カルダノ(Cardano)創設者のチャールズ・ホスキンソン(Charles Hoskinson)氏が、宿泊先のホテルにNADA NEWSを呼び出したのは1月下旬のことだ。
同氏は、かつて大阪は本町に住んでいた。この地は自身のキャリアの原点ともいえる。
昨年11月の取材からわずか3カ月という短期間で再び席が設けられたのは、開発中のプライバシー保護ブロックチェーン「ミッドナイト(Midnight)」に、今話すべき重大な進展があったからである。
関連記事:巨大テック企業が導くステーブルコイン市場の拡大──カルダノ「Midnight」が拓く企業のWeb3進出の未来とは【チャールズ・ホスキンソン氏に聞く】
当初、メインネットのローンチは香港で開催された「Consensus」(2月10〜12日)に合わせる計画であったが、同イベントで稼働時期は3月の最終週にスライドとなったことが明かされた。
運用を支える「NIGHT」と、取引の秘匿性を維持する「DUST」という独自のトークンモデルが駆動するミッドナイトは、春の訪れとともにその夜明けを迎えることになる。
本インタビューでは、ホスキンソン氏自らが全国を巡る「日本行脚」の狙いに迫るとともに、スタジオジブリを事例に挙げながら語られたコンテンツ産業(IP)の保護など、インフラとしての優位性が詳細に語られた。
米国の規制環境が硬直化する中、なぜ大阪をルーツにする男は日本全国を巡り「草の根」の普及活動を続けるのか。
メインネット稼働という実用化の節目を目前に控えた今、ホスキンソン氏が描く未来図の全文をお届けする。

JavaScriptの生みの親と
── ミッドナイトブロックチェーンの進捗について聞きたい。
ホスキンソン氏:ミッドナイトは野心的なプロジェクトであり、現状は、まだ氷山の一角に過ぎない。多くの可能性が眠っている。
進捗としては、メインネットを香港で開催される「Consensus(コンセンサス)」に合わせてローンチする予定だ。
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※編集部注:その後、Consensusにおいて稼働時期が2026年3月最終週となることが発表された。
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私がブロックチェーン「カルダノ」をローンチしたのは2017年だった。そこから様々な機能の導入には長い年月を要したが、再び新しいプロジェクトに着手できることにワクワクしている。
ミッドナイトはソラナ(Solana)やビットコインのコミュニティ、ネットワークと協力して使うことができる、いわば「レイヤー2」のような位置づけだ。これにより、多様なプロジェクトとコラボレーションできる。
GoogleやTelegramとも協力関係にあり、つい先日は、JavaScriptの生みの親でありBraveブラウザの創業者であるブレンダン・アイク(Brendan Eich)氏と協議したばかりだ。
日本の地方を回る理由
── 今回の来日はミッドナイトの日本向けプロモーションと考えてよいか。北海道から沖縄まで地方都市を巡る意味は。

ホスキンソン氏:理由は基本的に2つある。1つは、カルダノが日本において最大級の暗号資産・ブロックチェーンプロジェクトであるという点だ。
実際のトークン保有者のかなりの数が日本に存在し、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)において、ネットワークを支持している人々の約半数が日本にいるというのは紛れもない事実だ。多くのコミュニティやグループも存在する。
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※参考:カルダノ(ADA)初期販売の居住地データ。第1回は100%、第2回も99.9%を日本の居住者が占めている。▶詳細データ(公式サイト)

