ゴールデンウイークに、漫画「銀と金」を読み返していた。
「カイジ」で知られる福本伸行さんの作品だが、その中にギャンブラーの心理を突いたシーンがある。
裏社会で生きる平井銀二が、競馬狂いの青年に「全通りの馬券を買って、大量のハズレ馬券を見せつける」ことで、ギャンブルがいかに分の悪い勝負かを説く場面だ。
青年が「いや、現に今日は少し勝った」と言い返すと、銀二は尋ねる。
「じゃあ昨日はどうだったんだ?」
青年は「昨日は〇十万負けた」と答える—。
トータルで見れば大負けしている現実から目を背け、今日の小さな勝ちがもたらす快感を語る。これこそが、ギャンブルにのめり込んだ人間の心理だ。
私自身もかつてパチンコやスロットにハマった時期がある。
お金が減る恐怖と、当たった瞬間、脳を刺す高揚感。ギャンブルがいかに人間に誤った判断をさせるか、私は身をもって知っている。
欲望が交錯する「賭場」
いま、Web3界隈では予測市場に火がついている。
大統領選挙の行方から「テイラー・スウィフトが2027年までに妊娠するか?」といった下世話な事象にまで数億円もの資金が飛び交い、市場規模は年間50兆円に達する勢いだ。

このコラムを執筆している最中にも、分散型取引所のHyperliquid(ハイパーリキッド)が予測市場をローンチしたというニュースが飛び込んできた。
日本でも、NADA NEWSで取材したgumiのように、賭博罪に抵触しない枠組みで市場を立ち上げようとする動きが活発化している。
また、暗号資産系インフルエンサーの全力さんがPolymarket(ポリマーケット)へ「Betting(賭け)なし・View Only(見るだけ)」での日本展開を目指して参画を発表するなど、日本のルールに準じた関わり方の模索も進む。さらに、国会で話題に上るまでになった。
ギャンブルとしての熱狂にとどまらず、予測市場がこれほど注目される理由がある。
それは「参加者が自分のお金を賭けることで情報収集に真剣になり、結果、精度の高い『集合知』が形成される」と考えられているからだ。
このデータが、社会の意思決定やビジネスの役に立つと期待されている。
しかし、元ギャンブラーの視点から言わせてもらえば、この意見に100%の賛同はしづらい。
自腹を切ることで人間が合理的な予測ができるようになるなら、ギャンブルは成立しない。現実は逆だ。
金がかかっているからこそ、人は「銀と金」の青年のように負けの記憶を消し去り、「一発当てたい」欲で判断を誤る。
大勢の人間がバイアスにまみれた不合理な予測に資金を投じるからこそ、オッズが動き、市場が熱狂する。
予測市場の熱狂の本質は、人間の欲望が交錯する「賭場」であると筆者は見る。
必然、賭け要素のない予測市場には違和感の声が上がる。
KobaraさんはXで、リスクを背負って自身の判断を市場に反映させる「参加」にこそ真の価値があると指摘した。この主張は、元ギャンブラーの私から見てもとても腑に落ちる。
身銭を切らない予測市場に熱狂は生まれるか
だからこそ、日本のルールに合わせて賭け要素を排除した予測市場が、これからどう広がるのかはとても興味深い。
先日取材した、gumi「ヨソクヒロバ」のプロジェクト担当者の口からも、取材中にギャンブル界隈特有の「脳汁(のうじる)」というワードが飛び出した。
その瞬間、私は彼がパチンコ「海物語」の魚群や、スロット「北斗の拳」の中段チェリー(マニアックですいません…)がもたらす、あの「分かる人には分かる感覚」を知る側の人間だと悟った。
彼自身もギャンブルの熱狂を知っているからこそ、言葉の端々からは「本当は完全版ポリマーケットをやりたいんだろう」という本音が透けて見えた。
仕掛ける側も、身銭を切るリスク&リターンの熱狂を知っている。
射幸性を排除した予測市場にどう人を惹きつける動機を作るのか、彼ら自身も答えを探し、模索している最中なのだろう。
でも、その未知数こそが面白いし、ビジネスとして見れば激アツな領域に違いない。
現在、ポリマーケットへの参画を発表した全力さんへ取材を申し込んでいる。いろんな制約の中で、彼がこの市場にどんな可能性を見出しているのか、ぜひ記事をお待ちいただきたい。
筆者のような勝ち負けでしか物事を捉えられないギャンブル脳の「予測」を、裏切ってくれる新しい熱狂の誕生に期待したい。
|文:栃山直樹
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