一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)が主催する業界カンファレンス「第9回 BCCC Collaborative Day」が21日、都内で開催された。BCCC設立10周年の節目となる今回は、「この10年のWeb3金融と次の10年」をテーマにパネルディスカッションが行われた。
パネリストとして、東証プライム上場のソフトウェア企業アステリア代表取締役社長/CEOの平野洋一郎氏、日本円ステーブルコイン「JPYC」を発行・運営するJPYC代表取締役の岡部典孝氏が登壇した。ファシリテーターは、N.Avenue/NADA NEWS代表取締役社長の神本侑季が務めた。
ステーブルコインは社会実装の局面へ

暗号資産をめぐる状況は、この10年で大きく変化した。暗号資産(仮想通貨)の制度見直しや、金融商品取引法の枠組みでの整理を含む議論も進み、業界は新たな転換点を迎えている。こうしたなか平野氏は、現在のブロックチェーン業界で社会実装が進みつつある代表的な領域として「ステーブルコイン」を挙げた。
平野氏は、10年前を振り返りながら、ビットコイン(BTC)が目指したピア・ツー・ピア(P2P)のキャッシュシステムに近い姿が、ようやく現実のものになりつつあるとの認識を示した。岡部氏も、金利環境の変化やAIの進展、政策面での議論の前進を踏まえ、未来のお金を考えるうえでステーブルコインは欠かせない存在になってきたと述べた。
JPYCをめぐっては、この1年で制度対応と事業拡大の両面で動きがあった。同社は2025年8月に資金移動業者としての登録を完了し、同年10月27日には国内初の電子決済手段として円建てステーブルコイン「JPYC」の発行を開始した。
JPYCは2026年2月、アステリアをリード投資家とするシリーズBラウンドのファーストクローズで17.8億円の調達を発表。さらに4月20日にはセカンドクローズで28億円を追加調達する予定を明らかにし、シリーズB累計調達額は約46億円となる見込みだ。
今回の出資について平野氏は、「日本円建てステーブルコインをとにかく早く社会に普及させたい。まさにサトシ・ナカモトの思いをつなぐというくらいの気持ちだ」と語った。
国際決済銀行(BIS)の2025年世界外国為替市場調査によると、世界の外国為替取引に占める日本円のシェア(100%ベース)は8.4%にとどまり、1位の米ドルの44.6%とは大きな差がある。
平野氏はこの状況に危機感を示し、「このままでは世界の決済がドル建てに傾き、日本円はじり貧になってしまう。そう考えると、オンチェーンの日本円建てステーブルコインは非常に重要だ」と強調した。
あわせて、オンチェーン上で日本円の利用を広げることは、日本円の強さや日本企業の事業領域を守り、広げることにもつながるとの考えを示した。
「月末締め翌月払い」が企業成長の目詰まりに

企業向けのステーブルコイン決済の実装をめぐっては、平野氏が課題を整理した。課題として挙げたのは、会計処理、監査対応、秘密鍵の管理、既存システムとの連携である。個人利用であればウォレット単体で完結する場面も多いが、企業利用では経理や監査、基幹システムとの整合まで含めた設計が必要になるという。
アステリアはこの分野で具体的な取り組みを進めている。2026年2月にJPYCとの資本業務提携を発表し、企業向けのJPYC入出金管理サービス「JPYC Gateway」を4月1日から提供開始している。
平野氏は同サービスについて「たとえば、ガス代もこちらで立て替えるので、クライアント企業が暗号資産を保有しなくてよくなる。そうすると、会計や監査の処理もかなり楽になる」と説明した。
また、システム連携についても、データ連携ツール「ASTERIA Warp」と組み合わせることで、送金や入金の管理を自動化できるとの考えを示した。
平野氏は、企業側のニーズとして海外送金と資金移動の効率化を挙げた。既存の海外送金は手数料が高く、着金にも時間を要する一方、オンチェーンであれば送金時間を大幅に短縮できると説明。
「DXやAIで事業スピードが上がっているのに、決済だけが月末締め翌月払いや翌々月払いのままになって目詰まりを起こしている。20年、30年前から変わっていない。ここを改善することで、企業の活動スピードを圧倒的に上げることができる」と語った。
一方、岡部氏は、大口のクロスボーダー取引では課題が残ると指摘した。100万円単位の送金であれば利便性が評価されやすいものの、100億円規模の取引では発行・償還上限が制約になるという。
また、受け手側が最終的にUSDCやUSDTへの交換を求めるケースも多く、海外取引所での取り扱いが広がらない限り、本格的な貿易用途への展開にはハードルがあるとの認識を示した。
AIエージェント時代、決済手段としてのJPYC

