暗号資産(仮想通貨)の規制法が金融商品取引法(金商法)に移行し、暗号資産が金融の枠組みに入っていくとき、最も有利なポジションにあるのは、すでに金商法下でビジネスを展開している証券会社と、暗号資産交換業者を傘下に持つSBIグループではないか──これは多くの人が考えることだろう。
2025年3月には、ドル建てステーブルコイン「USDC」の取り扱いを開始し、12月には円建てステーブルコイン発行に向けた取り組みも発表した。市場では、3メガバンクの取り組みに対抗する布石と見る向きもある。
「NADA NEWS」創刊特集の締めくくりに、SBIグループを率いる北尾吉孝氏は「2026年は日本にとって転換点になる」と語った。北尾氏は、TradFi(伝統的金融)とDeFi(分散型金融)が融合した新たな「デジタルバンキング」を描いている。その先陣を切る形で、SBI VCトレードは2026年、大きく変化すると述べた。北尾氏が描く「ビッグピクチャー」とは。
金商法は序章にすぎない──トークナイゼーションという世界的転換
──暗号資産が金商法の枠組みに入り、金融商品として扱われるようになる。これは単なる規制の変更なのか、それとも日本の金融に影響を与えうる大きな動きなのか。
北尾氏:もう極めて大きな話。世界全体で、いわゆるトークナイゼーション(トークン化)が進み、すべてのリアルワールドアセット(RWA)がトークナイズされていく。まさに歴史的な転換点だ。
干支学から年相を見ると今年は丙午(へいご)の年だが、丙午とは「陽が極まりて、陰が現われ始める」年。昔から転換点と言われている。
アメリカではトランプ大統領の就任以降、ジーニアス法、クラリティ法と暗号資産関連の規制が次々と整備され、ステーブルコインは本格的に市民権を得つつある。
日本でも、我々がまず、ドル建てステーブルコインの取り扱いを始め、その後、円建てステーブルコインの話も登場した。ただし、現状は発行・償還における100万円上限など、いくつか大きな制約が残っている。この点は、見直さなければならない。
一方で、日本の暗号資産市場において大きな制限となっていた税制が、ようやく変更されることになった。雑所得の総合課税から、20%の申告分離課税になる方向だ。遅まきながらも、進展している。
ここから先の動きは、さらに早くなるだろう。アメリカでは暗号資産ETFが次々と登場している。この領域は、極めて大きな市場になっていく。
今、私の頭の中にある最も重要なポイントは、2026年は、既存のTradFi(伝統的金融)が本格的に変わり始める最初の年になるということ。DeFi(分散型金融)が入り込み、分散型の金融との融合が進んでいく。
CEXとDEXの融合──SBI VCトレードは大きく変わる

──具体的に、どのような取り組みを進めていくのか。
北尾氏:TradFiとDeFiの融合、より具体的に言えば、中央集権型取引所(CEX)と分散型取引所(DEX)を融合させていく。
我々は、CEXとして、SBI VCトレードを持っているが、現在の形のままでは次の時代に対応できない。非中央集権型、分散型の仕組みが不可欠だ。一方、DEXもCEXと競合するだけでなく、補完し合う関係が必要だ。今、その仕組みを作りつつあり、2026年の大きなテーマになっている。
さらに5年後を見据えると、SBI VCトレードを銀行にすることも場合によっては可能になる。貸金免許を取得すれば、銀行機能を提供できる仕組みを構築できる。そこにDeFiを組み合わせて、本当の意味での「デジタルバンク」を作る。これを2〜3年で徹底的にやるつもりだ。
──2026年以降、SBI VCトレードの姿は大きく変わる。
北尾氏:まずは最新のレンディングプロトコルを導入する。ドルベース、円ベースのステーブルコインを活用した展開になるだろう。意外と早く実現できると考えている。
ただ、日本では規制整備に時間がかかる。そのため、すでにシンガポールでもデジタル生態系の構築を進めている。金融に象徴されるデータプロダクトは、本質的にグローバルなものだ。競争相手は、国内企業ではなく、世界全体。
例えば、イーロン・マスクが、Xにいつ本格的な決済機能を組み込んでくるかわからない。Xは世界中にユーザーがいる。我々もグローバルで力をつけ、日本で環境が整えば、一気に展開する。そのための経験値を今、積み上げている。
──すでに視線は世界に向いている。
北尾氏:私の構想に賛同して、世界中から多くの人が来ている。ベトナムで取引所を作る話も進んでおり、同国の国際金融センターに入ってほしいとも要請されている。
シンガポールでは、さまざまな布石を打ち、夏の講演で「シンガポールに第2のSBIを作る」と発言したところ、当局も非常に強い関心を示している。世界は我々の動きに反応している。
SBIは創業以来、「自我作古、我より古(いにしえ)を作(な)す」という精神で新しい世界を切り拓いてきた。これまで、TradFiの世界でそれを果たしてきた。次は、DeFiの世界で新たにクリエイトしていく。もちろん、これまで積み上げてきたSBI証券やSBI VCトレードといった既存資産を活かす方向で進めていく。そして新しいデジタルバンキングを世界中で作り上げる。
