IVS2026 CRYPTO ZONE Powered by NADA NEWSで7月2日、パネルセッション「トークン化MMFから始まる金融の再構築──『ウォール・ストリート2.0』は日本でも実現するか」が開催された。
登壇したのは、ブラックロック・ジャパン/ブラックロック・グローバル・マーケッツ部長の田中勇毅氏、フランクリン・テンプルトン・ジャパン Directorの湯浅光則氏、野村アセットマネジメント 執行役員の野本裕一氏。Solana Superteam Japan共同代表の佐藤茂氏がモデレーターを務めた。

議論は大きく2つの軸で進んだ。ビットコイン現物ETFをはじめとする暗号資産ETFと、ブラックロックの「BUIDL(ビドル)」、フランクリン・テンプルトンの「BENJI(ベンジ)」に代表されるオンチェーン資産運用商品だ。
暗号資産ETFはDeFiとTradFiを融合させる

暗号資産現物ETFの純流入額は、現時点で約800億ドル(約13兆円)にのぼる。この数字を起点に、金融商品そのものをブロックチェーンに載せる動きが日本でも広がるのかが話し合われた。
田中氏がまず挙げたのは、米国で承認された暗号資産現物ETFの功績だ。
「DeFi(分散型金融)とTradFi(伝統金融)をつなげた。これが一番大きい」
これまで暗号資産は、DeFiやオンチェーン上で扱われる資産という見方が強かった。TradFiの投資家は証券口座を通じて株式や債券、ETFに投資してきた。両者の間には壁があった。
暗号資産現物ETFの登場で、その壁がなくなった。投資家は通常の証券口座から暗号資産に触れられるようになった。

一方で、野村グループは、2018年頃からBOOSTRY(ブーストリー)やKomainu(コマイヌ)、Laser Digital(レーザーデジタル)などを通じ、デジタル資産市場のインフラ整備を進めてきた。
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野本氏も、日本での有望さに触れた。ETFや投資信託を通じた暗号資産投資は、TradFiの資産との分散効果や長期的な値上がり益を狙ううえで、ポートフォリオの一部として提供する余地があるという。
ただし暗号資産はリターンの源泉が分かりにくく、流出リスクもある。そのため「従来の投資信託やETFとは異なる説明が必要」と語った。
暗号資産ETFの登場の時期にも話が及んだ。金融庁は、暗号資産の税制改正とETF解禁を2028年1月に同時施行する方向で調整を進めている。
これについて野本氏は「暗号資産ETFについては金融庁と話していて、2028年ぐらいから登場できるかなという形です。投資信託はもう少し早いかもしれません」とコメントした。
日本で暗号資産ETFが解禁されれば、米国上場のブラックロックのビットコインETFなどを個人投資家が買えるのか。この質問に田中氏は、取り扱いは証券会社次第としつつ、法令上は購入できる状況になり、税制も国内上場商品に近い形になるとの見立てを示した。
海外の低コストで大規模なETFが日本に入ってくれば、国内運用会社にも競争力が求められる。野村アセットでは、金や原油といった非伝統的資産のETFで先物を使ってきた実績がある。これに対し、野本氏は、ETFでは先物を使う形、投資信託では現物の暗号資産を組み入れる形を両にらみで検討していると明かした。
トークン化MMFは金融商品を「ソフトウェア」に変える

