年初の東京証券取引所の大発会で、片山財務大臣は「デジタル元年」という言葉を使った。2026年の始まりを告げる場で示されたメッセージは、単なるキャッチフレーズではない。
2026年、暗号資産(仮想通貨)の規制法が金融商品取引法(金商法)へと移行し、株式や債券と同じ「金融商品」として制度の中に組み込まれようとしている。ビットコインETFはその象徴だ。そして伝統的金融(TradFi)の領域でも、金融資産のトークン化やオンチェーン化が進み始めている。こうしたさまざまな動きが重なり、日本の金融は大きな転換点に差しかかっている。
大発会など、金融業界との年始の会合を終えたばかりの片山財務大臣に暗号資産ETFの可能性、暗号資産の分離課税、円建てステーブルコインが持つ大きな役割、金融機関、そして若い世代にとっての「リスクテイク」の重要性などを聞いた。
大発会で語った「デジタル元年」とは
──今日、東京証券取引所の大発会で「デジタル元年」と発言された。暗号資産の金融商品取引法(金商法)への移行が見込まれ、伝統的金融(TradFi)では、金融資産のトークン化・オンチェーン化が進んでいる。これは金融の大きな転換点になるのだろうか。
片山大臣:例えば、株式取引において約定(取引の成立)の2営業日後が受渡(支払い/受け渡し)になる、いわゆる「T+2」を変えなければならないと皆が考えれば、変わっていく。2026年は、そういう1年になるだろう。
2009年に株券の電子化、ペーパーレス化を行ったときも「できるだろうか」と多くの人が言っていた。利用者保護を行いながら、デジタル技術、ブロックチェーン技術を使って、俊敏かつ正確に処理できるようになれば、皆がそちらを望むのではないか。
暗号資産ETFの可能性

──変化を恐れずに進めるには何が必要だろうか。
片山大臣:ビットコインやイーサリアムなどを対象とした暗号資産ETFは、アメリカではインフレへのリスクヘッジとして広がっている。しかも株式と別の動きをし得るインフレヘッジ商品になり、分散投資に活用できる。東京証券取引所(東証)を運営する日本取引所グループ(JPX)も暗号資産ETFに関して決してヘジテイト(躊躇)しているわけではなく、乗っていこうという気持ちはあると思う。
さらに決済には「トークン預金」を使うことも考えられる。トークン化預金は、預金保険の対象にもなり、安全性も担保されて、おそらく手数料も下がる。そういうところに、もう踏み出しつつある。トークン化預金は、JPモルガンが推進したことが大きいと思う。
ただし、日本では、全銀システム(全国銀行データ通信システム)や日銀ネット(日本銀行金融ネットワークシステム)は、非常に重たいシステムではあるが、早くて、信頼性が高い。それを否定する必要はない。
今日、全銀協(全国銀行協会)でも話をしたが、どういう方法が日本にとって一番良いのか。クリプト化、ブロックチェーンの活用を考えようと話をした。
アメリカもヨーロッパも動いており、彼らも同じような問題を抱えているはずなので、話をどんどんぶつけていこうと問いかけた。かなり理解してくれたと思う。
──一方で、日本では「貯蓄から投資へ」は長く叫ばれているが、家計の金融資産のうち、現預金がまだ半分を占める。
片山大臣:アメリカでは、家計資産を投資に回すことで年間1000兆円規模のリターンが生まれている。一方、日本ではまだ数十兆円規模。アメリカは株式の比率が高いこともあるが、リターンが桁違いで、日本の家計資産は経済への貢献度が少ない状態だ。
──デジタル資産が「貯蓄から投資へ」のシフトを加速させることはできるだろうか。
片山大臣:デジタル資産から収益が得られるということだけでも家計資産からの投資が増えるだろう。さらにトークン発行がもっと頻繁に行われるようになれば、大きな影響があるだろうが、そこまで進むには、まだ超えなければならないことは多いと考えている。
暗号資産は税制も変わることで進展していくだろうが、まだユースケースが、それほど多いわけではない。アメリカもETFの形で広がっている。日本でもETFの形で証券会社によって投資商品として販売されれば、資金が集まるだろう。
1年遅れの分離課税で米国との差は?
──規制の金商法への移行は、今年成立、2027年施行が見込まれている。一方、暗号資産の分離課税は「金商法下での状況をみて2028年1月から」となる見込みだ。1年遅れの意図はどこにあるのか。
片山大臣:不公正取引の監視、分離課税の対象となる銘柄の審査などは、自主規制団体が厳格に実施することが今の流れになっている。現状は、ホワイトペーパーの記載内容が不正確だったり、記載内容と実際のコードが異なっているとの指摘もある。体制を整備し、不適切なものは排除できるようにする必要がある。そのための時間が必要ということだ。
──アメリカの状況から、さらに遅れを取ることにならないだろうか。
片山大臣:アメリカが進んでいるといっても投資商品として進んでいるという話。暗号資産ETFが実現されれば、大きな違いはない。
ただし、ETFを取り扱う金融機関は、対象となる暗号資産について自信を持って情報開示できることが必要になる。その意味で、暗号資産業界と歩調を合わせ、税制改正とタイミングを揃える可能性は高い。
円ステーブルコインは「主流化できる」

