いま、世界で「予測市場」が爆発的な広がりを見せている。
政治や経済、さらにはポップカルチャーに至るまで、未来の事象を予測対象とするこの仕組みは、精度の高い新たなニュースソースとして急速に存在感を高めている。
オンチェーンデータ分析のArtemisのデータによれば、代表格である「Polymarket(ポリマーケット)」や「Kalshi(カルシ)」の隆盛により、市場全体の取引量は2025年に前年比4倍の640億ドル(約10兆2400億円、1ドル=160円換算)へ急増。
2026年1月には単月で270億ドル(約4兆3200億円)と過去最高値を更新し、年間では3250億ドル(約52兆円)に達する勢いを見せている。
予測市場は今や、世界規模の巨大な情報・金融インフラへと変貌しつつあるのだ。

しかし、日本では賭博罪の該当可能性があるため、予測市場への参入は難しいとされてきた。
そんな中、モバイルゲーム事業やブロックチェーン事業等を手掛けるgumiが3月、予測データサービス「ヨソクヒロバ」の提供を発表した。
初期パートナーとしてGunosyと連携し、今年5〜6月頃のローンチを目指すという。法的なハードルが高いとされた予測市場への参入は、業界の関心を集めた。
彼らはいかにして日本の法規制をクリアするのか。集まったユーザーの様々な予測行動データをどのようにビジネス展開するのか。
本プロジェクトの陣頭指揮を執るブロックチェーン等事業のトップ・寺村康氏(写真右)と同事業のプロジェクト責任者である安積(あさか)侑希氏(同左)らを取材した。

賭博罪の該当性を回避する「2ポイント制」
米国を中心に拡大を続けるポリマーケット等の予測市場は、ある未来の事象(例えば「次の大統領は誰か」「ドジャースはワールドチャンピオンになるか」など)に対し、暗号資産などの自己資金を投じて「YES」か「NO」かのシェア(予測の権利)を売買する仕組みだ。

参加者の売買によってオッズ(シェアの価格)はリアルタイムに変動し、事象の結果が確定すると、正解のシェアを持つ者に配当が支払われ、不正解であればゼロになる。
この仕組みをそのまま日本に持ち込むと、自らの財産を賭けて参加者間で利益を奪い合う行為が、刑法(185条)における賭博の要件である「偶然の勝敗に関して財物を賭けてその得喪を争うこと」を充足し、賭博罪が成立し違法となってしまう壁が立ちはだかる。
日本での展開について安積氏は次のように語る。
「昨年の夏前からポリマーケットに着目していた。ただ、そのままの仕組みを日本に持ち込めば、お金を賭ける賭博に該当しうるため、それを回避する策を弁護士とも相談を重ねてきた。また、ポリマーケットは一部の限られた、暗号資産投資家やギャンブル層がメインの顧客となっている側面もある。一方、我々はもっと一般層、例えばポイ活層、主婦や学生たちにも参加してもらえる『予測市場の大衆化』を目指したかった」
そこで彼らが編み出したのが、「A・Bポイント方式」だ。
日本の刑法における賭博罪は、「偶然の勝敗」「財物の拠出」「得喪の争い」という3要件のいずれもを満たすことで成立する。
gumiはこのうち「財物の拠出」と「得喪の争い」を完全に排除するシステムを構築した。

「ユーザーが予測(投票)に使う『予測ポイント(A)』は、ログインや広告視聴などで無料で入手できる。お金で買うことはできず、予想が外れればゼロになる。一方で、予測が的中したりランキング上位に入ったりするともらえるのが『報酬ポイント(B)』だ。これは一定ポイントを貯めると『えらべるPay』などを通じて電子マネー等へ換金できる」(安積氏)
パチンコと比較すると、この構造の違いが分かりやすい。
パチンコでは、まず自分のお金で玉(Aポイントに相当)を買い、その玉を増やして特殊景品(Bポイントに相当)を得て換金する。最初にお金を払って玉を買うため、明確に「財物の拠出」があり賭博の要件を満たす(※パチンコは風営法で特別に許可されている枠組み)。
しかし「ヨソクヒロバ」では、大元となる予測用のポイントをお金で買うことが一切できない。
ユーザーは自らの財産を消費しない「持ち出しゼロ」の構造だ。負けても無料ポイントが消えるだけであり、ユーザー間で財産を奪い合うゼロサムゲーム(得喪の争い)も存在しない。原資はプラットフォーム内の広告収益等で賄われる。
勘のいい読者ならお気づきだろうが、本家ポリマーケットが予測に暗号資産を用いるのに対し、この独自スキームはオフチェーン(Web2)で完結する。ブロックチェーン事業チームとして、入口を無償ポイントにする決断には葛藤もあったであろう。
では、彼らのWeb3技術はどこで活きるのか。そして、日本で真の「日本版ポリマーケット」を実現する構想はあるのか。その答えとなる当サービスの未来像については、第3セクションで明かしたい。
ゲームの知見を活かした熱狂とデータビジネス戦略
自腹を切らない無料ポイント制の弱点は、参加者の強い関心を生み出しづらいことにある。射幸性が低くなるこの構造的課題を、gumiはゲーム会社ならではの「ゲーミフィケーション」でカバーしようとしている。

