AIと交差する「オンチェーン金融」の衝撃──平議員、スターテイル渡辺氏、メルコイン中村氏が世界的潮流と日本の未来を議論【N.Avenue club Summit】

「Web3やメタバースといったナラティブはすでに死んでおり、今はオンチェーン金融が本筋だ」──。

Startale Group CEO・渡辺創太氏が痛烈な一言を放ったのは、3月19日に行われた「N.Avenue club Summit」のスペシャルセッション「AI×トークナイゼーションで激変する、国家とビジネス環境」でのこと。セッションは、ニューヨークからオンライン登壇した渡辺氏のこの発言で幕を開けた。

N.Avenue club Summitは、Web3をリサーチ・推進する企業リーダーを中心とした、法人会員制の国内最大Web3ビジネスコミュニティ「N.Avenue club」が、会員企業の取り組みやコミュニティ内の共創を促進するために、年1回、開いているイベントだ。

スペシャルセッションには渡辺氏のほか、自由民主党の平将明衆議院議員(前デジタル大臣、初代サイバー安全保障担当大臣)、メルカリグループ・株式会社メルコイン代表取締役CEOの中村奎太氏が登壇。マクロ環境の激変と、日本がとるべき国家戦略・ビジネス戦略について、白熱した議論が交わされた。

今回は、スペシャルセッションの模様をお届けする。なお、この日は会員企業などが取り組みを紹介するプレゼンテーションも行われており、こちらは追って詳報する。

既存金融とオンチェーンが一緒になる

セッションの口火を切った渡辺氏は、現在拠点を置く米国の最新事情について、「完全にオンチェーン金融の時代に入った」と語った。

〈ニューヨークからオンライン登壇したStartale Group CEOの渡辺創太氏〉

渡辺氏は、暗号資産といえばビットコインやイーサリアムの価格に注目が集まりがちだったが、今のウォール街や既存の金融機関が最もエキサイトしているのは「既存金融商品のトークン化だ」と指摘。

金や債券、インデックスなどあらゆるもののトークン化が進んでいると述べ、「24時間365日、今まで考えられないような安い手数料でブロックチェーン上で取引できるようになる。オンチェーン金融と既存金融が一緒になっていく、大きなパラダイムシフトになる」との評価を披露した。

こうした劇的な変化がリアルであることを示す証拠として、渡辺氏は米国の最近のニュースを列挙。S&P500が正式にオンチェーン化されたこと、決済大手Stripeが手掛け、AIエージェントが自律的に支払いを行う新しいプロトコルを持つチェーン「Tempo」のメインネットがローンチされたこと。そして、ナスダックが規約改定を行い、トークン化された株式の取り扱いについてSECの許可が下りたことなどを紹介した。

こうした急激な変化の背景には、国を挙げた強力な推進力があるそうで、渡辺氏は、「SECの長官が『米国の金融市場を数年以内に全部オンチェーン化する』と声明ベースでコミットメントしている」と説明。「アメリカをクリプトの首都にするというトランプ氏の強力なコミットメントもあり、政府の強い意思のもとでかなりの企業が今ニューヨークに戻ってきている」と話した。

AI×オンチェーンで新PT、国家戦略への組み込み

こうした米国の猛烈なスピードに対し、日本の政治はどう動いているのか。

平議員は、AIとブロックチェーンの親和性の高さを指摘した上で、自民党内の最新の動きについて、「生成AIとブロックチェーンを掛け合わせたとき、最も付加価値が出る領域は間違いなく金融だ」とした上で、党内に新しく次世代のAI・オンチェーン金融構想プロジェクトチーム(PT)を立ち上げることになったと明かした。

〈「次世代のAI・オンチェーン金融構想PT」を立ち上げた平将明衆議院議員〉

これはステーブルコインや預金、証券のトークン化など、「オンチェーンになる金融の世界の全体像を俯瞰し、ビジョンを示すための組織だ」という。

▶関連記事:【独占】「金融庁や財務省に緊張感」──自民党「次世代のAI・オンチェーン金融構想PT」が発足、発起人・平将明議員が語る狙い

平氏は、日本は大陸法の国であり、技術的に可能であっても法規制の壁にぶつかることが多いと説明した。

大陸法は、議会や政府が作る制定法が第一次の法源とされ、すべての法領域で尊重されるとする「成文法主義」が採用されているのが特徴。これに対して英米法では、判例が第一次的法源とされ「判例法主義」といわれる。

そうした背景のもと、デポジットトークンのKYC(本人確認)や業法の保証など、複雑な課題を解きほぐす必要があることから、新しいPTでは、いずれも元財務官僚の木原誠二議員が座長、村井英樹議員が事務局長に就任するなど、財務省や金融庁も無視できない本格的な布陣が敷かれるという。

平議員は、ゴールデンウィーク明けにはホワイトペーパーをまとめ、6月の政府の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」にオンチェーン金融の戦略を組み込むとの見通しも明らかにした。

AIエージェントの経済活動と「JPYSC」が狙うグローバル覇権

AIとオンチェーン金融の結合において、最も重要な要素となるのは「ステーブルコイン」だろう。

渡辺氏が率いるStartaleは、SBIホールディングスなどと共同で日本円の信託型ステーブルコイン「JPYSC」の発行を進めている。

▶関連記事:SBIとStartale、円ステーブルコイン「JPYSC」発表──日本初の信託型、4〜6月の提供目指す

その渡辺氏は、AIが進化し、AIエージェントが経済活動に従事するのは“既定路線”とした上で、「銀行口座を持てないAIにとって、プログラマブルで機械言語を読み込めるブロックチェーン上のウォレットとデジタル通貨は必須のインフラになる」と述べた。

