DTCC、米国証券のトークン化サービスを2026年10月リリースへ──Canton Network採用と「Tokenized Entitlement」の仕組み【MCB FinTechカタログ通信】

2026年5月4日、米国の中央証券保管機関であるDTCC(Depository Trust & Clearing Corporation)が、子会社のDTC(Depository Trust Company)が開発するトークン化サービスの進捗を発表しました。発表されたのは、50社超のワーキンググループの陣容と、段階展開のスケジュールです。

2026年7月から限定的な本番取引を開始し、10月に広範な提供を開始する計画です。今回は、DTCに保管されている米国証券をブロックチェーン上で扱えるようにする仕組み、技術基盤として採用されたCanton Network、対象資産の範囲などについて解説します。

※本記事の内容は、マネックスクリプトバンクが週次で配信している、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレター「MCB FinTechカタログ通信」の抜粋です。マネックスクリプトバンクが運営する資料請求サイト「MCB FinTechカタログ」にて、過去の注目ニュース解説記事を公開していますので、ぜひご覧ください。

「保管中の証券」をどうトークン化するか

米国の上場株式・ETF・米国債といった証券のほとんどは、投資家自身が現物を手元で保有しているわけではありません。投資家が証券会社の口座に保有している株式の実体は、DTCのような中央証券保管機関が一括して保管しています。各金融機関には、書面記録(book-entry)として権利が割り当てられる仕組みで運用されています。DTCは約140万銘柄の証券を取り扱っており、米国市場の決済・保管インフラの中核を担っています。

こうした既存の証券をブロックチェーン上で扱えるようにするアプローチには、大きく2つの方向性があります。1つ目は、ブロックチェーン上で新しく証券をネイティブに発行する方式です。本ニュースレターで以前取り上げたFigure Technologyの「OPEN」はこちらに該当し、独自のブロックチェーン上に株式を直接登記する設計です。

2つ目は、既存の書面記録で管理されている証券をそのまま土台としつつ、その権利を表すトークンをブロックチェーン上に発行する方式です。今回DTCが進めているのは後者で、参加者が保有する証券への権利(security entitlement)を、選択的に「Tokenized Entitlement(トークン化された権利)」に変換できるようにする仕組みとなっています。

既存の証券インフラには、機関投資家保護の枠組みや破綻時の権利保全、配当処理、税務処理など、長年積み上げられてきた制度的な仕組みが組み込まれています。新しく独立したブロックチェーンに証券を移すと、これらの制度的保護をゼロから整備し直す必要があるため、DTCは既存の枠組みを維持したまま、その上にトークン化レイヤーを重ねる設計を選んでいます。

DTCトークン化サービスの仕組みとCanton Networkの採用

トークン化の流れは、DTCが運営する2つの記録システムの間での証券の移動として整理されています。参加者がトークン化を申請すると、DTCはその参加者の通常の口座から対象証券をデビット(引き落とし)し、新たに設けた「Digital Omnibus Account」と呼ばれる集合勘定にクレジットします。

この集合勘定は、ブロックチェーン上に発行されているすべてのトークンの裏付け証券を、まとめて保管する役割を担います。集合勘定への振替と同時に、参加者がDTCに登録したブロックチェーン上のウォレット(Registered Wallet)に対応するトークンが発行され、参加者同士はDTCを経由せず24時間ウォレット間で直接トークンを移転できる仕組みです。

トークンの送り先はDTCに登録されたウォレットに限定され、誤った記録を訂正できる仕組みも組み込まれています。これは「コンプライアンス対応型のトークン化」と説明されており、伝統的な証券インフラの規律をブロックチェーン上でも維持するための設計です。

公式の帳簿はブロックチェーンそのものではなく、「LedgerScan」と呼ばれるオフチェーンのクラウド型システムに置かれます。LedgerScanは複数のブロックチェーン上のトークンの動きを準リアルタイムで読み取り、その記録がDTCの公式記録として扱われる構造です。

技術基盤としては、Digital Asset社が開発する「Canton Network」が採用されています。Canton Networkは、DTCCもSuper Validatorとして参加しているパブリックブロックチェーンで、機関投資家向けに取引情報のプライバシー制御とコンプライアンス対応を組み込んでいる点に特徴があります。

