金融庁は暗号資産(仮想通貨)の規制整備を進める一方で、ステーブルコインやトークン化預金、金融商品のトークン化を通じた新たな金融インフラの構築も視野に入れている。
4月21日に都内で開催されたブロックチェーン推進協会(BCCC)のイベントでは、暗号資産の分離課税についての発言が注目を集めた。だが、もうひとつ見逃せない講演があった。金融庁総合政策局リスク分析総括課長の清水茂氏が、「デジタル資産の普及に向けた環境整備について」と題して特別講演を行った。
講演内容そのものは、これまで公表されてきた政策や取り組みを整理したものだった。だが、全体を通して見ると、金融庁の“守り”と“攻め”の両面、すなわち投資家保護と新しい金融の構築という2つの方向性が浮かび上がった。
“守り”──暗号資産を金融商品として位置づける
講演前半で清水氏が説明したのは、暗号資産規制の整備だ。
暗号資産の口座数が1400万を超え、個人にとって身近な資産になりつつあることを踏まえ、金融庁は規制法を資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移管する改正法案を国会に提出している。
改正法案では、暗号資産を有価証券とは異なる金融商品として位置づけたうえで、
● 無登録業者への対応強化
● 情報開示ルールの整備
● 交換業者への規制強化
● インサイダー取引など不公正取引規制の整備
などが盛り込まれている。
暗号資産が「国民の資産形成に資する」金融商品として広がるのであれば、投資家保護の強化は避けて通れない。講演前半は、まさにその“守り”の話だった。
“攻め”──ステーブルコインとトークン化預金

一方、講演後半で清水氏が紹介したのは、ステーブルコインとトークン化預金、そして金融商品のトークン化をめぐる国内外の動向だった。
金融庁がこうしたテーマについて、具体例を交えながら広く紹介した意味は小さくない。日本の動向として、
ステーブルコインでは、
● JPYCの提供開始
● 3メガバンクによる共同発行の実証実験
● SBI新生信託銀行による発行計画
トークン化預金では、
● ディーカレットのシステムを活用したGMOあおぞらネット銀行やゆうちょ銀行の取り組み
● 北國銀行による地域通貨「トチカ」
が紹介された。米国の事例としては、
ステーブルコインでは、
● GENIUS法の成立
● 世界のステーブルコイン取引の大半はドル建てのコイン(USDT、USDC)
トークン化預金では、
● JPMorganが機関投資家向けにJPM Coin(JPMD)を提供開始
● 電機大手SiemensがCitiのサービスをキャッシュマネジメントに活用
などを紹介した(欧州の事例は掲載の写真を参照してほしい)。
注目すべきは「レポ取引」のトークン化

さらに、「世界における金融商品のトークン化の動向」として、清水氏は以下の3点をあげた。
● 日中(イントラデイ)レポ取引
● 債券発行
● マネー・マーケット・ファンド(MMF)
このなかでも注目したいのは、レポ取引への言及だ。
「トークン化された担保資産に対する権利とブロックチェーン預金とを効率的に決済」と説明されていたが、レポ取引は、多くの人には馴染みが薄いが、金融機関にとっては資金調達や担保運用を支える重要な領域だ。
もしトークン化によって、こうした取引が24時間365日で動くようになれば、国内だけでなく、日米・日欧など時差をまたぐ市場でも資金移動や担保取引の効率化が進む可能性がある。
地味に見えるが、金融システムの中枢に関わるテーマだ。
PIPが示す、日本版オンチェーン金融インフラ

スライドの紹介が長くなったが、清水氏が最後に「FinTech実証実験ハブと決済高度化プロジェクト(PIP)」、そしてPIPの3件の取り組みを紹介したことは、その内容は既出だったとしても、グローバル動向に続けて、日本の最新の取り組みをアピールしたこの「意味」を考えると(深読みしすぎかもしれないが)面白い。
講演では、金融庁が進める「決済高度化プロジェクト(PIP)」の事例として、3つの取り組みが紹介された。
1つ目は、3メガバンクなどが参加する「円建てステーブルコインの共同発行に関する実証実験」。
2つ目は、ステーブルコインを用いた「オンチェーンでの証券決済に向けた取組み」。
3つ目は、「トークン化預金を複数の銀行間で移転する仕組みの構築に向けた取組み」。
こちらはすべてグローバルな動向を捉えた取り組みであり、送金、決済はもちろん、証券決済、銀行間の資金移動など、金融インフラそのものをブロックチェーン/トークン化によって組み替える取り組みだ。
しかも清水氏は、24時間365日の証券取引や決済が実現すれば、海外投資家を含む幅広い投資家が日本市場にアクセスしやすくなり、日本の資本市場の国際競争力向上にもつながる可能性があると述べた。
ブロックチェーンは金融インフラへ

清水氏がこの日、講演の前半で紹介した規制法の金商法移行と規制整備は、「投資家保護」の観点が強い。暗号資産が「国民の資産形成に資する」金融商品と位置づけられるからには「投資家保護」は不可欠だ。
一方、後半で語られたステーブルコインとトークン化預金、そしてトークン化の動向とその取り組みは、新しい金融の姿を模索する話だ。
日本は制度設計に強みがある。ステーブルコイン法制も主要国に先んじて整備した。銀行システムの信頼性も高い。
一方で、世界ではステーブルコインが急拡大し、金融商品をはじめとするRWA(現実資産)のトークン化が進展している。
清水氏のこの日の講演は、期せずして金融庁が暗号資産/ブロックチェーンを単なる規制対象ではなく、次代の金融インフラ構築の重要なパーツとして捉えていることを示したのかもしれない。
“守り”の投資家保護と、“攻め”の新しい金融の構築、その両輪が、ようやく同時に回り始めている。


