自民党のデジタル社会推進本部(平井卓也本部長)の下に、新たなプロジェクトチーム「次世代のAI・オンチェーン金融構想PT」が発足する。
世界ではいま、株式や不動産、預金といったあらゆる資産をデジタル化し、ブロックチェーン上で一体的に流通・取引する新たな金融の形、いわゆる「オンチェーン金融」の実現に向けた動きが加速している。従来は分断されていた金融インフラを統合し、AIエージェントが人を介さず自律的に取引や決済を担う世界が現実味を帯びつつある。
こうした中で発足する本PTの狙いは、単なる制度研究にとどまらない。急速に進むグローバル競争の中で、日本が後れを取らずに社会実装へ踏み出すための「全体像」を描き出すことにある。将来の金融システムを見据えたうえで、障壁となる関連制度との整合性や論点を整理し、政策提言としてホワイトペーパーに落とし込む方針だ。
発起人は前デジタル大臣で、AI・Web3政策を主導してきた平将明衆議院議員。座長に木原誠二衆議院議員、事務局長に村井英樹衆議院議員が就き、財政・金融分野に通じたメンバーが名を連ねる。
キックオフとなる初会合を24日に控えた18日、NADA NEWSは平氏を独占取材。PT発足の狙いに加え、数年以内に到来すると見る次世代の金融ビジョン、そして制度改革に向けた政治のスタンスを聞いた。
「5年、10年先ではない」
AIとブロックチェーンの親和性の高さ。平氏は、その認識を出発点に話を切り出した。
自民党の「web3プロジェクトチーム」の座長を務め、長らくブロックチェーン分野の政策立案を主導してきたが、生成AIの進化がAIエージェントへと広がる中で、両者の融合を強く意識するようになったという。転機となったのが、昨年のダボス会議だった。
「両者を掛け合わせたとき、最も大きな付加価値が生まれるのは金融分野だ」。現地ではこうした認識が共有されていたと振り返る。

AIによる自律的な意思決定と、ブロックチェーンによるトラストレスな実行。この組み合わせにより、人を介さず取引や決済が完結する「オンチェーン金融」は、すでに現実味を帯び始めている。平氏は「これは5年10年先の話ではなく、数年以内に起こる変化だ」と強調。世界の政策当局や金融機関が同様の方向性を見据えており、日本にとっても無視できない潮流となっている。
実際、国内でも関連する動きは具体化している。昨年10月には国内初の円建てステーブルコインJPYCの発行が始まった。法律上は「電子決済手段」として位置付けられ、DeFi(分散型金融)での活用や決済用途での実装が進んでいる。
また、三菱UFJ・三井住友・みずほの3メガバンクは共同でのステーブルコイン発行に向けた取り組みを進めている。野村ホールディングスや大和証券グループ本社と連携し、株式や債券、投資信託の売買決済をブロックチェーン上で行う実証も報じられた。
一方で、ゆうちょ銀行はデジタル通貨「DCJPY」を活用し、預金そのものをブロックチェーン上で扱う「トークン化預金」の導入を進めている。利用者は自身の貯金口座と連動した専用口座を通じ、残高の一部をデジタル化。決済やセキュリティ・トークン(ST、デジタル証券)の取引などに利用できる仕組みだ。
こうした一連の動きについて平氏は、「個々のパーツは揃いつつある」とする一方、「それらをどう接続し、どのような金融システムとして成立させるのかという全体像が共有されていない」と指摘。個別の技術や制度は前進しているものの、具体的な将来像が見えていない現状に強い問題意識をにじませた。
木原誠二氏を「口説いた」
平氏は「ミクロの制度改正を積み重ねてもエコシステムは回らない」とし、金融はすべての要素が揃って初めて機能すると強調。ビジョンを起点に論点を洗い出す必要性を訴えた。
信託法や預金保険制度、KYC(本人確認)など、オンチェーン金融の実現に向けた関連領域は多岐にわたる。こうした課題を横断的に解決する手法として、特定のブロックチェーン上での権利移転を一括して扱う「トークン化法」のような制度の必要性も話題に上がることが増えた。
これに対し平氏は、「そうした単一の枠組みで解決できるものかどうかも含めて、まずは論点を整理することが重要だ」と指摘。「個別制度の積み上げだけでは対応しきれない」として、分野横断的な制度設計の必要性を強調した。
そのうえで、政治主導でホワイトペーパーをまとめる意義にも言及。「この種の大きな構想は、各省庁に任せると役割分担が曖昧なままで進まない」とし、与党として方向性を示し、その後に政府内の役割整理を進める必要があると話した。
実際、平氏は自身が出演したYouTube番組で木原氏と対談し、本PTができたら「金融庁や財務省はピリッとする」と明言している。オンチェーン金融の到来は不可避である一方、日本では制度整備に5年、10年とかかりかねない。そうした時間軸のギャップに対する危機感が、今回のPT設立の背景にある。
さらに、木原氏が座長を務める意義については、「金融とテクノロジーの両方に精通し、当局と議論できる政治家でなければ進められない」と説明。昨年11月に設立し、自身が委員長を務める「AI・Web3小委員会」では「手に負えないテーマだと感じた」としたうえで、木原氏を「口説きに行った」ことを明かした。
木原氏は財務省出身で金融分野に詳しいだけでなく、ブロックチェーン政策にも早くから関わってきた経緯を持つ。こうした人選により、当局側に「逃げられないという緊張感が生まれるのではないか」との見方を示した。