また、DTCCは2025年12月にDigital Assetと正式に提携し、Canton Foundationの共同議長として、欧州の中央証券保管機関であるEuroclearと並んで業界標準の策定に関与する立場となっています。最初のトークン化対象には米国債が選ばれ、Canton Network上での発行から段階的に運用が開始される計画です。

SEC no-action letterと50社超のIndustry Working Group

今回のサービスは、SEC(米国証券取引委員会)の取引・市場部門が2025年12月11日付でDTCに対して発出したno-action letterによって規制上の道筋がつけられています。これは特定の条件のもとであれば、3年間に限ってDTCに対するエンフォースメントを推奨しないとする立場表明で、対象資産・対象参加者・対象ブロックチェーンに制限を設けた限定的なパイロットの位置づけです。

SECで暗号資産タスクフォースを率いるヘスター・パース委員は、no-action letterの発出にあわせて公表した声明で、これを「市場のオンチェーン化に向けた重要な一歩」と位置づけ、トークン化の代替モデルについても引き続き対話していく姿勢を示しました。

対象となる証券は3つの分類に絞られています。Russell 1000指数の構成銘柄、S&P 500やNasdaq-100など主要指数に連動するETF、米国債(bills、bonds、notes)です。米国の税源泉徴収義務やTreasury International Capitalの報告義務を負うDTC参加者は対象外とされるなど、参加者についても絞り込みが行われています。誤記訂正の手段確保や、SECスタッフへの四半期報告も条件として課されています。

ワーキンググループには、伝統的金融と暗号資産インフラの双方の主要企業が参加しています。伝統的金融からはBlackRock、Goldman Sachs、JPMorgan、Morgan Stanley、Charles Schwab、Nasdaqなどが、暗号資産インフラからはAnchorage Digital、Circle、BitGo Bank & Trust、Citadel Securities、Ondo Financeなどが含まれており、両領域あわせて50社超が参加しているとされています。

段階展開のスケジュールとしては、2026年7月の限定的な本番取引から始まり、10月の広範な提供開始を経て、3年間のパイロットとして運用される予定です。最初のトークン化対象は米国債とされており、Canton Network以外の対応ブロックチェーン拡大や、Russell 1000構成銘柄・ETFへの対象拡張は、市場の需要を踏まえながら段階的に進められる計画となっています。

考察

DTCのトークン化サービスは、これまでブロックチェーン領域で試みられてきた「既存の証券インフラを置き換える」アプローチではなく、既存の中央集権的な保管・決済インフラを維持したまま、その上に選択的にトークン化レイヤーを重ねる設計となっています。Figureの「OPEN」が独自のチェーン上に株式を直接発行する方向性とは、構造的に異なる選択肢といえます。

もう一つの論点は、トークン化基盤の運営体制です。Canton Foundationの共同議長としてDTCCが欧州中央証券保管機関であるEuroclearと並んだことで、米国と欧州の中央証券保管機関が同じ技術基盤の運営に関与する形となります。グローバルな証券決済の領域で、トークン化のための共通インフラが今後どのように整備されていくかが論点です。

一方、海外の他の金融機関や民間取引所も独自にトークン化基盤の検証を進めており、複数の標準が並列して進む状況が当面続くと考えられます。Canton Networkがどこまで「機関投資家向けトークン化基盤の事実上の標準」となれるかは、対象資産の拡張ペースとパブリックチェーンとの相互運用性をどう設計するかに依存することになりそうです。

国内に目を向けると、証券保管振替機構と日本証券クリアリング機構が中心となる既存の決済インフラに加え、ProgmatやJPX総研の主導で、有価証券のトークン化(セキュリティ・トークン)の枠組みづくりが進んでいます。既存の保管インフラを起点として段階的にトークン化を進めるDTCCのアプローチは、長年蓄積された制度的保護を維持したまま移行できる点で、日本国内でも一つの参照モデルとなりうると考えられます。

直近の論点としては、2026年7月の限定本番取引でどの程度の取引量・参加者規模で開始されるか、また3年のパイロット期間中に対象証券の範囲がどこまで拡張されるかが注視されます。SECのno-action letterはあくまで「特定の条件下では当面のエンフォースメントを見送る」という限定的な許諾であり、本格的な制度整備に向けては、SECやその他の規制当局による正式なルールメイキングが今後の焦点となるでしょう。

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