IVS2026 CRYPTO ZONE Powered by NADA NEWSで7月3日、パネルセッション「日本は再び『Crypto先進国』になれるか──暗号資産取引所とクリプト市場の次の戦略は」が開催された。

登壇したのは、Binance Japan前代表の千野剛司氏、ビットバンク代表取締役社長CEOの廣末紀之氏、HODL1(旧クシム)代表取締役の田原弘貴氏。NADA NEWS記者の栃山直樹がモデレーターを務めた。
議論の中心になったのは、SBIグループの完全子会社となることを発表したばかりのビットバンクだ。資金決済法から金融商品取引法(金商法)への移行、分離課税、取引所再編が見えてくるなか、廣末氏は「クリプト単品」で事業を続ける限界と、SBIグループ入りを選んだ理由を語った。
ビットバンクはなぜSBIグループ入りを選んだのか

ビットバンクは6月25日、SBIグループの完全子会社化に向けた契約を締結したと発表した。8月ごろに株式譲渡を実行し、10月ごろには完全子会社化の手続きを終える見通しだ。
セッション冒頭、廣末氏はSBIグループ入りを発表した現在の心境について、「これからどうなるか、僕もよく分かっていない」と率直に語った。そのうえで、創業者 北尾吉孝氏の著書を読みながら、SBIグループの考え方を学んでいる最中だと明かした。
SBIグループ入りの背景には、金商法移行に伴う事業環境の変化がある。廣末氏は「クリプト単品でやってきましたが、やはりクリプト単品というのは、残念ながらちょっと限界がある」と述べ、暗号資産取引所だけで事業を広げていく難しさを指摘した。
金商法移行によって、取引所にはこれまで以上に高度な規制対応やシステム投資、人材確保が求められる。暗号資産を金融サービスとして広げるには、銀行や証券など既存金融の機能を持つグループとの接続が重要になるという。SBIグループ入りは、そのための選択だったという。
クリプト側から金融へ入っていくアプローチもあるが、日本では市場が小さすぎてリソース面で難しい。一方、銀行や証券などの金融機能を持つグループが暗号資産やオンチェーン金融に入ってくる方が、リソース面では圧倒的に強いという。
そこで廣末氏が挙げたのが、SBIグループだった。銀行や証券を含む金融機能に加え、北尾氏のトップダウンによる推進力にも触れた。ビットバンクが加わることで、SBIグループは暗号資産の流通局面でも有利なポジションを取れる。廣末氏は、両者にとって合理的な判断だったと説明した。
ただし、独立系として2014年からビットバンクを運営してきた廣末氏にとって、子会社化は簡単な決断ではなかった。廣末氏は「独立系で突っ張るという選択肢もあった」としたうえで、「可能であれば、それをやりたかった」と明かした。
それでも、判断の軸に置いたのは、株主、顧客、社員への責任だった。廣末氏は、社員には「一番いいコンディションで仕事をさせたい」、顧客には「今までできなかったサービスを提供してあげたい」。そのうえで「僕個人の話は、経営者としては一番後ろになる」と述べ、ステークホルダーへの責任を優先した判断だったと語った。
今後について廣末氏は、まず管理部門やシステムなど、利用者から見えにくい部分の統合から進むとの見通しを示した。廣末氏は「管理部の共通化とか、システムの共通化とか、そういうところをやりやすいところのPMI(M&A 成立後に行われる統合プロセス)から入る」と説明した。
金商法移行後、暗号資産取引所は生き残れるか