メガバンクや証券会社の「二重投資」
オンチェーン金融という新たなエコシステムの形成には、スタートアップだけでなく、銀行や証券会社といった伝統的な金融機関を巻き込むことが不可欠だ。
このハードルについて、平氏は「二重投資」という言葉で説明する。全銀システムやSWIFTに代表される既存の勘定系システムを維持しながら、ブロックチェーンを前提とした新たなインフラにも投資しなければならず、経営判断として踏み切りにくい構造があるという。
加えて、人材の再配置やオンチェーン化に伴う預金流出リスクなど、経営上の論点は多岐にわたる。「やるべきだとは分かっていても、“今やるべきか”という判断で足踏みする」と、大企業特有の意思決定の難しさにも言及した。
こうした状況を踏まえ、平氏は「与党がどの程度の解像度でこの問題を捉え、どのような将来像を描いているのかを示すことが重要だ」と指摘。「与党の提言が成長戦略や骨太方針に反映されれば、それは国家戦略になる」と強調し、方向性が明確になれば既存の金融機関にとっても投資判断がしやすくなると述べた。

AIとブロックチェーンの融合を国家戦略として打ち出すことが、結果として民間の意思決定を後押しできる。平氏はそうした道筋を描いている。
ビジョンを政治が示す意義
平氏は、オンチェーン金融という新たな領域を議論するうえで、「まず共通のビジョンを示すことが不可欠だ」と繰り返した。現状では、金融機関や関連プレイヤーの間でも将来像の共有が十分に進んでおらず、「同じ絵を見ているのかどうかすら分からない状況」にあるとする。
AIが前提となる時代において、預金や証券のオンチェーン化が進めば、金融の構造そのものが大きく変わる。AIエージェントの法的責任やトークン化資産における預金保護の在り方など、制度面の課題も少なくない。
こうした中で重要なのは、「従来の枠組みでは整理しきれない」という前提に立つことだと平氏は指摘。AI政策や規制改革の議論とも連動させながら、横断的に論点を整理していく必要があるとの認識を示した。
そのうえで、政治の役割について、ビジョンの提示、スケジュール感の明示、論点の整理、覚悟の提示の4点を挙げる。まずはホワイトペーパーとして提言をまとめ、自民党の成長戦略や政府の骨太方針に反映させることが、本PTの初期目標となる。
オンチェーン金融の進展は、金融機関にとどまらず民間企業や一般利用者にも影響を及ぼすと平氏は述べた。
自身の中小企業経営の経験に触れ、支払い業務の自動化や決済の即時化によって入金までのタイムラグが縮小すれば、資金繰りの効率化につながると指摘。とりわけ余剰資金に余裕のない中小企業にとっては大きなメリットとなり得ると話した。さらに、コスト削減の効果が金利などの形で利用者に還元される可能性にも言及した。
取材の最後、平氏は「これは壮大な取り組みになる」と語った。

AIとブロックチェーンの融合がもたらす金融の構造転換。その全体像を描き、制度と実装を同時に進める今回の試みについて、「場合によっては歴史に残る取り組みになるかもしれない」と述べ、PTへの期待をにじませた。
|取材・文:橋本祐樹
|撮影:今村拓馬
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