一方でリテール(小売り)向けの決済については、岡部氏が現状を語った。現在は、HashPortが運営する「HashPort Wallet」がリテール領域でのJPYC活用をけん引していると説明した。そのうえで、今後はLINEヤフー傘下でWeb3事業を担うLINE NEXTとJPYCとの連携に期待を寄せているとの見方を示した。
両社は2026年1月、JPYC活用に向けた協業検討の基本合意書(MOU)を締結している。LINEアプリ上で展開予定のウォレット「Unifi」にJPYCが組み込まれれば、新たなウォレットを別途インストールせずに利用できる環境につながる可能性があるという。
岡部氏は、AIエージェントとの親和性にも言及した。予約システムなどと接続し、AIがホテルの予約から支払いまでを処理する流れが自然に生まれてくるとの見方を示した。
岡部氏は、たとえば旅行先のホテル予約をAIエージェントに依頼すると、予約から支払いまで自動で完了するような世界を例に挙げ、「そうした仕組みが広がれば、リテール領域でも利便性が高まる」と語った。
また、既存の決済手段があるなかで、店舗側にJPYC決済を選ぶ利点があるかという質問に対し、岡部氏は、店舗の公式LINEなどでBot対応が広がっている点に言及した。
JPYCは自動処理との相性が良く、店舗側がJPYC決済に割引や送料無料などの特典を付けることで、利用を促しやすくなるとの見方を示した。
次の10年、金融取引はオンチェーンへ向かうのか

では、次の10年の金融はどのように変わるのか。ブロックチェーン分析企業Chainalysis(チェイナリシス)が2026年4月に公開したレポートでは、ステーブルコインの実需ベースの取引高は2035年までに最大1500兆ドル(約23京円)規模に達する可能性があるという。
岡部氏はこの分析に触れ、「JPYCや他のステーブルコインが頑張れば、仮にその1割でも2.3京円規模になる。」と説明。直近の東証プライム市場の1日平均売買代金は、2025年度で6兆7015億円に達している。仮に数京円規模の取引がオンチェーンで動くようになれば、既存の証券市場を大きく上回る規模感となる。
そのような世界では、雇用や事業のあり方も変わる可能性があるという。岡部氏は、今後はAIが中心となって動く企業や、人が1人しかいないようなマイクロカンパニーが増えていく可能性があると指摘した。
取引がオンチェーンに移ることで、AIが決済や業務の一部を担う場面が増え、少人数で事業を運営するマイクロカンパニーのような形態が広がる可能性があるとの見方を示した。

また、既存の金融や決済サービスとの関係については、既存の電子決済手段との違いも話題になった。平野氏は「PayPayやSuicaは、その下のレイヤーで日本円を使って決済している。JPYCは、その日本円と同じ基盤のレイヤーに入ってくるものだ。そのため、JPYCは既存の電子決済手段とはレイヤーが異なる」という認識を示した。表側の決済サービスはそのまま残り得る一方、その下にある価値移転の基盤としてステーブルコインが組み込まれていく可能性があるという。
最後に平野氏は、10年前にブロックチェーンに取り組んだ企業の中には、その後距離を置いた企業もあるとしたうえで、法律、会計、税制、デジタル化の進展によって、現在はトークン化や業務実装に向き合いやすい環境が整ってきたと述べた。
平野氏は「一度ブロックチェーンをやめた会社も、もう一度向き合ってみてほしい。いまは、ブロックチェーンを現場でどう活用するかを議論できる時代になってきた」と語り、技術の実証段階から業務実装の段階へ移りつつある現状を強調した。
|取材・文・撮影:平木昌宏