「1問ごとに稼ぐだけでなく、2カ月などの『シーズン制』を設け、期間中の獲得額や的中率を競うランキングを導入するなど、ユーザーがゲーム感覚で楽しめる仕組みを導入する。もちろん、上位入賞者には賞金(Bポイント)や称号を用意することで、インセンティブも付ける予定だ。元手ゼロでリターンがあれば、学生のお小遣い稼ぎや、ポイ活層にとっても参加意欲を高めるコンテンツになる」(安積氏)
さらに「ヨソクヒロバ」は単なる投票サイトではなく、予測理由をコメントできる機能も実装予定とのこと。
自分の予測理由を語り、的中させてインフルエンサーが誕生するなど、コミュニティを活性化させていく狙いがある。

では、こうして集まったデータはビジネスとしてどう機能するのか。
インセンティブが発生する予測市場には、通常のアンケートのような「どこに勝ってほしいか」という感情ではなく、「当てにいく」という理性が働く。
この理性のデータ、いわゆる「集合知」の活用が期待される。
「例えば金融機関に対し、世界経済の動向について大衆がどう予測しているかのデータを提供したり、エンタメ業界に向けて『春アニメの覇権は?』『映画〇〇の初週興行収入は?』といったデータをコメント含めた定性データとして販売することもできると考えている。これまで不確実性の高かったエンタメ領域の投資に対して、サポート出来るデータとなることを目指したい」(安積氏)
初期パートナーであるGunosyとの連携も、このビジネス展開の一環だ。
ニュース記事を読んで情報を取得し、それをもとに予測行動を行い、結果を知るために再びニュースを再訪問する。
この行動サイクルを生み出し、ユーザーのアクティブ率向上を狙う。
Web3への統合、そして金融商品化への布石
昨年10月、gumiが本事業の検討開始を発表した際、プレスリリース(下)には「ブロックチェーン技術等の最新技術を活用した予測市場」と明記されていた。しかし、今回発表された初期システムは、オフチェーン(Web2)で完結する形となっている。

賭博罪への該当性を回避するために「暗号資産の直接ベット」を避け、無償ポイント制を選択したのは、現状における現実的な判断といえる。
だが、彼らはブロックチェーン事業チームだ。ポイント管理や投票記録など、システムの裏側にはブロックチェーンを使い、Web3の思想を体現したサービスとして世に問いたかったであろう心の内は想像に難くない。
実際、取材中の安積氏の口からは「我々のチームは、ブロックチェーンで新規事業を推進している部門なんですよね」「ブロックチェーンを使った新規事業のアイデアをいろいろ考えていた中で……」と、「ブロックチェーン」という言葉が熱を帯びて何度も繰り返されていた。
それほどの強い思い入れがありながら、Web2ベースのシステムから始動することを選択したのには、次のような理由があるという。

「まずはスピード感を持って一般層に広げることを優先した。ウォレット取得や暗号資産の購入などの準備が必要になると、それは『一般に広げたい』という我々の目的と相反するため、初期段階では見送った」(安積氏、写真上)
しかし、サービスが成長しデータが集積された先のフェーズでは、彼らの本領であるブロックチェーン技術を組み込んでいく青写真も描いている。
「予測データの改ざんを防ぐために、投票のオンチェーン化や特定のトークンを保有しているユーザーに対して擬似ステーキングのような形でAポイントを付与する仕組み、Bポイントの出口をステーブルコインにするなど、クリプト層に向けたアップデートも今後の構想として持っている」(安積氏)
真の日本版ポリマーケットが登場する可能性はあるのかー。インタビューの終盤、寺村氏からは業界の未来像が語られた。
「最終的な帰結点は2つだと考えている。今回のようなポイント制で賭博に該当しない形を目指すか、あるいはカルシ(Kalshi)のように直接資金を投じて予測を売買する、本来の思想に近い形かだ。カルシは金融商品のライセンスを取得し、予測市場をベッティングではなく金融商品の売買として扱っている。
日本においても、現行法の枠組み、つまり金融商品取引法の範囲内で、金融商品化を実現できる可能性はあると踏んでいる。もちろん、金融機関との提携や当局の許認可取得などハードルは高いのも事実だ。ただそれでも、検討を進める価値はあるため、我々も既に金融機関等との対話を始めている。これが実現されれば、直接資金を投じて予測を売買する、いわゆる真のポリマーケットのようなサービスが日本でも展開できるようになる」
動き出した「日本版ポリマーケット」覇権争い
予測市場は日本でもホットトピックになりつつあり、他社の動きも表面化している。
3月16日には、IGS(Institution for a Global Society)が、生体認証「World ID」と連携した予測市場プラットフォーム「Signals」のベータ版公開を発表した。三菱UFJ銀行などの大手企業をパートナーに迎え、すでに具体的なサービスを始動させている。
関連記事:予測市場「Signals」ベータ版始動──IGS、「World ID」と連携
どうやら、誰もが「日本では無理だ」と思っていた市場の扉は、すでに開かれつつあるようだ。水面下では、次なる覇権を巡る企業たちの熾烈な競争が始まっている。
日々のニュースは、受け身で消費するものから、自らの予測を投じる能動的な体験へと変わろうとしている。
日本に予測市場は根付くのかー。gumiの挑戦が、その試金石となる。

|インタビュー・文:栃山直樹
|写真:gumi提供
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