そして、ステーブルコインを使えば0.001円単位のマイクロペイメントが可能になり、課金体系やビジネスモデル自体が根底から変わるとも話した。

さらに、ステーブルコイン領域の状況を「デジタル通貨覇権戦争」と表現。米国の金融機関が、裏付け資産のB/S(貸借対照表)上の評価を緩和されるといったSECの動きもけん引し、JPYSCは国内決済に留まらず、米国の金融機関のインターバンク決済やキャリートレードの需要を取り込み、グローバルな金融市場における「日本円のシェア」を奪いに行くという壮大な野望を語った。

メルカリが描くEコマース×AI×トークナイゼーションの未来

国内の巨大なユーザー基盤を持つ民間企業として、メルカリグループはこのマクロトレンドをどう自社の事業に取り込むのか。メルコインの中村氏は「ECは完全にAIに置き換わっていく段階にある」とした上で、価値の伝播を担うフィンテックや決済領域のオンチェーン化は必然だと語った。

中村氏は前提について、「AIを通したEコマースを行っていくにあたり、オンチェーンやステーブルコイン、トークナイゼーションは当たり前のインフラになる」とした上で、同社グループが暗号資産の口座数が500万近く持ち、メルカリグループ内に1兆円を超える巨大な資金のフローがあることに触れた。そして、「売上金や残高をステーブルコインなどのオンチェーン金融に置き換えていくチャレンジは、非常に大きなインパクトを生み出せる」と胸を張った。

〈メルカリグループ・株式会社メルコイン代表取締役CEOの中村奎太氏〉

中村氏はまた、ユーザーがステーブルコインを持ち、決済ネットワークに組み込まれ、既存の銀行APIを使うよりも安く・早く・24時間取引できる世界を実現するためには、企業間でインターオペラビリティ(相互運用性)を設計し、国内ネットワークとして既存金融よりも一段高い価値を提供する必要があるとの認識も示した。

非金融領域への展開:生成AI時代のIP保護とブロックチェーン

議論は金融領域のみならず、エンターテインメントやIP(知的財産)といった非金融領域とブロックチェーンの掛け合わせにも及んだ。

渡辺氏は、昨今、生成AIによるIPの無断利用が問題となっていることに言及。「IPをブロックチェーン上に登録し、二次・三次創作のトラッキングとロイヤリティの自動分配を行うことはオンチェーンのユースケースになりうる」と述べた。

メルカリの中村氏は、越境ECを通じて日本の高品質な商品やコンテンツが海外から買われる動きが伸びているとした上で、「物理的な流通の壁を超え、所有権をデジタライゼーションしてグローバルに流通させるレイヤーは、大いにあり得る」と述べ、マーケットプレース上の価値の流動化に期待を寄せた。

これに対し平議員は、OpenAIやGoogleといった世界的AI企業との折衝の裏話を明かした。生成AIによる知財侵害に対し、OpenAI社はプロンプトの制限やモニタリングチームの組成によってわずか10日間で対応したという事例を挙げ、「クリエイターが『自分のデータを使っていいから収益を還元してくれ』と言えるオプトイン方式のエコシステムを構築するために、ブロックチェーンの技術がうまく機能してほしい」と、AIと知財のWin-Winな関係構築に向けた期待を語った。

Day1からグローバル市場を狙え、待たれるキラーアプリの登場、「AI庁」構想

セッションの最後に、登壇者から参加企業に向けて今後の普及と発展に向けたメッセージが送られた。

渡辺氏は「アメリカのスピードはあまりに早いが、そこに一矢報いるようなプロダクトを日本から出さなければならない。日本の法整備が整った後に国内だけで勝負しても、Web2時代のGoogleのように海外の巨人に勝つことは歴史的に不可能」などと述べ、Day1からグローバル市場でプレゼンスを発揮することが不可欠だとの認識を示した。

中村氏もこれに同調し、「仕組みは整いつつあるが、まだ世界的に見ても絶対的な『キラーアプリ』は出ていない。日本には流通させるべき優れたコンテンツやアセットが豊富にある。我々のような民間企業同士が共創し、クリエイティブな機会を探っていきたい」と締めくくった。

最後に平議員は、AGI(汎用人工知能)が当たり前になる社会を見据え、その法的責任やレギュレーションをどうデザインするのかを考えなければいけないと述べ、自民党内で「AI庁を創設すべき」という議論も出ていることも紹介。「国としてAIと社会のルール整備を進める中で、ぜひ皆様にはAI×ブロックチェーンの領域で新たな付加価値を生み出していただきたい」と呼び掛けた。

AIとブロックチェーンという二つの巨大な波が完全に交わり、実体経済を飲み込み、世界の最先端は既に「オンチェーン金融の実装」へと移行している。今回のN.Avenue club Summitスペシャルセッションでは、日本がその世界的潮流にいかに食い込み、あるいは主導権を握っていくのか、その青写真が示されたと言える。

◇◇◇

この日、取り組みを発表した11の事業者らによるプレゼンテーション(一部掲載不可)は、追ってお伝えする。

発表事業者発表事業者
株式会社ディーカレットDCP東急不動産ホールディングス株式会社
みずほフィナンシャルグループ株式会社スカパーJSAT株式会社
株式会社大和証券グループ本社BIPROGY株式会社
株式会社BOOSTRY株式会社シーエーシー(CAC)
株式会社電通総研KPMGコンサルティング株式会社
在日スイス大使館

|文:瑞澤 圭
|編集:NADA NEWS編集部
|写真:多田圭佑

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