暗号資産の分離課税「法案」が成立、一律20%の誤解と「経路選択」が鍵を握る新税制の実態【専門税理士解説】

2026年3月31日、暗号資産(仮想通貨)の分離課税導入を含む「所得税法等の一部を改正する法律」が成立した。これにより、これまで最大55%の総合課税の対象となってきた暗号資産取引について、一定の条件下で20%の申告分離課税が適用されることとなる。

今回の改正で、暗号資産税制は具体的にどのように変化するのだろうか。

NADA NEWSは、租税法や暗号資産課税を専門とし、この難解な新税制の実態をいち早く解説した泉絢也税理士(東洋大学法学部教授)に取材を実施した。

本記事では、法案成立の背景や、投資家が課税方式を選択する「経路選択」の仕組みなど、新税制の実務的な影響に迫る。

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※記事内には、より詳細な制度の全体像を把握できるよう、泉税理士の解説ブログ(「暗号資産の税金が分離課税20%へ―令和8年度税制改正で何が変わり、何が変わらないのか」)に基づく補足解説や図解を適宜差し込んでいる。
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──業界の悲願であった分離課税を含む法案が成立したにもかかわらず、静かな印象を受ける。その理由をどのように見るか。

泉税理士:法案は成立したが実際の適用開始日はいまだ確定していないからだろう。また、メディアやインフルエンサーを含め、まだ制度の実体や骨格を十分に理解できていないのだと思う。

関係法令は公開されたが、専門家ではないと中身がよくわからないからだ。

国税庁も、内容が固まると様々なパンフレットやQ&Aを出す。法令自体は複雑で難しいので、行政の見解が示されることによって初めて自信を持って発信できるようになるだろう。

だが現在、法律以外の細かい政令や規則が官報でしか出ていない状況であり、一般の方がこれを読み解くのは不可能に近い。それくらい分かりにくいということだ。

【補足解説】
財務省から公開されている本法律案の新旧対照表や要綱は以下から確認できる。
参考:所得税法等の一部を改正する法律案要綱 – 財務省

──昨年末の税制改正大綱に組み込まれてから、3月末に所得税法改正が成立するプロセスは既定路線か。

泉税理士:その通りだ。基本的には政府が閣議決定した税制改正大綱に則って法律案ができあがる。場合によっては国会で修正等もあり得るが、今回はそのまま通ったと認識している。ある意味「予想通りであった」と言える。

関連記事:【速報】与党、暗号資産は「分離課税」へ、金商法施行の翌年から適用──税制改正大綱

── 一般の投資家が、暗号資産の分離課税が成立した恩恵を実感として得られるのは、どのタイミングになると思われるか。

泉税理士:やはり前提となる金商法(金融商品取引法)の改正が成立し、ガイドライン等の作成や取引所側の受入れ態勢の確立など必要な整備や準備ができてからであろう。

基本的には、法律の規定通り(令和10年1月1日適用)で進むと考えられる。取引所側が金商法に適応するためのシステム対応等もしなければならないため難しいのではないか。

【補足解説】
昨年末の税制改正大綱では、「健全な取引環境の構築に向けた法整備等への対応を前提」に、新税制の施行時期についても具体的な規定が盛り込まれた。適用開始日は「金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後」とされている。

──今回の改正案において、一般投資家が誤解しやすいポイントはどこか。

泉税理士:やはり「すべてが分離課税になる」と思い込んでいる点だ。現物の暗号資産取引についていえば、分離課税の対象は「特定暗号資産」に限定されている。

ひとことで言えば、「国内取引所に上場している暗号資産」だが、今後、金商法等により、その詳細が明らかになる予定だ。また、分離課税の対象は、国内取引所経由の取引に限定され、かつ、「譲渡」(売却や交換)に限られる。

さらに、株式投資をやっている方だと、「株の損益と、暗号資産の損益を通算(相殺)できるのではないか」というのも大きな誤解を生みそうだ。

株には特定口座があって源泉徴収を選べば確定申告が不要になるが、それと同じ仕組みができるのではないかとも聞かれる。今後できる可能性はあるが、今のところ法律には入っていないため、自身で申告しなければならない。