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そのため、新しいガバナンスの仕組みや、カルダノ関連機関であるIntersect(インターセクト)のメンバーを今回連れてきていることも含め、日本のエコシステムと繋げていくことが大きな目的だ。
さらに、ミッドナイトとカルダノは別のプロジェクトだが、一部同じインフラを使用するなど共通点も多い。カルダノ・コミュニティに対して、ミッドナイトのアップデートを共有することも目的の一つだ。
プライバシーチェーンが解決できるもの
2つ目の理由は、ミッドナイトが新たな「プライバシー機能」を提供できるという点だ。ミッドナイトは金融領域のみに使われるプロジェクトではない。
TOYOTA、SONY、Microsoft、Amazonといった大企業が、なぜまだ本格的にブロックチェーン市場に参入しないのか。パイロットプロジェクトや社内研究チームによる努力はあっても、決定的な壁が存在したからだ。
それは「ビジネスロジックを全部公開するわけにはいかない」という点である。
下請け企業との支払い情報や取引内容をすべて公開すれば、競合他社に悪用されるリスクがある。大半の企業はそこで立ち止まっていた。

ミッドナイトはこの問題を解決できる。これをアピールすることが目的だ。
だからこそ、様々な産業の交差点を探している。例えば農業が盛んな地域や、職人の多い地域などだ。
サントリーがウイスキーをグローバル展開した際、結果として本場のスコットランドを凌駕したような過去がある。
そうしたグローバル市場への参入を目指す地域と協議し、どうビジネスに応用できるかをコミュニケーションするために地方を回るのだ。
アニメや農業などの文化・歴史的なデータをブロックチェーンに載せたり、ステーブルコインのローンチやトレジャリー(資金)管理に使ったりと、活用の幅は広い。
日本政府は初期に良いフレームワークを導入したが、DeFi(分散型金融)や税制改善については躊躇している部分がある。それは「コントロールレイヤー(管理層)」が必要だと感じているからだ。企業の感覚と似ており、管理できない部分への懸念があるのだろう。
そこで、イーサリアムやソラナだけでなく、ミッドナイトのようなツールがあれば、「条件は満たしつつ、コンプライアンスも遵守できる」ということを示せる。
こうした「コンプライアンスを生かせる」「諦めなくていい」という点を、日本のスタイルを維持しつつグローバル展開できる手段として、日本列島を回りながらアピールしていきたいと考えている。
スタジオジブリとも何かできれば
── 具体的にどのような企業やプロジェクトと協議が進んでいるのか。トヨタやソニーの名前が挙がったが、そうした有名企業との連携はあるか。
ホスキンソン氏:現状、ミッドナイトのパートナーには約100社が決まっているが、残念ながら日本にはまだ少ない。
今回はミッドナイトのローンチに際してICOは行わず、エアドロップやマイニングのような形式をとっている。
関連記事:ビットポイント、トークン「NIGHT」のエアドロップを検討──カルダノ創設者の新ブロックチェーン「Midnight」と連携
興味を持っている大きなパートナーは多数存在する。
SBIとも興味深い話が始まりそうだし、例えば「スタジオジブリ」のようなアニメスタジオとも何かができればと考えている。
一時期はAstar(アスター)が毎週のように日本企業の参入ニュースを出していたが、約5年にわたるベアマーケット(弱気相場)や詐欺的なプロジェクトが横行した影響で、市場の熱量は冷めている。
今は焦らず、アンバサダープログラムなどを通じて小規模なホルダーや啓蒙活動にフォーカスし、そこから地方でグローバル化を目指すプレイヤーへ、さらに産業全体へと、草の根運動的に下から上へ広げていくアプローチをとっている。こうした動きが拡大するには、6〜8カ月あれば十分だろう。
政府に影響力を与えられる
また、ミッドナイトは暗号資産を持たなくても使えるツールであることに重点を置いている。
Web2企業や大企業が暗号資産に触れずに導入できることを目指しており、産業パートナーレベルでの導入が進み、日本の案件が増えてくるのは12〜24カ月後くらいになると想定している。
日本の税制改正(55%から20%程度への引き下げ)の話も昨年から耳にしているが、まだ実現していない。
日本政府がアメリカの動向を注視しているという噂もあるが、アメリカ自体がスピードダウンしているため不透明だ。
金融に関わらない使い方であれば、3〜6カ月程度で実験的な協力が始まってくるだろう。
カルダノ・コミュニティをアップグレードしつつ、日本のアンバサダーを増やし、地方のプレイヤーがアメリカのパートナー事例を参考にグローバル市場へ参入する、そんな流れができれば嬉しい。
日本が一度前進した後に一歩下がったような今の流れは、ミームコインの大量発生などが招いた規制強化への懸念があるからだ。
しかし幸いなことに、ミッドナイトは個人の情報管理に力を与え、企業のデータ管理を助け、政府にはコンプライアンス面での影響力を与えることができる。