Binance Japanをめぐっても、セッション直前に大きな動きがあった。Binance Japanは6月30日、7月1日付で経営体制を変更し、豊崎亜里紗氏がゼネラルマネージャーに就任すると発表した。千野氏は代表取締役を退き、名誉会長兼取締役に就任している。
千野氏は、今回の交代について「4年の区切り」と表現した。前職のKrakenでも日本代表を4年務め、Binanceも2022年から4年。「ワールドカップとかオリンピックとか、同じ周期です」と笑いながら語った。
「一旦ちょっと一歩下がって、どこに自分の身を置くのが、今後のブロックチェーン金融の発展に一番変化率が高いのかを見てみようかなと思った」
外資系企業で働きたいからこの業界にいるわけではないとも話した。海外のリソースや新しいプロダクトを日本市場に持ち込み、国内市場に刺激を与える。それが自身の立ち位置だったという。
ただ、今の日本市場には危うさもあるとみる。金商法移行によって規制要件は厳しくなり、信頼を高める機会にはなる。一方で、コンプライアンスコストや人材確保の負担は重くなる。その先にあるのが、証券会社の一部門としてビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、エックス・アール・ピー(XRP)だけを扱うような市場だとすれば、それは少し違う。千野氏は、クリプト側からもっと面白いアプローチを出していく必要があると語った。
金商法移行は「小学生に大学受験を求めるようなもの」
金商法移行について、廣末氏は業界が求めてきた分離課税と不可分だったと説明した。「僕らは何年も、分離課税にしてほしいと言ってきた。分離課税は税制上の特別な措置であり、投資対象として位置付けられなければ実現しない。だから、金商法の枠組みを作らなければ分離課税にはならないということで、セットのルールになった」と語った。
一方で、金商法移行に伴う事業者側の負担は大きい。廣末氏は「皆さんが思っている以上に、金商法は厳しい」としたうえで、「営業部門、コンプライアンス、システムなど、いろいろなところでやり方を変えなければならない。さらに、AIが出てきたことでサイバーセキュリティは機械対機械の世界になっていく。金融特有のセキュリティ対応もあり、PQC(耐量子計算機暗号)の話もある。体制だけではなく、全面的に強化しなければ、暗号資産取引所はやっていけない」と述べた。
また、千野氏は、税制改正という業界の悲願を達成するためのパッケージであることには理解を示しつつも、金商法の全面適用には慎重な議論が必要だったとみる。「今のままフルに適用されると、立っていられない会社も出てくる。いきなり金商法を適用するのは危険であり、段階的な適用が必要ではないかと政治側にも伝えていた」と明かした。
ただ、政治側の受け止めは厳しかったという。廣末・千野両氏は「分離課税という果実だけを取り、規制対応の負担を負わないのは筋が通らないという考え方だった」と説明。そのうえで、「その考えはよく分かるが、小学生に大学受験を求めるようなもので、現実には難しい。よりバランスの取れた解決策があったのではないか」と語った。
廣末氏は今年1月、金商法移行を背景に、フルサービスを提供する「総合交換業」は最終的に5〜6社程度に絞られるとの見通しを示していた。今回のセッションでは、その見方について改めて理由を問われ、規制業種である以上、各社が提供できるサービスには大きな差が出にくいと説明した。
そのうえで廣末氏は、顧客から見ても、一定の体制や機能を備えた事業者に集約されていく方が合理的だとの考えを示した。金商法移行に対応できない事業者が出れば、業界全体の信頼を損なう事故につながる可能性もあるとして、取引所再編は避けにくいとの見方を示した。
これから参入する事業者は何をすべきか

HODL1の田原氏は、オンチェーン金融の可能性について語った。田原氏が注目するのは、日本国内に閉じたままになっている資産だ。田原氏は、オンチェーン金融の特徴について、不動産やIP、インフラ、CO2クレジットなどの資産について、権利や収益の一部を切り出し、トークンとして流通させられる点にあると説明。「日本の持っているアセットは、規制などによって閉じてしまっているがゆえに過小評価されている。そこがオンチェーン金融に乗ることによって、正しく評価される」と語った。
日本が再びクリプト先進国になれるかという問いに対しても、クリプトを軸に日本の資産そのものが評価される世界はあり得るとの見方を示した。
では、金商法移行後の暗号資産市場で、これから参入する企業や事業者は何をすべきなのか。
千野氏は、新たな規制要件にどう適応し、質の高いプロダクトを早く投入できるかが重要になると指摘し、市場のルールが変わるなかで、その変化を早く理解したプレイヤーが勝ち残るとの見方を示した。
田原氏も、HODL1自身が挑戦する立場にあるとしたうえで、規制に合わせながらも、クリプトの自由さを生かすことが重要だと語った。
廣末氏は、暗号資産の使い道を「掛け算」で考える必要があると話した。
「AI×クリプトでもいいし、IT×クリプトでもいい。そういう掛け算の中でビジネスを構想するのがいいんじゃないか」
暗号資産は、AI時代や機械化経済の中で欠かせない要素になる。一方で、規制が強化されるなかでは、クリプト単品の事業は厳しくなる。廣末氏は、暗号資産を単独で捉えるのではなく、別の領域との組み合わせの中で事業を考える必要があると語った。
|取材・文・撮影:NADA NEWS編集部


