なぜアメリカは暗号資産を「禁止」ではなく「挑戦できるルール」へ変えようとしているのか【サンフランシスコ レポート】

エックスウィン アメリカマーケットリサーチアナリストのデリア・ロホです。

サンフランシスコから、今回は8月18日にSECが正式に提案した「Regulation Crypto Assets」と、その背景にあるアメリカの暗号資産政策についてお伝えします。

今回のSEC提案では、暗号資産プロジェクトが通常の証券登録とは異なるルートで資金調達できる新しい枠組みが示されました。Startup Exemptionでは最大4年間で500万ドル、さらにFundraising Exemptionでは12カ月で最大2,000万ドルのTier 1と、最大7,500万ドルのTier 2が設けられています。

このニュースを見たとき、私はとても「アメリカらしい」と感じました。

これは単なる規制緩和ではありません。「新しい産業にはリスクがある。しかし、リスクがあるから禁止するのではなく、挑戦できるルールを作る」という、シリコンバレーにも通じる考え方だからです。

「失敗」より「何に挑戦したか」を見る文化

私が住むサンフランシスコ周辺では、スタートアップが失敗すること自体は珍しくありません。

重要なのは、「何を作ろうとしたのか」「何を学んだのか」「次に何をするのか」です。

Google、Apple、Meta、NVIDIA、そして現在のAI企業。シリコンバレーでは、新しい技術が登場したとき、完璧な制度が完成するまで待つのではなく、起業家やエンジニアがまず挑戦し、その後に制度が整備されてきました。

今回のSEC提案にも、同じ思想を感じます。

Startup Exemptionは「自由にICOをしていい」という制度ではありません。トークンの供給、配分、ガバナンス、開発計画、リスクなどの情報開示が求められ、詐欺や市場操作への規制も残ります。

つまり、

「挑戦する機会は作る。しかし、投資家への説明責任も果たしてください」

という設計です。

そして資金調達額が500万ドル、2,000万ドル、7,500万ドルと大きくなるにつれて、監査や継続開示などの責任も重くなります。

「小さく挑戦する自由」と「成長した企業の責任」を段階的に設計しているのです。

成長したトークンをどう扱うのか

もう一つ重要なのがSafe Harborです。

ブロックチェーンの初期段階では、トークンの価値が創業者や開発チームの努力に大きく依存するため、その販売がHowey Test上の「Investment Contract」に該当する可能性があります。

しかしネットワークが成長し、ユーザー、開発者、バリデーター、コミュニティなどによって運営されるようになった後まで、同じ扱いを続けるべきなのか。

今回の提案では、一定条件を満たしてForm TRを提出することで、暗号資産を当初の投資契約から切り離せる可能性が示されています。

これは「規制から逃れるための分散化」ではなく、成長したネットワークを制度がどう評価するのか、という新しい考え方だと思います。

トランプ大統領の発言から見える「中国との競争」

そして、現在の変化はSECだけで起きているわけではありません。

トランプ大統領も、議会はCLARITY Actを可決する必要があるとの姿勢を示し、暗号資産分野で「米国が中国より先を行く」ことの重要性を強調しています。

ここが非常に重要です。

アメリカにとって暗号資産は、単なる投資商品の問題ではなくなっています。

AI、半導体、量子技術と同じように、「次の金融インフラをどの国が握るのか」という国家競争の問題になりつつあるのです。

規制が厳しすぎれば、企業、人材、資本は海外へ移ります。

だから現在の議論は、

「暗号資産を規制するか」

ではなく、

「イノベーションをアメリカ国内に残しながら、どう規制するか」

へ変わりつつあります。

DeFiも「排除」から「合法的に取り込む」へ

その変化を象徴するもう一つの動きがDeFiです。

CFTCのマイク・セリグ委員長は、Hyperliquidのような新しいオンチェーン市場についても、完全にコンプライアンスに準拠した合法的な形で米国市場へ取り込む方向性を示しています。

これは大きな変化だと思います。

「DeFiだから排除する」のではなく、「どうすればルールの中で利用できるのか」を考える。

SECのRegulation Crypto Assets、CLARITY Act、そしてCFTCの動きを合わせて見ると、アメリカの方向性はかなり明確になってきています。

CLARITY Actは「道路」を作る法律

ただし、今回のSEC提案だけですべてが解決するわけではありません。

Regulation Crypto Assetsは、既存の証券法の中でトークンによる資金調達やInvestment Contractの扱いを整理するものです。

一方、CLARITY Actは、SECとCFTCの管轄、取引市場、仲介業者、DeFiなどを含めた市場構造そのものを法律として整備しようとしています。

私は、

Regulation Crypto Assetsは「今ある法律の中で前へ進むための橋」。

CLARITY Actは「将来の暗号資産市場を走るための道路」。

そのように見ています。

アメリカが作ろうとしているもの

さらにトランプ大統領は、FRBに対して利下げを求め、強い経済成長そのものを理由に高金利を維持する考え方にも批判的です。

暗号資産政策とは別の問題ですが、根底には共通する考え方があります。

資本を動かし、企業の投資を促し、新しい産業をアメリカ国内で成長させたいという政策思想です。

もちろん、今回のSEC案はまだ提案段階であり、CLARITY Actも成立していません。

それでも、SECが新しい資金調達の道を作り、CFTCがDeFiを合法的に取り込む方法を模索し、ホワイトハウスが暗号資産を中国との競争を含む国家戦略として語り始めている。

これらを一つの流れとして見る必要があります。

サンフランシスコでは、新しい会社が生まれては消え、また新しい会社が生まれます。その繰り返しの中から、世界を変える企業が生まれてきました。

暗号資産やブロックチェーンも、いま同じような段階に入っているのかもしれません。

規制とは、イノベーションを止めるためだけにあるものではありません。

「挑戦できる場所を作りながら、社会を守る」。

いまアメリカが暗号資産で作ろうとしているのは、まさにそのための新しいルールなのだと思います。

デリア・ロホ
エックスウィン アメリカマーケットリサーチアナリスト

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