Visa、Stripe主導のL1「Tempo」でアンカーバリデーターを運用──カード決済網とMachine Payments Protocolの接続【MCB FinTechカタログ通信】

2026年4月14日、カード決済大手のVisaが、Stripeが主導するブロックチェーン「Tempo」において、自社でバリデーターノードの運用を開始したと発表しました。同時に、Standard Chartered傘下のZodia Custodyも外部バリデーターとしてTempoに参加しており、Visa、Stripe、Zodia Custodyの3社がTempoの初期の主要バリデーターとなります。

今回は、カード決済ネットワークを運営するVisaが、自らブロックチェーンの取引検証に参加するまで踏み込んだ理由と、Tempo上で稼働するAIエージェント・機械間決済の仕組み「Machine Payments Protocol(MPP)」がもたらす変化について解説します。

※本記事の内容は、マネックスクリプトバンクが週次で配信している、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレター「MCB FinTechカタログ通信」の抜粋です。マネックスクリプトバンクが運営する資料請求サイト「MCB FinTechカタログ」にて、過去の注目ニュース解説記事を公開していますので、ぜひご覧ください。

Tempoブロックチェーンとは何か

Tempoは、決済大手のStripeと米国のベンチャーキャピタルParadigmが共同で立ち上げた、決済処理に特化したブロックチェーンです。2025年9月にプライベートテストネットが公開されたのち、同年12月にはMastercard、UBS、Klarna、Visaが参加するパブリックテストネットが始まりました。2026年3月18日にはメインネットが公開され、テストネットから実運用の段階に移行しています。資金調達面では、2025年10月に評価額50億ドルで5億ドルのシリーズA資金調達を完了しています。

Tempoの技術的な特徴は、主に3つに整理できます。

1つ目は、取引が確定するまでにかかる時間が約0.6秒と短く、一度確定した取引が後から変更される可能性がないよう設計されている点です。これは、既存の金融システムと同等の確実性が決済に求められる場面で意味を持ちます。

2つ目は、取引手数料を米ドルステーブルコインで支払える仕組みが内蔵されている点です。EthereumやSolanaといった一般的なブロックチェーンでは、取引手数料はチェーン独自のトークン(ETHやSOLなど)で支払う必要があり、そのトークンの価格変動によって、決済事業者にとっての手数料コストが変動してしまいます。Tempoでは、価格が米ドルに連動するステーブルコインで手数料を直接支払えるため、決済事業者がコストを予測しやすい構造となっています。

3つ目は、ブロックチェーン自体にステーブルコイン同士を交換する機能(AMM:Automated Market Maker)が組み込まれている点です。これにより、特定のステーブルコイン発行企業に依存することなく、複数のステーブルコインを扱う決済や送金を円滑に処理できます。

Tempoの設計段階には、Anthropic、OpenAI、Deutsche Bank、DoorDash、Lead Bank、Mercury、Nubank、Revolut、Shopify、Standard Chartered、Visa、Coupangなど12社以上が参加しています。AI開発企業、ネオバンク、大手カード決済企業、Eコマース事業者が並ぶ構成となっており、金融とAIの両方の領域を視野に入れた決済インフラとして設計されていることが読み取れます。

Tempoについては、2025年8月に配信したニュースレターでも、Google Cloudが独自ブロックチェーン「GCUL」を発表した際に取り上げました。当時は開発中のブロックチェーンとされており、Bridge(ステーブルコイン決済基盤)やPrivy(ウォレット基盤)と連携する垂直統合型の決済スタックになる、という見方を示していました。今回のバリデーター参加は、そのスタックがメインネット上で本格的に稼働する段階に入ったことを示すものです。

Visaのバリデーター参加の背景

Tempoのバリデーターは、ネットワーク上で発生するすべての取引の正当性を検証し、ブロックチェーンに記録する役割を担います。取引手数料はステーブルコインで支払われ、取引をブロックにまとめる役割を果たしたバリデーターに報酬として分配される仕組みです。Tempoの現時点での外部バリデーターは、Visa、Stripe、Zodia Custodyの3社に限定されており、今後、他の企業にも段階的に開放される予定です。