市場参加者全員にメリットがあるため、規制当局も巻き込みながら「ミッドナイトは使いやすい」という合意形成の場を作っていきたい。
私でも送金は怖い
話を広げると、日本にはカルダノの初期投資家で、数億円、数十億円規模のADAを保有する方々がいる。しかし彼らの多くは「長期保有型」から前進していない。
彼らのDeFiリテラシーを高め、カルダノ上で導入されている安全な機能を使ってもらいたい。暗号資産は単なる金融商品ではないことを示したいのだ。
今回同行しているチームは、POSシステムや自動販売機、ATMでの利用など、現実社会での技術活用をアピールしている。
特に自動販売機は日本らしい事例だ。「金融商品はよく分からないが、そういう使い方ができるなら便利だ」と感じてもらいたい。
モバイルウォレットの機能や、キーフレーズ紛失時の復元方法など、細かいアップデートもアピールし、ユーザーが損をする場面を減らしていきたい。
ミッドナイトは非常に安全なブロックチェーンだ。私のように4つのブロックチェーン(BitShares、Ethereum、Cardano、Midnight)を立ち上げた人間でも、大金の送金は怖い。テスト送金をしてドキドキしながら行うのが普通だ。一般の人なら尚更だろう。
リテラシーを高め、「ミッドナイトを使えば海外マーケティングに役立つ」といった利点を見つけてもらう、今はそういう時期だと考えている。
アメリカの暗号資産規制の今
──アメリカの暗号資産規制に関与されている立場から、マクロ的な規制環境についても伺いたい。

ホスキンソン氏:規制に関しては、状況はより複雑化している。
特に現在のアメリカのリーダーシップのスタンスは、「我々のやり方に従うか、一切関わらないか」という二者択一を迫るような強硬なものであり、協力や情報共有がかなり制限されている。
アメリカ市場は長期的に持続可能な金融制度やポリシーの導入を重視するため、未だに1933年に制定された証券法が使われていたりする。長く維持できる法案の策定に、誰もが苦労している状態だ。
ステーブルコインに関しては、テザー(Tether)やサークル(Circle)、銀行などが協力し比較的うまくいった例だが、「CLARITY Act(クラリティ法案)」については、世界情勢の不安なども重なり、まとまることができていない。
議会で170以上の修正が行われ、その中に我々にとって望ましくない内容が含まれていたため、コインベース(Coinbase)も支持を撤回したし、私自身もそうせざるを得なかった。残念な結果だ。
現実的な見方として、中間選挙(2026年11月)が終わるまでは建設的な議論は難しいだろう。
特に民主党サイドが上院での議論を「次の政権交代までは無意味」と捉えて時間稼ぎをした場合、2029年頃まで話が前進しないというシナリオすら見えてくる。
この法律は業界関係者だけでなく、税制にも関わるため、富裕層に訴えたい勢力や経済成長を目指す勢力、逆にマネーロンダリングの追及や犯罪対策を重視する司法省など、あまりに多くの利害関係者が関わっている。成立の難しさは変わらないだろう。
逆にヨーロッパや他の市場からすれば、アメリカが動かない今をチャンスと捉え、世界的な企業誘致が進むのではないかと考えている。
カルダノは日本人の心と共鳴
── 日本はプライバシーやコンプライアンスを重視する国であり、ミッドナイトとの親和性は高いと思うが、一方で規制がイノベーションを阻害しているという見方もある。この日本の市場環境をどう見ているか。