──米ドル建てステーブルコインの流通が国内でも昨年からスタートした。今後、クロスボーダー決済などで使われるようになれば、円の価値を弱め、国の通貨主権を損なうようなことにはならないか。
片山大臣:アメリカの状況としては、米国債の保有者を求めている。つまり、日本から見れば、ドル建てステーブルコインの先にあるのは、米国債の運用だ。一方で、ドル建てステーブルコインが企業間などの大規模な決済に使われているかというと必ずしもそうではない。
金融における決済手段になっているという状態が国内で生じているわけではなく、運用対象になっている。米国債の利回りは4、5%あり、調達コストを抑えられれば、利回りを確保できる。
日本も短期金利が上がってきているので、円建てステーブルコインで同じことができるようになる。そして、円建てステーブルコインが広がり、国内企業が円建てステーブルコインを持ち、海外の企業がドル建てステーブルコインを持っているなら、非常に安全かつ低コストで瞬時に交換できるようになる。
この仕組みを早く作らなければならない。現状でもドル/円は為替の中で非常に重要な要素となっている。ドル建てステーブルコインと円建てステーブルコインの交換が可能になれば、主力になり得る。ユーロは今、ステーブルコインに慎重なので、ドル/円のステーブルコインの仕組みを作れば、日本は主流化できる。
ポスト・ブレトンウッズ体制と円ステーブルコイン
──その点からも、トランプ政権の暗号資産、デジタル資産政策に注目し、「経験豊富な人材が起用されている」と評価している。
片山大臣:このような体制が可能だと考えて、昨年1月からトランプ政権とコンタクトし、SEC(米証券取引委員会)にも会ったり、米暗号資産業界の主要人物とも会っている。スコット・ベッセント財務長官も暗号資産に非常に詳しい。
第二次世界大戦後の「ブレトンウッズ体制」から発展した今の国際通貨制度は完全に変わる。アメリカがドルをベースとした伝統的な基軸通貨国とならなくても、テクノロジーを使って十分に他国と取引ができる体制を作り上げる。ほとんどの途上国では、自国通貨が脆弱で、ドルが事実上の通貨となっている。それがステーブルコインになっても何の問題もない。日本はドル建てステーブルコインと交換可能な円建てステーブルコインを持てば、その体制の中で重要なポジションを占めることができる。
──そのためには円建てステーブルコインの普及が不可欠になる。
片山大臣:アフリカ、中南米、南アジアでは、ドル建てステーブルコインが広がっていく。そうした国々が今後発展していくとき、日本にとってもチャンスになる。円建てステーブルコインにとって重要なことはドル建てステーブルコインとの完全な兌換性を低コストで実現すること。ブロックチェーンを基盤としているのだから実現しやすいはずだ。
日本企業との取引、あるいは日本政府のODA(政府開発援助)でも、我々は取引相手や相手国に最終的に「円建てステーブルコインに換えて、支払ってほしい」と言えばいいだけ。これまで、ドルを円に替えることは、手数料を含め、手間がかかった。だがステーブルコインが活用できれば、安価に簡単に行える。我々が為替リスクを負うことも少なくなる。
今、日本企業は大きな為替リスクを取って海外で物を販売している。またアメリカはUSAID(米国際開発庁)の縮小・廃止を進め、海外から資金を引いているが、日本は違う。
日本は為替に翻弄されつつも、日本円が変動相場制を維持し続けた意味は非常に大きい。例えば、デジタル人民元とは国際的なポジション・意味が大きく違ってくる。変動相場制であるメリットが今後、極めて大きくなっていく。
CBDCとの役割分担
──円建てステーブルコインの役割が大きくなる一方で、国としてはCBDC(中央銀行デジタル通貨)も検討が進められている。どのような役割分担になるのか。
片山大臣:日本銀行が日本の金融システムの基盤として存在し、その上で金融業界にさまざまな取り組みを進めてほしいという姿勢だ。
システムとしては、CBDCはCentralized(中央集権型)だから、処理スピードは現状、ステーブルコインより早いだろう。あくまでも技術革新の問題であり、どちらが使いやすいかで、その方向に進んで行くだろう。ヨーロッパは、今はCBDCに注力しているが、EVをめぐる動きを見ればわかるように意外と簡単に方向転換する。
リスク回避からの転換

──ブロックチェーンを基盤にした資産のトークン化、金融のオンチェーン化、さらには生成AIの進化を考えたとき、10年後の日本の金融はどのような姿になっているだろうか。
片山大臣:日本の銀行は非常に優秀。この30年間、日本の金融業界は厳しい環境に置かれてきたが、その分、リスク管理やセーフティーネットの制度は世界でも最も整っている。
一方で、その結果として金融機関全体がややRisk Avert、つまり、リスクを避ける傾向が強くなっている面も否定できない。今後は、適切にリスクテイクできるようになれば日本の金融機関は非常に強いと思っている。
高市政権は「日本成長戦略本部」を立ち上げ、17の戦略分野を発表した。地域に企業を誘致し、大規模投資を進めていくうえでは、メガバンクだけでなく、地域金融機関の役割も極めて大きい。
日本の各地域には資金が十分にある。そうした資金を成長や挑戦に向けて動かしていきたい。
──これから資産形成や挑戦を始める若い世代にとって、デジタルアセットはどのような役割を果たすだろうか。
片山大臣:デジタルアセットを活用すれば、アイデアが価値に変わるスピードは飛躍的に早くなる。10年もかからず、そうした世界は現実のものになるだろう。企業にとっては、アイデアを持った人をいかに見つけるかが勝負になる。
「千三つ」と言われるように、すべてが成功するわけではない。だが、1000個試して、3つでも大きく成功すれば、皆がその収益を得られるような状況になる。リスクを取る人が増えるかどうか、そうした人を支えることができるかどうか。国としては、そのための環境整備を進めていく。
若く、才能ある人たちが日本を出て、シンガポールに行く事例があったが、ぜひ日本に軸足を置きながら、グローバルに活躍してほしい。デジタルアセットは、そのための有力な手段になり得る。