カード決済ネットワーク事業者は通常、決済インフラの上位レイヤーに位置する立場にあり、ブロックチェーンの合意形成層そのものに自社ノードを配置する事例は多くありません。Visaはすでに、機関向けブロックチェーンであるCanton Networkでも「スーパーバリデーター」として検証ノードを運用しており、今回のTempo参加は、Visaがブロックチェーンインフラを自社で運用する領域を広げる動きとなっています。

VisaがTempoにここまで深く関与する背景には、Tempo上で稼働する標準化された決済プロトコル「Machine Payments Protocol(MPP)」の存在があります。VisaはMPPのカードベース仕様の策定にも参加しており、バリデーター運用だけでなくプロトコル層の設計にも関与しています。

Machine Payments Protocolの仕組み

Machine Payments Protocol(MPP)は、ソフトウェアやAIエージェントが自律的に決済を行うためのオープンな標準プロトコルです。StripeとTempo Labsが共同で策定し、IETF(Internet Engineering Task Force)に「Payment」HTTP認証方式の標準案(draft-ryan-httpauth-payment)として提出されています。

MPPの設計の特徴は、HTTPの仕組みをそのまま決済に拡張する点にあります。通常のWeb APIでは、クライアント(アプリやエージェント)がサーバーにリクエストを送り、サーバーがレスポンスを返します。MPPは、ここに「ステータスコード402 Payment Required」を使った、支払いの要求と証明の仕組みを追加します。

取引のプロセスは次のように進みます。クライアントが有料リソースをリクエストすると、サーバーはまず「402 Payment Required」のステータスコードと、価格や支払い条件を記述した「WWW-Authenticate: Payment」ヘッダーを返します。これを受けたクライアントは、自身のウォレットの秘密鍵で支払いを署名し、支払い証明書(クレデンシャル)を生成します。次に、クライアントは同じリクエストに「Authorization: Payment」ヘッダーを付けて再送します。サーバーはそのヘッダーに含まれる署名を検証し、Tempoブロックチェーン上で決済を確定させたうえで、レシートを含めてリソースを返します。決済の確定にかかる時間は約500ミリ秒であり、この一連のやり取り全体が一度のHTTPリクエストサイクルで完結するよう設計されています。

MPPの技術的な特徴として挙げられるのは、2種類の支払いモードをサポートしている点です。1つ目は「一回払いモード」で、リクエストごとにオンチェーンで決済を確定します。単発のAPI呼び出しや一度きりのデータ取得に適しています。2つ目は「セッション・モード」と呼ばれる継続的な支払いの仕組みで、エージェントは利用開始時に一定額をエスクロー(預かり勘定)にデポジットし、その後の個々の取引はオフチェーンで発行される署名付きバウチャーを用いて処理されます。サーバー側は蓄積したバウチャーをまとめて定期的にオンチェーン決済することで、数千件の小額取引を1件のブロックチェーン取引に集約できます。公式ドキュメントではこの仕組みを「OAuth for money」(金銭版のOAuth)と表現しており、支払いの事前認可と実行を分離する設計となっています。

対応する支払い手段には、Tempo上のステーブルコイン、Stripe経由のクレジットカード、Bitcoin Lightning Network、SolanaやStellar、Monadなどが含まれます。MPPは各支払い方法を独立した仕様として付け足せるモジュール構造となっており、新しい決済手段の追加がプロトコル本体の改修なしで可能となっています。

AIエージェント決済の分野では、GoogleのAP2、Coinbaseのx402、OpenAIとStripeのACPなど、複数のプロトコルが2025年以降に相次いで発表されています。これらは競合ではなく、異なる役割を担う補完的なプロトコル群として整理されつつあります。2025年9月に配信したニュースレターで取り上げたGoogleのAP2は、支払いの認可フレームワーク(誰がどの範囲で決済を許可したかを証明する仕組み)を標準化するものでした。一方、MPPは決済を実際に実行するための標準であり、AP2で認可された取引をMPPで実行する、といった組み合わせが想定されています。Coinbaseのx402もMPPと同じ実行レイヤーに属するプロトコルですが、MPPは法定通貨対応(Stripe経由カードなど)とセッション・モードの2点で先行しているという違いがあります。

