デジタル資産インフラを手がけるFireblocksが23日に都内で開催したイベントに、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)執行役専務 グループCDIOの磯和啓雄氏(写真中央)と、三井物産 コーポレートディベロップメント本部 参与 デジタル金融担当の和歌伸介氏(写真右)が登壇した。テーマは、オンチェーン金融とRWA(現実資産)のトークン化。モデレーターはFireblocksの牧野剛氏(写真左)が務めた。
SMFG、決済と運用の両面で準備
SMFGは現在、決済手段と運用商品の両面でデジタル資産の活用を検討していると磯和氏は説明した。
「決済の手段と、運用する金融商品の両サイドを同時にやろうと思っている」

その際は、ステーブルコインだけではなく、トークン化預金も含め、複数の手段が並立することを視野に入れて検討していると述べた。
運用商品では、MMFやETFも検討対象になる。そのため社内ではデジタル部門だけでなく、決済、市場、証券、カード、信託などを含めた横断チームを組成。流動性、決済実務、規制対応までを含め、既存金融機関として総力戦で臨む構えを示した。
「2028年1月に大きな転機が来ると考えている。税制改正と金融の業法改正がある。この2つが揃うと、一気に動き出すと思っている」
三井物産、ジパングコインを次の段階へ
一方、和歌氏は、三井物産が手がける金・銀・プラチナ連動の暗号資産「ジパングコイン」シリーズについて説明した。2022年からプライベートチェーン上で、日本の投資家向けに限定的な形で取り組みを始めたという。
背景には、同社が長年手がけてきたコモディティ・デリバティブや不動産アセットマネジメントの蓄積がある。
「コモディティの中でも貴金属が一番金融商品に近い。ロンドンでの取引ボリュームも多い」

今後はクロスボーダー展開も見据え、パブリックチェーン対応やセキュリティ、カストディ強化が重要になると述べた。Fireblocksとの連携もその一環と位置づけられる。
AIに法人格、日本は先行できるか
議論はAIにも及んだ。磯和氏は、円建てステーブルコイン「JPYC」の取引件数に触れ、95%がAIによる取引だと紹介。将来的には、多くの金融取引がAIエージェントによって行われる可能性があるとした。
一方で、課題も非常に大きいと指摘した。例えば、AIエージェントが誤送金した場合、誰が責任を負うのか。そもそも、自律的な取引主体として、AIに人格を認めるのか。
磯和氏は課題は多いとしつつも、ポジティブな見解を示した。
「AIエージェントに法人格を認めるかどうかという問題は、非常に難しい問題だ。だが、日本はAIに法人格を与えることに、世界で最もフィットしやすい国だと考えている」
日本は欧米とは異なり、多神教的な文化を持ち、モノやキャラクターに人格を見いだす文化的土壌があるため、AIと人間が共存する社会像を受け入れやすいと述べた。
和歌氏は、三井物産でもAIを活用したコモディティ・トレーディングの実証を進めていると明かした。同社の知見をアルゴリズムに組み込み、AIから金やニッケルなどの取引指示を受ける取り組みだ。現時点ではAIに直接取引させるのではなく、人を介在させているという。
キャッシュレス前夜に似た状況
最後に磯和氏は、現在の状況をキャッシュレス決済普及前夜になぞらえた。スマートフォンの登場でキャッシュレス決済が一気に広がったように、オンチェーン金融でも、AIとプログラマブルマネーの組み合わせが大きな転換点になると考えている。
「今の金融とは全然違う世界になっていくだろう。今、考えられないようなことが普通に起こり得る」
和歌氏も、デジタル金融はまだ始まったばかりだと強調した。
「デジタル金融はいろいろな人にチャンスがあるし、競争も激しい。だが、国を越えて仲間を作りながら、多くのプレーヤーが1回戦から戦うことができる」
ステーブルコイン、トークン化預金、RWA、AIエージェント。個別に語られてきたテーマが、金融機関と商社の実務の中で接続され始めている。日本のオンチェーン金融は、制度整備を待つ段階から、実装を見据えた準備段階へと移りつつある。
|文・撮影:NADA NEWS編集部



