米財務省、ステーブルコインの新規制案を発表──利回りを巡る銀行との対立と法案の動向【MCB FinTechカタログ通信】

2026年4月8日、米財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)と外国資産管理室(OFAC)が、ステーブルコイン発行者を対象とした資金洗浄およびテロ資金供与対策(AML/CFT)に関する規則案を発表しました。

今回は、この発表の詳細と、背景にある法整備の状況、および米国金融業界の動向について解説します。

※本記事の内容は、マネックスクリプトバンクが週次で配信している、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレター「MCB FinTechカタログ通信」の抜粋です。マネックスクリプトバンクが運営する資料請求サイト「MCB FinTechカタログ」にて、過去の注目ニュース解説記事を公開していますので、ぜひご覧ください。

GENIUS法による基本要件と利回りの禁止

今回の規則案は、2025年7月18日に米国で成立したステーブルコイン規制の枠組みである「GENIUS法」に基づくものです。同法は、ステーブルコインが米ドルや流動性の高い資産によって1対1で裏付けられることを義務付けています。また、一定の要件を満たす大規模な発行者に対して、監査を含む開示・報告義務を課しています。

ステーブルコインは、法定通貨と価値が連動するように設計された暗号資産です。決済や送金の効率化が期待されますが、伝統的な金融システムと接続する特性から、不正資金の利用を防ぐコンプライアンス体制が求められています。

現在、米国ではGENIUS法に続き、「CLARITY法」の議論が続いています。CLARITY法は暗号資産に関する規制管轄を明確化し、取引所をはじめとする市場参加者に向けたルールを包括的に定める法案です。GENIUS法においてすでに発行者による利回りの支払いは禁じられているため、現在の議論の焦点は、取引所や関連会社などの「発行者以外の仲介者」を通じた報酬・利回りスキームをどこまで認めるか、あるいは規制対象とするかに移りつつあります。

コンプライアンス期限に向けた動向の詳細

米財務省の発表によると、今回の規則案は、GENIUS法で定義される「許可された決済用ステーブルコイン発行者(PPSIs:Permitted Payment Stablecoin Issuers)」に対し、リスクの特定と軽減措置を含むAML/CFTプログラムの構築を義務付けるものです。また、OFACは有効な制裁遵守プログラムの整備と維持を求めています。

この動きは、2027年1月に設定されているGENIUS法の発効・コンプライアンス期限に向けた規制整備の一環です。FinCEN やOFACの他にも同様の動きが見られ、4月7日には、連邦預金保険公社(FDIC)が準備資産や資本に関する規則案を公表しています。同案では、準備金として保有される預金へのパススルー保険の適用や、法令上の「預金」に該当するトークン化預金の扱いについても整理が示されています。さらに、通貨監督庁(OCC)も国法銀行の子会社などを対象とした規則案を公開しています。

仲介者利回りを巡る影響試算と業界の懸念

規制当局がルール整備を進める中、仲介者を通じたステーブルコインの利回りを巡る議論についても激化しています。4月8日、ホワイトハウスの大統領経済諮問委員会(CEA)は、ステーブルコインの利回り禁止が銀行融資に与える影響は限定的であるとするレポートを発表しました。

同レポートは、利回りを禁止した場合の銀行融資の増加額は約21億ドル(総融資額の0.02%)にとどまると試算しています。発行者が保有する準備金の大半は米国債や銀行預金として金融システム内に還流するため、実体経済の信用創造への影響は少ないと結論付けています。

これに対し、銀行業界は強い懸念を示しています。独立地域銀行協会(ICBA)は、ステーブルコインの利回りが認められた場合、最大1兆3000億ドルの預金喪失と8500億ドルの融資減少を引き起こすリスクがあると警告しています。

考察

米国の投資銀行であるTD Cowenは、ホワイトハウスのレポート結果を受けて、CLARITY法の成立がより困難になる可能性を指摘しています。The Blockの報道によると、TD Cowenは、今回のレポートが銀行業界ではなく暗号資産業界に近い見方を示したことで、ステーブルコインの利回りを巡る妥協余地がむしろ狭まり、CLARITY法の成立に向けた道筋は一段と厳しくなる可能性があると分析しています。

銀行業界がステーブルコインを預金流出の要因と見なす限り、利回りの扱いを巡る対立はなお続く可能性が高く、法案審議の不透明感は当面残りそうです。

今回の規則案発表により、コンプライアンス面でのルール整備については前進したといえるでしょう。今後は、銀行預金とステーブルコインの競合という金融構造に関わる課題に対し、米国議会がどのような着地点を見出すのか、引き続き動向を注視する必要があります。

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