2025年、オンチェーンデータから何を語ってきたのか──オンチェーンデータから読み解く市場の構造変化【エックスウィンリサーチ】

●需給は価格に先行し、2025年は価格停滞と供給逼迫が同時に進む、ねじれた需給環境が続いた。
●ステーブルコインは市場内に滞留し、デリバティブ偏重の進行で価格は清算主導になりやすくなった。
●行動データは需要減速の兆しを示し、市場は「期待」より「構造」で評価される段階に入った。

2025年の暗号資産市場を振り返ると、価格そのものよりも「水面下の需給構造」に焦点を当てた一年だった。エックスウィンリサーチもまた、短期的な値動きに振り回されるのではなく、オンチェーンデータを通じて市場の内部構造を読み解く姿勢を一貫して提示してきた。

第一の特徴は、「需給は価格より先に変化する」という前提が、ほぼ全ての記事に通底していた点だ。取引所ネットフロー、クジラ(大口保有者)の資金移動、短期保有者と長期保有者の行動差といった指標を用い、上昇局面では静かな分配が進み、恐怖局面では水面下で蓄積が進む構造を繰り返し示した。特に2025年は、取引所からのBTC流出が長期平均を大きく下回る水準まで拡大し、「売る意志のない供給」が増える局面と、「価格が伸びない」局面が同時に存在する、ねじれた需給環境が続いた年でもあった。

第二の特徴は、ステーブルコインを「待機資金」として重視する視点が明確に定着したことだ。ERC-20ステーブルコイン供給量、取引所準備金、SSR(Stablecoin Supply Ratio)といった指標は、2025年のエックスウィンリサーチで頻繁に登場したテーマの一つである。とりわけSSRの低下は、「市場外に逃げた資金」ではなく、「暗号資産圏内に留まる流動性」が積み上がっていることを示す指標として扱われ、マクロのM2よりも即応性の高い先行指標として位置づけられていた。

第三に、2025年はデリバティブ市場の存在感が決定的に強まった年だった。先物・パーペチュアルの取引高は現物を大きく上回り、特にETHでは「現物1に対し先物5」という極端な構造が常態化した。エックスウィンリサーチはこの状況を単なる投機過熱として切り捨てるのではなく、「清算主導で価格が動きやすい不安定な市場構造」と冷静に評価している。価格変動の主因が需給ではなく、ポジション調整やロングの清算連鎖に移行したという認識は、年後半にかけて一層強まった。

第四のポイントは、投資家センチメントを「感情」ではなく「行動データ」で測ろうとする姿勢だ。短期保有者の含み損拡大、ファンディングレートの歪み、オープンインタレストの粘着性などを組み合わせ、「恐怖」や「楽観」を定量的に捉える分析が目立った。極端な悲観局面ではクジラの蓄積が確認され、逆に高値圏では静かな利確が進むという、コントラリアン的な構図も繰り返し示されている。

年末にかけては、これまで支えてきた需要エンジンの減速が明確に意識され、論調は慎重寄りへとシフトした。ETFフローの鈍化、機関・準機関層アドレスの増勢減速、365日移動平均を下回る価格推移など、複数のデータが同時に点灯したことで、「需要サイクルの転換点」という表現が使われるようになったのは象徴的だ。

2025年のエックスウィンリサーチの記事を通して浮かび上がったのは、暗号資産市場がもはや「ニュースや期待」で動くフェーズを終え、「内部資金循環と需給構造」で評価される段階に入ったという事実である。エックスウィンリサーチが重視してきたオンチェーン分析は、この市場成熟を前提としたアプローチであり、価格の先にある構造変化を捉える重要性は、2026年に向けてさらに高まっていくだろう。

オンチェーン指標とは

オンチェーン指標とは、ブロックチェーン上に記録された取引データや残高情報をもとに算出される分析指標のこと。価格や出来高と違い、実際の資金移動や保有行動を直接捉えられるのが特徴。取引所フロー、保有期間別の動き、クジラの行動などから需給構造を可視化できる。市場参加者の心理や行動変化を、感情ではなくデータで判断できる。価格が動く前の兆候を捉えるための重要な手がかりとなる。

第一の特徴 Exchange Netflow(Total)
取引所への暗号資産の流入・流出の差分を示し、プラスは売却圧力、マイナスは取引所外への移動(保管・長期保有)を示唆する。

第二の特徴 All Stablecoins(ERC20): Total Supply
ERC20規格のステーブルコイン総供給量で、市場に存在する待機資金の規模と流動性余力を示す指標。

第三の特徴 Long Liquidations
価格下落時にロング(買い)ポジションが強制清算された金額で、下落局面におけるレバレッジ解消の強さを表す。

第四の特徴 Open Interest
未決済の先物・パーペチュアル契約総量で、市場に積み上がっているレバレッジポジションの大きさを示す指標。