエージェントや企業のAPIに仕事を依頼するようになると、同じように、そのAIやサービスにも「これまで何をしてきたのか」「どれくらい正確に仕事を完了してきたのか」といった実績や評価が蓄積されていくことが重要になると思います。
それに加えて、実際に依頼した仕事が本当に完了したのかを確認できる仕組みも必要ですよね。
布目: そこがしっかりしていてレビューも良ければ、僕はかなり不安がなくなると思います。
これはAIエージェントに限った話でもなくて、Amazonで普通に買い物するときに感じる不安と同じですよね。
AI決済を支える「間を埋める」仕組み
布目: 課題で言うと、クレジットカードって、僕らみたいに新しい技術を見ている側からすると、非合理に感じるところもあると思うんです。
でも、長年かけて積み上げられてきた消費者保護の仕組みはめちゃくちゃ強いですよね。チャージバックもそうです。
当然、新しい決済手段にはそういう仕組みがまだ十分に積み上がっていない。オンチェーンだと基本的に取引は不可逆なので、そこは課題だと思います。
澤村: そもそもの前提が全然違うので、社会に受け入れられるための準備期間は必要だと思います。
例えば、不動産も貸し手と借り手の信頼関係を前提にしているけど、それだけでは機能しないから保証会社が間に入っていますよね。
新しい決済でも、そういう「間を埋める」ビジネスは出てくるんじゃないかと思います。
布目: 「間を埋める」という意味では、サービスを提供する側が「ステーブルコインを持ちたくない」というケースも当然あると思うんですよ。
ユースケースとしてはステーブルコインが合理的だけど、受け取る側はステーブルコインを持ちたくない。
そういうところでは、ライセンスを持ち、法定通貨との交換を担えるプレイヤーの役割が重要になると思います。その間を担うことで解決できると思っています。
澤村: 確かに。交換するところは重要ですよね。
布目: そうですね。今の延長で考えると、ユーザーは取引所などを通じてステーブルコインを入手して、サービス提供者側では必要に応じて法定通貨に戻す、みたいな形になると思います。
もし将来的に、給与までステーブルコインで受け取ることが当たり前になれば、そもそも法定通貨に戻す必要も減って、もっとスムーズになるかもしれません。
ただ、そこまで行くのはもう少し先の話かもしれません。

エージェント経済圏の実現に向けて
──最後に、エージェント経済圏共同研究会として今後どのようなことに取り組んでいきたいですか。
澤村: AIエージェントが実際に取引するようになると、決済だけではなく、ルール作りも必要になってくると思っています。
特に大きいのは本人確認だと思っています。相手が人間ではないときに、売り手と買い手の双方が「それが誰なのか」をきちんと検証できないといけない。
今の制度やルールは基本的に人間が取引することを前提に作られているので、AIエージェントが取引する場合にどう考えるのかは、これから整理していく必要があると思います。
布目: そうですね。例えばステーブルコインも、P2Pで直接決済できるというところだけを見ると、間に誰も入らない世界のように見えるかもしれません。
でも、実際にはそうならないと思っています。どこかが間に入ってAMLを確認したり、KYCをしたりすることは必要になる。そういうところでは、コインチェックのようにライセンスや実務の知見を持つ企業の役割も大きくなると思います。
一方で、企業の方と話していると、「AIエージェントが経済活動をする未来はまだ先なんじゃないか」と捉えられていることも多いです。
なので、こうした未来について情報発信していくことも必要だと思っていますし、ここまで話してきたようなルール作りにも関わっていきたい。
Komlock labだけで何かを実現するというより、僕らがこの領域で積み上げてきた専門性やスピード感を活かしながら、ライセンスや実務の知見を持つ企業と一緒に進めていく形になると思っています。

AIがお金を使えるだけでは、「経済圏」にはならない
エージェント経済圏に必要なのは、単にAIに決済機能を持たせることではないということです。
AIがサービスを利用するようになれば、課金はより細かくなり、支払いにはクレジットカードやステーブルコインなど複数の選択肢が使われるようになるかもしれません。
一方で、実際にAIへ取引を任せるためには、相手を信用できるのか、本当に取引が完了したのか、問題が起きたときに誰が補償するのか、そしてそのAIが誰の代理なのか、といった仕組みも必要です。
これまで人間の経済圏で積み上げられてきた本人確認や消費者保護、仲介の仕組みは、AIの時代にも形を変えながら残っていくはずです。
エージェント経済圏は、「AIがお金を使えるか」ではなく、「AIに安心して経済活動を任せられるか」を考える段階に入りつつあります。
対談者プロフィール
澤村周平(コインチェック株式会社・専門役員 / Head of Product)
大学卒業後、2020年に新卒でコインチェック入社。マーケティング部においてデータ分析業務、自社ポジション管理およびWeb広告運用をはじめとする新規ユーザー獲得業務、新規通貨取扱い業務、取引所のサービス改善など幅広い業務に従事。 2023年9月執行役員、2024年9月執行役員CPO(最高プロダクト責任者)を経て、2026年6月より専門役員 / Head of Product。

アクティブユーザー数国内No.1*の暗号資産取引サービス「Coincheck」などを展開。
*Sensor Tower社「APAC Awards 2025」ベスト暗号資産アプリ受賞
布目雅登(Komlock lab株式会社・代表取締役)
CryptoGames株式会社のToB事業部長を経て、2024年にKomlock lab株式会社を設立。ブロックチェーン×AI Agentが実現する新しい経済圏を目指す組織を率いる。2026年5月にPacific Metaグループへ参画し、AI Agent向けの自律決済基盤「Kova」をはじめ、その実現に向けて取り組んでいる。家では三つ子の父として睡眠を削られている。

「ブロックチェーン×AI Agent」が実現する、自律的な経済圏の創出を目指す組織。
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|文:小原 冬威(Komlock lab)
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