SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長が19日、「SBIネオメディア生態系」の戦略説明会に登壇し、「感情経済圏」というキーワードを掲げた。
金融、IT、さらにはAI、ブロックチェーンを軸に「経済合理性」を徹底して追求してきた印象の強い北尾氏だが、今回のプレゼンでは、「共感」「熱狂」「感動」といったエモーショナルな面を繰り返し強調。スポーツ、音楽、都市開発、メディアを組み合わせた新たな経済圏構想を語った。
北尾氏は冒頭、自身が近年、行動経済学や心理学に関心を持つようになった経緯を説明。従来の経済学は「人は合理的に行動する」という前提で組み立てられてきたが、実際の経済行動は「感情」や「心理」に大きく左右されると述べた。
「我々(SBI)の価値観は、経済学を中心に形成されていた。しかし実際の経済判断は、もっと心理学的要素、つまり感情などが反映されている」
その上で、「自ら生態系を作らないと駄目だと考えるに至った」と語り、金融とメディア、ITを融合させた構想へとつながったと説明した。
「熱狂」を自身で体験

プレゼンでは、先日、大きな注目を集めたボクシング・井上尚弥選手の試合や、韓国の人気グループBLACKPINKの東京ドーム公演に触れる場面もあった。
北尾氏は、井上選手の試合について、「熱狂とはどういう状態なのかを初めて強く認識した」と振り返った。会場を埋め尽くした観客の熱気や、全国・世界への配信による圧倒的な拡散力を実感し、「感動」や「熱狂」が巨大な経済効果につながることを認識したと述べた。
BLACKPINKの東京ドーム公演についても、「3日間連続即完売」に触れ、「こうした感性が消費行動や経済行動に大きな影響を与える」と指摘。
「経済の世界では、プロダクションをやり、プロモーションをやり、販売をする。しかし、この世界とは全然違う。これを取り入れないことには将来はないと確信した」
こうした体験を通じて、「感情経済圏」という考え方が強まったという。
金融×メディア×AI×ブロックチェーン

SBIネオメディア構想では、金融サービスだけでなく、メディア、SNS、エンターテインメント、地域開発などを横断的につなぎ、「共感」や「信頼」を起点にした経済圏形成を目指す。説明会では、ライブドアを含むメディア群、エンタメ関連企業、スポーツ・イベント事業、地域創生プロジェクトなどを組み合わせた構想が示された。
北尾氏は、ライブドアについて「日常的に接触するメディア」を探した結果だとも説明。3月の構想発表時には「まだミッシングピースがあった」と語り、ライブドアの参加によって、金融経済圏と日常接触型メディアを結びつける構想がより具体化したと説明した。
さらに、AIやブロックチェーン技術も重要な基盤として位置づけられた。
北尾氏は、AIによる情報収集・分析・ファクトチェックの必要性を強調。「メディアは信用プラットフォームとして価値を持たなければならない」と述べた。
また、ブロックチェーンについては、コンテンツのトークン化や収益分配への活用可能性に言及。「ユーザーがコンテンツに直接投資できる世界になる」と説明した。
ステーブルコインにも触れ、SBIグループとして6月までに信託型の円建てステーブルコインを発行予定であることを改めて説明。「100万円制限がいかに邪魔になっているか」と述べ、大口決済などへの利用拡大に期待を示した。
「金融を超え、顧客の人生に寄り添う」
今回の説明会で特徴的だったのは、従来の金融機関的な「効率性」「利便性」だけではなく、「感動」「熱狂」「共感」といったエモーショナルな価値を前面に押し出した点だ。
SBIグループはこれまで、ネット証券やネット銀行、暗号資産、ブロックチェーンなど、合理性やテクノロジーを武器に拡大してきた。一方、今回のネオメディア構想では、エンターテインメントや都市開発、地域創生まで取り込み、「感情」を起点にした新たな経済圏形成を打ち出している。
北尾氏は最後に、「SBIグループは金融を超え、顧客の人生に寄り添う存在を目指す」と語った。合理性を追求してきた北尾氏が、感情や熱狂の力を語る──。今回のプレゼンは、SBIグループの変化を象徴する場面だったのかもしれない。
|文・撮影:増田隆幸