暗号資産ETFは、オンチェーン上の資産をTradFiの投資家に開く入口になった。その先で論点になるのが、BUIDLやBENJIのように、金融商品そのものをオンチェーン化する動きだ。
BENJIは、MMF(マネー・マーケット・ファンド)をトークン化した商品で、BUIDLも短期米国債や現金、レポ取引などを裏付けにドル建て利回りを得るトークン化ファンドとして展開されている。1トークンおよそ1ドルという点はステーブルコインと同じだが、利回りが付く点が違う。数年前には「ステーブルコイン2.0」とも呼ばれていた。
フランクリン・テンプルトンの湯浅氏は、MMFを「資産運用会社にとって最も退屈な商品の1つ」と表現した。90日以内の短期米国債などで運用し、預金よりも少し高い金利を得る商品で、元本保証ではないものの、同社では50数年にわたり元本割れを経験していないという。
同社は、米国政府短期証券などに投資するMMFをオンチェーン化し、そのトークンを「BENJI」として展開している。
湯浅氏によると、当初の狙いはバックオフィス業務のコスト削減だった。だが実際に取り組むなかで見えてきたのは、金融商品がブロックチェーン上で「ソフトウェア」に変わるという発見だった。
「一番退屈な商品が、ソフトウェアに変わった」
湯浅氏はそう振り返った。ブロックチェーンに載せることで、金融商品がプログラマブルになるという。
これまでの金融商品は、1日単位でしか保有記録が残らなかった。しかしBEIJIについて湯浅氏は「1秒、持ってた瞬間までは私の金利、この1秒から先は田中さんの金利というふうに、ギリギリのところまで金利が付けられる。それも支払いできる。これが、ブロックチェーンの威力だな」と語った。
日本企業にとっても、トークン化MMFの需要は見込まれるという。円安への備えやドル資産の保有に加え、国内企業同士の取引でも海外企業とのやり取りでドル建ての支払いが発生することがある。1〜2週間程度の保有なら、わずかでも金利が付くトークン化マネーファンドの方が資産運用の効率は上がる。湯浅氏は、日本市場でもこうした需要は伸びるとみている。
同じ発想はブラックロックにもある。田中氏によれば、「BUIDL」の背景にあるのも、すべての資産がいずれオンチェーン化されるという見立てだ。オンチェーン上の資金が増えれば、それを有効活用したい投資家が出てくる。そうした投資家に運用商品を提供するのが、資産運用会社の役割だと田中氏は語った。
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現在、BENJIの利用者はオンチェーンネイティブの投資家が多いというが、今後は機関投資家やTradFiの投資家も利便性に気づき、オンチェーン側に移ってくる可能性があるという。ステーブルコイン、トークン化預金、トークン化MMFが、利用者のニーズに応じて行き来する。そうした形で、金融のオンチェーン化が進むと湯浅氏はみている。
日本がウォール・ストリート2.0を実現するために

では、今後3〜5年で日本版「ウォール・ストリート2.0」を実現するうえで、どの業界が引っ張っていくのか。
田中氏が挙げたのは「決済」だった。オンチェーン金融が広がるには、お金がしっかり回る基盤が必要になる。田中氏は、金融の中心には銀行があり、その周囲に証券会社や資産運用会社、信託銀行が連なるとの見方を示した。ステーブルコインやトークン化預金、CBDCといったデジタルマネーが日本で広がるかどうかが、次の金融インフラを左右するという見方だ。
湯浅氏も、3〜5年の時間軸では銀行が先導役になるとみる。日本では不動産セキュリティトークンが先行してきたが、これは世界的に見ると例外的な動きだという。海外では決済・送金や機関投資家向けの領域でトークン化が進んでおり、日本でもまず大手銀行や一部の地域金融機関が決済・送金領域を引っ張り、その先に証券会社や資産運用会社がリテール向けの商品を広げていく流れを想定している。
一方、野本氏は、オンチェーン化の波は一方向には進まないと指摘した。ファンドそのものをオンチェーン化する流れと、投資対象である株式や債券をオンチェーン化する流れがある。さらに国内と海外という軸も重なるため、すべての領域で同時に変化が起きるわけではない。伝統的な金融機関と新興企業が組み、ステージごとにリーダーが変わりながら、市場が形づくられていくという。

では、日本がウォール・ストリート2.0を実現するために、いま何をすべきなのか。
田中氏が引き合いに出したのは、サッカー日本代表だった。かつて海外でプレーする選手は数人に限られていたが、いまでは主力の多くが欧州など海外でプレーしている。幼少期からの育成を国として積み重ねてきた結果、日本代表は着実に強くなった。
金融も同じだという。
「コツコツやるしかないのかなと思っているんです」
田中氏は、金融機関がユーザーにとって使いやすいものを、1つずつ作っていくことが重要だと語った。利用者にとっては、裏側の技術がブロックチェーンかどうかは本質ではない。より使いやすいサービスを選んだ結果、その基盤にトークン化やブロックチェーンが使われている。そうした体験を積み重ねることが、日本を前に進めると語った。
|取材・文・撮影:平木 昌宏