【補足解説】
今回の改正は暗号資産を「金融商品」として位置づけ直すものであり、泉税理士の解説によると、分離課税の対象となる暗号資産の取引は大きく以下の3つのグループに分けられる。

・現物取引(特定暗号資産の現物)
・デリバティブ取引(FXや日経225先物と損益通算可)
・ETF(上場株式等と損益通算可)

ここで注意すべきは、これら3つのグループ間で損益を通算することはできないという点だ。「同じ20%だから通算できる」という解釈は誤りとなる。

<泉絢也税理士事務所 ブログから>

──どこで売るかで課税方式が変わる「経路選択」の仕組みになった背景を聞きたい。

泉税理士:改正の背景を考えると、そのような帰結にならざるを得ない制度であるといえる。

分離課税の対象が国内に上場されている暗号資産(厳密にいうと、この点の全貌はいまだ明らかになっていない)を国内取引所を経由して譲渡する取引に限られているのは、投資家保護の確保に加えて、いわば取引内容やマイナンバーの情報を自動的に税務署へ提供させるためである。それができるのは今のところ国内取引所だけだ。

国内取引所に上場されていない無数の暗号資産、海外取引所やDEX(分散型取引所)、個人(ウォレット)間での取引を規制できるかというと、国内の規制法のみで実効性を確保することはできない。

そもそも分離課税とは、課税の公平を害してでも政策的な理由があるから導入するものだ。

国内法で規制することが難しい国内未上場の暗号資産や海外取引所等で売ったものまで分離課税にして税金を安くするようなことはハードルが高い。そうすると、改正後において、「総合課税(最大55%)」のルートが残ったことは当然の帰結ということになる。

【補足解説】
総合課税が適用される場面は広く残る。DEX(分散型取引所)や海外取引所での売却、ステーキング・マイニングによる取得時の収入、個人間の直接譲渡、特定暗号資産以外の非特定暗号資産の譲渡などは、引き続き総合課税の対象となる。

<泉絢也税理士事務所 ブログから>

──つまり、売却場所によって「20%の分離課税」か「最大55%の総合課税」かを投資家自身が選べるということか。

泉税理士: どこで譲渡するかという取引経路を選ぶのは投資家の自由だから、結果的にはそういうことになる。改正後、分離課税の対象になるのは「特定暗号資産を暗号資産取引業者を通じて譲渡した場合」に限られる。

したがって、同じビットコインであっても、DEXでの譲渡、海外取引所での譲渡、個人間の直接譲渡などは、引き続き「総合課税」の対象となる。

投資家は、自身の状況に合わせて「どこで売却し、どちらの課税方式を適用させるか」を選択できるということだ。

──分離課税よりも、総合課税が有利になるケースもあるということか。

泉税理士:その通りだ。また誤解されている方も多いが、分離課税は住民税含めて20%である。もともと課税所得の水準が一定金額より低い方にとっては、総合課税の税率の方が20%より低くなる。

ごくシンプルなケースでいえば、だいたい「課税所得430万円ぐらい」が均衡点になる。430万円を超えると分離課税の方が平均税率で有利になり、課税所得が高くなるほど分離課税の優位性が拡大する。ただ、総合課税と分離課税の有利・不利判定はケースバイケースになる。

例えば、年金や副業、あるいはステーキング報酬など「総合課税の雑所得」がある方の場合、暗号資産で損失を出した時にそれらの所得と相殺(内部通算)ができた。しかし、分離課税を選ぶと、ステーキング報酬等との損益通算ができなくなってしまう。

また、個人で事業(青色申告等)をやられている方の場合、事業所得の損失は暗号資産の利益と相殺できるが、これも総合課税を選んでいるからこそ可能なことだ。

──国内取引所からは取引データが税務署に報告されるとのことだが、無申告などへの追及は厳しくなるか。

泉税理士: 申告漏れは発見しやすくなるだろう。自動的にデータが税務署へ行くため、申告していなければすぐにマッチングされ、税務調査の前の段階として「お手紙」を出すことができる。

