2026年2月12日、DeFi(分散型金融)大手Aaveの開発企業であるAave Labsが、プロトコルから生じる収益の100%をAave DAO(分散型自律組織)へ譲渡する代わりに、将来の開発資金の提供を求める新たな枠組み「Aave Will Win Framework」を提案しました。
この提案はAave Labsとコミュニティ主導のDAOとの間で続いてきた対立を解消し、次期バージョンである「Aave V4」の開発を加速させることを目的としています。 今回は、この提案の詳細と、DeFiガバナンスにおける「開発企業」と「DAO」のあり方を問う議論について解説します。
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提案の背景とAaveの構造
Aaveは、ユーザーが暗号資産を貸し借りできるレンディングプロトコルであり、その運営はAAVEトークン保有者による「Aave DAO」が決定権を持っています。一方で、ソフトウェアの開発や初期のブランド構築は、Stani Kulechov氏率いる営利企業「Aave Labs」が主導してきました。
しかし、直近においてAave DAOとAave Labsの関係は悪化しています。きっかけは、2025年12月にAave Labsが、公式サイト(aave.com)のフロントエンドから得られる手数料の振込先を、DAOのトレジャリー(資金プール)からAave Labsの管理ウォレットへ変更したことでした。これに対し、一部のトークン保有者が反発し、Aave Labsの知的財産(IP)や資産を強制的に接収する提案を行うなど、緊張状態が続いていました。
今回の提案は、こうした対立関係をリセットし、明確な役割分担と収益分配のルールを再定義しようとするものです。
「Aave Will Win Framework」の詳細
Aave Labsが提出した「Temp Check(初期提案)」の内容は、同社の収益モデルを根本から変更するものです。
具体的には、現在稼働中のAave v3および今後リリース予定のAave v4から発生するスワップ手数料、フロントエンドの収益、さらに将来的な「Aave Card」や「AAVE ETF」といった事業からの収益も含めた「すべてのAaveブランド製品の収益」を、Aave DAOのトレジャリーに直接送金するとしています。また、Aaveの商標やIPを管理するための「Aave Foundation」を新たに設立することも盛り込まれています。
これと引き換えに、Aave LabsはDAOに対し、開発および運営コストを賄うための資金提供を求めています。要求額は、2,500万ドル(約38億円)相当のステーブルコインと、75,000 AAVEトークン(権利確定条件付き)です。さらに、「Aave App(モバイルアプリ)」「Aave Pro(機関投資家向けインターフェース)」「Aave Card(決済カード)」の立ち上げ費用として各500万ドル、開発ツール「Aave Kit」向けに250万ドルの助成金も求めており、合計すると非常に大規模な資金調達となります。
提案の中核となる次期バージョン「Aave V4」は、数年にわたって開発が進められてきたものです。Aave Labsによると、V4では「Hub and Spoke」と呼ばれる新アーキテクチャが採用される予定です。これは、異なる市場やユースケースごとに独立したリスクパラメータや収益モデルを持つ「Spoke」を、中央の「Hub」が管理する仕組みで、プロトコルの拡張性と収益性を高める狙いがあります。なお、Aave v3はすでに年間1億ドル以上の収益を生み出しており、V4にはそれ以上のパフォーマンスが期待されています。
コミュニティの反応と懸念
Aave Labsはこの提案により、DAOによって資金提供を受ける開発パートナーへと移行することになります。提案書では、毎年の予算承認にガバナンス投票を必要とすることで、DAOが資金使途を監督できる点をメリットとして挙げています。
しかし、この提案に対してコミュニティからは厳しい声も上がっています。Aave DAOの有力メンバーであり、多くの AAVE トークンホルダーからガバナンス権限を委任されているデリゲートプラットフォーム「Aave Chan Initiative」を率いるMarc Zeller氏は、今回の提案を「Gaslighting(心理的操作)」であると強く非難しています。
Zeller氏は、Aave Labsが事前の対話なしに一方的に提案を行ったとし、実質的に5,000万ドル規模の資金をDAOから引き出そうとしていると指摘しています。同氏はこれを「法外な条件で交渉を開始し、反発を受けた後に要求を下げて『妥当な妥協案』に見せかける手口」であるとし、ドア・イン・ザ・フェイスと呼ばれる交渉戦術を批判しています。
考察
今回のAave Labsの動きは、Avaraブランドの下で展開していたソーシャルメディアプロトコル「Lens」の売却や、ウォレットアプリ「Family」の終了といった、同社の事業再編の流れの中にあります。Web3の多角化戦略を見直し、本業であるDeFi領域へ回帰する姿勢が鮮明になっています。
現時点ではまだ「Temp Check(初期提案)」の段階ですが、今後この提案が正式に可決されれば、主要なDeFiプロトコルにおいて、DAOが開発企業に対する実質的な「親会社」として振る舞うという、新たなガバナンスモデルの事例となります。
しかし、Zeller氏が指摘するように、DAOの資金(=トークン保有者の資産)が開発企業へと配分される際の適正な資金量や、説明責任のあり方は、依然として大きな課題です。中央集権的な開発力の維持と、分散型組織による統制のバランスをどう取るかといった点において、Aaveの決断は、他のDeFiプロジェクトの将来設計にも大きな影響を与えることになるでしょう。
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