近年、暗号資産(仮想通貨)の多様な発行形態やDEX(分散型取引所)の利用が広がる中、資金決済法上の暗号資産該当性や、流動性提供の適法性について、正確な法的知識が求められている。
そこでNADA NEWS編集部は、現行の法規制や当局のガイドライン等に基づく法的見解を、暗号資産法務に詳しい森・濱田松本法律事務所のパートナー弁護士である増田雅史氏に聞いた。
「100万個以下・1000円以上」では不十分
暗号資産の該当性を巡り、「発行数量100万個以下・最小単位1000円以上等を満たせば規制を免除される」という言説を目にすることがある。この点について、増田弁護士は「一部を切り取った説明であり、いささか不十分」と指摘する。
「分割可能性を踏まえた発行数量が100万個以下であることや、最小取引単位当たりの価格が1000円以上であることは、金融庁『事務ガイドライン(16 暗号資産交換業者関係)』改定時のパブリックコメント回答において例示されたものであり、実務上、暗号資産該当性を否定する論拠となり得る水準として重視されているものの、考慮すべき点はそれだけではありません」(増田弁護士)
そもそもこの議論は、事務ガイドライン(I-1-1①)にある1号暗号資産の要件のうち、「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」という点に関するものだ。この要件を満たさない例として、ガイドラインは以下の2点がいずれも満たされている場合を挙げている。
- 発行者等において不特定の者に対して物品等の代価の弁済のために使用されない意図であることを明確にしていること
- 価格や数量、技術的特性・仕様等を総合考慮し、不特定の者に対して物品等の代価の弁済に使用し得る要素が限定的であること
増田弁護士は、この「限定的」とされる要素とパブコメの数字の関係について、次のように解説する。
「最小取引単位当たりの価格が、どの程度であれば『通常の決済手段として用いるものとしては高額である』といえるのかや、分割可能性を踏まえた発行数量が、どの程度であれば『限定的である』といえるのかは、上記によっても依然として不明確でした。
そこで、事務ガイドラインに上記を追記する改正案の公表とともに行われたパブリックコメント手続において、この点に対する質問が行われ、その回答の中で当局は、具体的な数字を示すに至りました。


この数字が暗号資産該当性の有無を区別したラインとして当局が示すものではありませんが、具体的な数字を伴った回答であることから、暗号資産該当性の判断にあたっての実務上の目線感として重視されるに至っています」(増田弁護士)
しかし、これは暗号資産該当性の有無を分別する唯一の要件ではない。さらに重要な点として、ガイドラインには「実態」を重視する留保が付されている。
「実際には、『発行者等において不特定の者に対して物品等の代価の弁済のために使用されない意図であることを明確にしていること』も要求されていますし、事務ガイドラインI-1-1①には同時に『現に小売業者の実店舗・ECサイトやアプリにおいて、物品等の購入の代価の弁済のために使用されているなど、不特定の者に対する代価の弁済として使用される実態がある場合には、同要件を満たす場合があることに留意する。』との留保も付されています。
ですので、例えば分割可能性を踏まえた発行数量が100万個以下であるというだけで、直ちに暗号資産該当性が否定されるわけでもありません。当局も『暗号資産の定義に照らして判断する』と述べているとおり、暗号資産該当性は、『代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる』との定義文言への該当性を慎重に判断すべきであり、必要に応じて専門家の意見を求めるなど、慎重に進めるべき事項であるといえます。
また、暗号資産規制を資金決済法から金融商品取引法に移行する改正法案が可決成立すれば、規制の枠組みは今後大きく変わることとなりますので、暗号資産該当性に関する当局の見解もこれから変動し得る点にも留意を要します」(増田弁護士)
DEXへの流動性提供は「無登録営業」にあたるか
続いて、国内居住者が未登録でDEXに流動性を提供する行為が、暗号資産交換業に該当するのか(資金決済法違反になるのか)という点に関する法的解釈である。
増田弁護士によれば、DEXにおける流動性提供が交換業に該当するかについて「当局は明確な立場を示しておらず、現時点では資金決済法に抵触するかどうかが不明確な状況」だという。
「ただ、暗号資産交換業にあたるためには『業として』暗号資産の売買等を行うことを要するところ、『業として』行ったといえるためには、反復継続性と対公衆性が必要であるとされています。
該当性については、事案に応じて個別具体的に判断されるので一般化しづらいのですが、一般に、自己のポートフォリオ改善を目的とする暗号資産の取引については、対公衆性がなく、『業として』行われているとは評価されません。その結果、例えば自己資金によるビットコインの取引については、暗号資産交換業に該当しないと考えられています。
DEXにおける流動性提供も、もし自己が提供する暗号資産やステーブルコインのプールを用いて第三者との間で取引が行われる点に着目すれば、自己資金によるビットコイン取引に類するものであって、対公衆性がないとして、『業として』の定義を満たさず、暗号資産交換業に該当しない、と整理する余地もあります」(増田弁護士)
しかし、トークンの発行主体が自ら流動性を提供する場合はリスクが異なるという。

「ただし、当局は事務ガイドライン(16 暗号資産交換業者関係)II-2-2-8において、暗号資産にあたるトークンを用いたICOは、自己勘定の取引でも暗号資産交換業に該当するとの立場を明確にしています。この考えがDEXを用いた資金調達行為にも同様に当てはまる場合、発行者自身が流動性供給を行うことにより資金調達を行う手法(IDO=Initial DEX Offering)については、『業として』の定義を充足し、暗号資産交換業に該当する、と判断される可能性があります。
また、前述した暗号資産規制の金融商品取引法への移行が、当局の考え方にどう影響するかも無視できません。2025年12月10日の金融審議会『暗号資産制度に関するワーキング・グループ』報告書は、『現状ではDEXについて明確な規制の手法が確立されていない』としつつ、『規制のあり方について、今後、各国の規制やその運用動向も注視しながら、継続して検討を行うことが適当である』と述べていますので、今後の動向を注視すべきでしょう」(増田弁護士)
|文:栃山直樹
|写真:増田雅史弁護士(2025年4月ブロックチェーン推進協会セミナーにて:撮影・NADA NEWS編集部)
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