国税としては、こうした「簡易な接触」が非常にやりやすくなる。 また、報告書の様式には暗号資産の「出し入れの数量」の項目もある。国内取引所で捕捉されるのを嫌って海外取引所に移したとしても、その「移出した数量」が報告されるため、足がつく仕組みになったと考えている。

──取得の都度計算する「移動平均法」に変更すれば解決するのか。

泉税理士:移動平均法に変えるには税務署長へ変更の承認申請を出す必要がある。ただし、変更前の評価方法を採用してから相当期間(棚卸資産や有価証券と同様、特別の理由がない場合には3年)を経過していないときや、変更後の評価方法によっては所得金額の計算が適正に行われ難いと認められるときは、その申請が却下される場合がある。

経路選択だけのために変更しようとしても承認が得られない可能性がある。本当に変更したい時からいきなり申請するよりは、その前の年に変更が通るかどうか様子を見るといった対応もあり得るだろう。

【補足解説】
分離課税が導入されても、取得価額の計算方法そのもの(総平均法・移動平均法)は変わらず、改正後もそのまま引き継がれるという。

変わるのは「計算した利益をどの所得区分に入れるか」「どの税率を適用するか」という点だ。 ただし、取引ごとの課税方式の判定や経路選択など、実務上の計算や判断は確実に複雑になる点には注意が必要である。

──分離課税の対象となる「特定暗号資産」の定義について教えてほしい。

泉税理士:法律上、基本的には「金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産(国内取引所で扱われているもの)」となる。ただ、法律には「財務省令で定めるものを除く」「財務省令で定めるものを含む」という除外・追加規定が書かれている。

これらが具体的に何を指すのか、まだ財務省令が作られていないため分からない。おそらく、金商法周りのルールや金融庁のガイドラインが固まった段階で、それにリンクする形で出来上がってくるのではないかと見ている。

【補足解説】
特定暗号資産の条文上の定義は大きく3つの層で構成されているという。

<泉絢也税理士事務所 ブログから>

現時点では、第2層の除外規定と第3層の追加規定に対応する財務省令が定められていない。そのため、国内取引所に上場さえしていれば特定暗号資産に該当するのかどうかも含めて、詳細は未確定となっている。

また、上記の3層の前提として、そもそも金融商品取引法2条49項に規定する「暗号資産」に該当することが必要である(第0層)。正確には、金商法の改正を待つ必要があるが、ビットコイン(BTC)やイーサ(ETH)をはじめとする一般的な暗号資産は上記の特定暗号資産に該当すると考えられている。

──最後に、今回の税制改正が日本のWeb3業界や暗号資産市場に与える影響についてどう見ているか。

泉税理士:Web3事業者から見ると「ん?」という感じだと思う。要は、取引所(CEX)を経由するメジャーな暗号資産しか分離課税になっていないため、自分たちが取引所を経由せずに発行する独自のトークンなどは排除されている。

金商法の改正で上場のハードルも上がるのだろう。もちろん、投資家保護のことを考えれば、仕方がない面もある。

与党の令和8年度税制改正大綱では、暗号資産の資産形成に資する金融商品としての位置付けは、「デジタルエコノミーの進展」にもつながる旨が記載されていたが、それがWeb3までも念頭に置いた表現なのかは不明だ。

今回の分離課税は、あくまでCEXが情報をきっちり国税に渡すこととの「バーター」なのだ。世界的に見てもCARF(暗号資産報告フレームワーク)という報告制度が出来上がり、CEX周りを中心に監視体制が出来上がっている。

暗号資産自体は分散型として設計されていても、暗号資産取引の大半は分散型の方に進んでいるわけではない、というのが実情だ。

|インタビュー・文:栃山直樹
|画像:Shutterstock

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