国内IEO、祭りの終わり【記者コラム】

「正気の沙汰とは思えない」―。

昨年9月、金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ(WG)」で、過去のIEO(Initial Exchange Offering)銘柄が上場直後に暴落している状況に対し、有識者が放ったこの一言が、そのまま新しいルールの形になって現れたと言っていいだろう。

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4月10日に暗号資産(仮想通貨)を「金融商品取引法(金商法)」の対象とする法改正案が国会に提出された。

暗号資産が株式などと同じ「金融商品」として公認される大きな一歩だが、同時にそこには、これまでの国内IEO市場を根底から見直す制限が並んでいる。

なぜ国は、そこまで踏み込む必要があったのか。

法案の中身を紐解くと、これまで当たり前のように行われてきたIEOの裏側に、どれほどの歪みが潜んでいたかが見えてくる。

今回の法改正を入り口に、かつての熱狂の裏で何が起きていたのかを、改めて振り返ってみたい。

巨額調達のバグと200万円の壁

国内のIEOを振り返ったとき、多くの人が思い浮かべるのは、上場直後の派手な値上がりと、その後の暴落だろう。

プロジェクトの将来を応援するという本来の趣旨よりも、上場直後の勢いに乗って売り抜けるマネーゲームになっていた側面は否めない。

前述のワーキング・グループで、京都大学の岩下教授が過去の銘柄を取り上げ、「ほぼ全てが公募価格を割り込んでいる」と厳しく指摘したのも、こうした現状への危機感からだった。

当時、筆者もYouTubeの配信で会合の様子を視聴していたが、画面越しにも、その場に緊張が走るのを感じたことを覚えている。

<第2回WGで⽇本暗号資産ビジネス協会(JCBA)が提示した国内IEO案件リスト>

後日、発言の背景を聞こうと教授に取材を申し込んだが、「私の考えは、審議会での発言記録に集約されております」との回答だった。言葉を重ねるまでもなく、あの場に提示されたデータがすべてを物語っていたのだろう。

そして、金融庁の反応は早かった。

教授が問題提起をした次回の会合(2025年9月29日)で、同庁は厳しいルール案を打ち出し、今回の法案提出に至っている。

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中でも象徴的なのが、監査法人のチェックを受けていないプロジェクトに対し、一般投資家1人あたりの上限を「最大200万円(50万円を超える場合は収入又は純資産の5%まで)」に制限するという方針だ。

<金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」説明資料から>

過去にはIEOトラブルも

この「200万円」という数字のインパクトを理解するには、過去のIEOがいかに巨額だったかを知る必要がある。

当時の公式資料から、個人が1人で最大いくらまで申し込めたのかを拾い上げてみると、パレットトークン(PLT)の約970万円から始まり、FC Ryukyu Coin(FCR)やNippon Idol Token(NIDT)は約5000万円という規模だった。さらに、NOT A HOTEL COIN(NAC)では2億5000万円、ジャパンオープンチェーントークン(JOC)の一般抽選販売では約10億円もの額を、一個人が申し込める計算になっていた。

監査義務が課されていない未上場の会社に対し、個人が数千万円、時には億単位もの資金を投じることができていたわけだ。なぜ、株式市場の常識では考えにくいこの構造が許容されてきたのだろうか。

その背景には、IEOを主導する取引所のビジネスモデルが関係しているように思える。

取引所は調達額の一定割合を手数料として受け取るため、金額が大きければ大きいほど潤う仕組みだ。そのため、投資家保護や上場後の管理体制よりも、巨額の資金を集めることが優先されてしまった側面はないだろうか。

2024年年末に起きたビットトレードでのJOCトークン上場をめぐるトラブルは、その危うさを象徴している。

上場直後に取引が長時間停止し、初値も不可解な記録を残したが、取引所一社の裁量に任されていたため責任の所在はあいまいなままだった。

関連記事:JOCとビットトレードがIEOをめぐりトラブル──法的措置も視野

こうした取引所のビジネス構造と、上場直後の強烈な売り抜けによる暴落。

当局は「上場企業並みの管理体制と責任が果たせないなら、クラウドファンディングと同じくらいの規模(200万円)でやりなさい」と、ブレーキをかけたというのが実情だろう。

監視と厳罰化が突きつける市場の二極化

今回の金商法改正が突きつけた現実は、投資上限の制限だけにとどまらない。

これまでの国内IEOでは、夢を語るホワイトペーパーにハードルの高いロードマップを掲げても、発行側の法的責任が問われにくいという問題があった。

新法案は、こうした「暗号資産界隈だから」と許されてきた空気を一掃する。

新たにインサイダー取引の規制ができ、情報開示で虚偽があった場合には「最大10年の拘禁刑」という重い罰則が設けられたことからも、国側の本気度がうかがえる。

<金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」説明資料から>

証券監視委による犯則調査や課徴金制度の導入、そして虚偽記載への厳罰。金商法改正案が求めているのは、暗号資産を特別な例外として扱うのをやめ、既存の金融市場と同じルールに従わせることだ。

これからのIEOは、コストと時間をかけて上場企業並みの体制を整えられるプロジェクトと、上限200万円の枠内で小規模に資金調達を行うプロジェクトに、はっきりと二極化していくのではないだろうか。

個人が数千万円を投じて、上場直後の値上がりで一発ホームランを狙うような「祭」は、過去のものになっていくはずだ。

正直なところを言えば、筆者自身も元々はギャンブルにハマったクチだ。ビットコインバブルの頃、とんでもないボラティリティ(値動き)に惹かれて「すごい世界があるものだ」と、この業界に足を踏み入れたのが始まりだった。

だからこそ、こうした独特の熱狂が失われることに、一抹の寂しさを感じないわけではない。

しかし、実体の見えにくい期待感だけで大きなお金が動くステージは、静かに終わりを迎えようとしている。

|文:栃山直樹
|画像:Shutterstock

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