競合するFinTech企業発のブロックチェーン

Tempoの発表の背景には、FinTech・決済関連の大手企業が2025年以降に相次いで独自のブロックチェーンを立ち上げている動きがあります。代表的なものとしては、Google Cloudが開発中の「GCUL(Google Cloud Universal Ledger)」と、Circleが主導する「Arc」が挙げられます。これら3つのプロジェクトの違いについては、2025年8月に配信したニュースレターでも整理しています。

Tempoは、今回のメインネット公開とVisa参加により、3つのプロジェクトのなかで最も早く実運用段階へ移行しました。GCULは依然プライベートテストネットの段階にあり、CMEグループなどがパイロット導入しています。ArcはCircleが2025年8月に発表しましたが、メインネットの公開時期についてはまだ明らかにされていません。

設計上の違いも明確です。GCULはGoogle Cloudが管理するパーミッション型ブロックチェーンで、金融機関の既存開発者が扱いやすいようPythonベースのスマートコントラクトを採用しています。ArcはCircleの発行するUSDCでガス代を支払う設計をとっており、同社のステーブルコイン事業と密接に統合された構成となっています。一方Tempoは、特定のステーブルコイン発行体に依存しないステーブルコインAMMを内蔵し、EVM互換性を保ってWeb3開発者との接続性を優先した設計となっています。

想定される利用シーンにも違いがあります。GCULは機関投資家・ブローカー向けの決済・トークン化基盤として設計されており、ArcはUSDCを基軸とした国際送金・企業間決済のインフラとして位置づけられています。これに対してTempoは、Machine Payments Protocolを介したAIエージェントや機械間決済を主要なユースケースとして設計されている点で、他の2つとは異なる市場に向けた構成となっています。

考察

今回のVisaのTempo参加は、カード決済ネットワーク事業者がブロックチェーンの合意形成層にまで関与を広げるという、決済インフラのレイヤー構造の変化を示すものといえます。Visaは、Canton NetworkとTempoという2つの異なるブロックチェーンで検証ノードを運用しており、特定のプラットフォームへ賭けるのではなく、企業・FinTech発のブロックチェーンが複数台頭する状況のなかで、検証側の立場を複数維持する戦略をとっています。この戦略をとることで、どのブロックチェーンが主要な決済インフラとして定着しても、Visa自身がネットワーク内部に位置し続けることができる構成となっています。

Machine Payments Protocolについては、IETFで標準化が進められており、またモジュール構造によって新しいチェーンや決済手段を独立仕様として追加できる設計から、今後Tempo以外のブロックチェーンへも展開していく可能性があります。AIエージェント決済の分野では、AP2やx402との役割分担が進みつつあり、MPPが実行レイヤーの標準として定着するかどうかは現時点では不明であり、今後1〜2年の開発者採用の動向を注視する必要があります。

日本においても、ステーブルコイン決済の社会実装に向けた動きが進んでいます。2026年1月16日、JCB、デジタルガレージ、りそなホールディングスの3社が、ステーブルコイン決済の社会実装に向けた協業で基本合意に至ったことを発表しました。同年2月24日から3月2日にかけては、東京・渋谷の実店舗で、JPYC(Polygonチェーン上)およびUSDC(Baseチェーン上)を用いた決済の実証実験も実施されています。

ただし、日本のこうした取り組みは、既存のパブリックブロックチェーン(Polygon・Base)上の決済アプリケーションを活用する形となっており、VisaがTempoで見せたような、自社でブロックチェーンのバリデーター運用にまで踏み込む動きとは位置づけが異なります。今後、日本のカード会社や決済ネットワークが、海外のFinTech発ブロックチェーンへの参加や、自社によるブロックチェーンインフラの整備にどこまで踏み込むのかが、国内決済業界の次の論点となる可能性があります。

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