ホスキンソン氏:日本のホルダーがいわゆる「ガチホ(HODL)」をしてきたのは、カルダノが非常にうまくいった事例だからだろう。時価総額7200万ドル(約111億円、1ドル=155円換算)程度から130億ドル(約2兆150億円)規模まで成長した。そのスタンスが成功したという意味でもある。
また、カルダノのアプローチ自体が日本人の心と共鳴したのではないか。日本は歴史的に見ても、新幹線のように10年、20年というスケールでインフラ開発を行う国だ。
単に早いイノベーションを求めるのではなく、「形式手法(Formal Methods)」を用いた開発により、ハッキング被害をほぼ受けずにここまでこられた実績、そして中央集権的なシステムからの分散化というアプローチが、日本人の心理に合致したのだと思う。
日本の技術戦略を見ると、常に海外から新しい技術を学び、それを日本の起業家が活用して国内企業が誕生するという歴史がある。日本の起業家の存在は不可欠だ。彼らが成功し、日本のビリオネアが生まれてこそ、政府も動き、国全体が前進する。
カルダノのトレジャリーには10億ドル(約1550億円)が入っており、昨年は2億ドル(約310億円)が使われたが、日本企業への配分は思いのほか少なかった。
今回のツアーを通じて、日本の起業家やビジネスマンに「この資金を使ってカルダノでアイデアを実現できる」とアピールしたい。
外部から「規制をこうすべきだ」と言うのはお門違いだ。日本の企業が立ち上がり、それを元に規制が動く形になるべきである。
日本のIP産業への適用
── ジブリに関しては個人的な構想段階なのか、働きかけをするか。また、ミッドナイトの「合理的プライバシー(Rational privacy)」という概念は、ジブリのようなアニメ産業にどういうメリットがあるのか。

ホスキンソン氏:ジブリのような企業は、膨大なIPを保有している。これはジブリに限らず多くの日本企業に言えることだ。
こうしたIPが外国の企業に乱用されるケースはずっと起きている。最近ではChatGPTに「ジブリモード」のようなものまで登場したりもした。
これに対し、スタジオジブリが巨額の資金を持つアメリカの新興AI企業を相手に訴訟を起こしたとして、数年の歳月とリソースをかけて本当に止められるのか。裁判沙汰は彼らが望むことではないはずだ。
ミッドナイトのような技術は、こうした状況でのルール導入に役立つ。
例えばゲームのレンタルにおいて、期間終了後に本当にデータが返却されたのか、コピーされていないかといった管理。あるいは特許やエンターテインメント資産の保護だ。
中国のような国による模倣や、日本やアメリカ企業のデータを無断でトレーニングに使用しているという噂もある中、議論は「金融商品か否か」から、「ビジネスルールをどうグローバルに適用させ、資産を守るか」へと移行すべきだ。
日本が黄金期を取り戻したいなら
経営者に対しては「金が儲かるか」という話よりも、「この技術で本当に大事なものを守れる」という話をしたい。これは生産者だけでなく、消費者にとってもメリットがある。
日本政府がGDP成長を目指し、かつての黄金期のような経済を取り戻したいなら、外国資本の受け入れや新規市場開拓は必須だ。それを「日本のものを守りつつ」達成するために、ミッドナイトの技術が必要になる。
プライバシーを持つことで、新しいルールセットを持って市場に向かうことができるのだ。
日本には新しい政治家も生まれている。彼らに使い方は決めてもらえばいいが、そのためのフレームワークを私は提供したい。
── 最後に、SBIとの協業の話しはどこまで進んでいるのか
ホスキンソン氏:SBIには、カルダノ(ADA)の日本上場時から多くのサポートを受けている。
現在もコミュニケーションを取っているが、まだ共有できる面白いニュースはない。次回会う時までに準備できればと思っているよ。
|インタビュー・文:栃山直樹
|写真:記者撮影、ホスキンソン氏提供
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