グローバルでの成果を日本市場へ

──ここまでのインターネット、あるいはブロックチェーンの発展をどう捉えているか。
北尾氏:インターネットによって「情報の非対称性」がなくなり、経済民主化のファーストステージが実現すると考えられてきた。しかしながらある程度は進んだ一方で、大手プラットフォーマーが情報を寡占的に扱い、そこから利益を吸い上げる、新たな独占の仕組みも誕生してしまった。
そこで生まれたのが「分散化」というコンセプトだ。分散化によって「第2の経済民主化」が始まろうとしている。それを「Web3」と呼んでもいい。
暗号資産は当初、投機的なものとして扱われてきたが、技術は進化している。特にイーサリアムのスマートコントラクトは画期的だ。ブロックチェーンという基盤の上で、スマートコントラクトを使い、金融を自動化するオンチェーン金融のシステムが現実になりつつある。
そして、次のテーマは「資本市場」そのものだ。資本市場をよりデジタルなものにしていく。その手段が「トークナイゼーション」であり、TradFiとDeFiの融合とは、あらゆるものがトークンになる世界だ。
それを見越して、セキュリティ・トークン(ST)の流通市場である「大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)」を先行して立ち上げた。次に必要なのは決済。すなわち、DvP(証券の引き渡しと代金の支払いを同時に行う仕組み)の実現、すなわちデジタル金融で言えば、トークン化されたアセットをステーブルコインなどで取引できるということだ。
──オンチェーン金融を本格的に展開するうえで、いま一番足りないものは何だろうか。
北尾氏:すべてが複合的に進んでいる。例えば、法定通貨を暗号資産と結びつける「オンランプ/オフランプ」は、CEXが担う重要な機能のひとつだ。
円建てステーブルコインでは、渡辺創太氏が率いるシンガポールのStartale Groupと提携した。彼のような世界で戦い、鍛えられている人は優れた能力を持っている。またシンガポールでは、シンガポール金融管理局(MAS)傘下のGlobal Finance & Technology Network(GFTN)と共同でベンチャーファンドを立ち上げた。
世界中で投資を行い、新しいデジタル金融商品を作り、日本で認可されればSBI証券を通じて拡販していく。そのための武器は、揃ってきている。
さらにAIが、極めて重要になることは間違いない。SBIグループ傘下のAlpacaTechは、ChatGPT、Gemini、Claude、Grokなどの異なる生成AIエージェントを競わせ、最良の結果を選ぶ「MixSeek」というAI活用技術基盤を提供している。ただし、AIが担うのはワークフローであり、人間が価値観に基づいて判断する。人間がコントロールすることを忘れてはいけない。
AIに関して、SBIは金融分野から始めているが、ソフトバンクの孫さんには「今世紀前半、ブロックチェーンは、AI以上に大きな社会変革をもたらす」と話したことがある。ブロックチェーンは、それほどの可能性を秘めていると信じている。
アメリカでは、トランプ大統領も、財務長官のスコット・ベッセント氏も、ブロックチェーンの重要性を理解している。実社会で鍛えられた人たちが政権の中枢にいる。
円、ゲーム、アニメ──日本の価値を押し上げるために
──トークン化、あるいはオンチェーン金融は円の価値を押し上げることにつながるだろうか。
北尾氏:ポイントは、技術の優位性をどこまで発揮できるかだ。日本は天然資源を持たない国であり、技術でモノづくりを進め、円の価値を作ってきた。しかし、企業は厳しい環境に置かれて、海外に出た。そうした企業が戻ってくる環境を作らなければ、日本は成長しない。
海外で言えば、中国は、経済発展の初期段階で投資し、一定の成果をあげたが、ある時点で日本人スタッフはすべて引き上げた。もう現地の人たちに任せている。今も投資などの要請は多いが、政治に振り回されることが多いので、慎重に判断している。
一方で、中東に注目している。40数年ぶりに訪れたサウジアラビアの首都リヤドは、見違えるように変わっていた。アブダビやドバイは、革新的なデジタル金融プロダクトの一大拠点になりつつある。シンガポールがやや規制を強める中で、動きは中東にシフトしつつある。
だからすぐにリヤド、ドバイに現地拠点やオフィスを作り、アブダビでも具体的な協議を進めている。サウジアラビアは、ゲームやアニメに力を入れており、2030年には、次の万博がリヤドで開催される。
──ゲームやアニメといったIP(知的財産)分野でも、ブロックチェーンは重要な役割を果たす。
北尾氏:IPをトークン化することで、初めて一般の投資家がアクセスできるようになる。IPをセキュリティ・トークン(ST)に変えれば、現在は不動産が中心となっているST市場の可能性は大きく広がり、RWAがすべてトークナイズされる世界になる。
もはや金融だけの話ではない。IPをどういう形でトークナイズし、どう流通させるのか。ビッグピクチャーで考える必要がある。そのためにも決済、先に述べたDvPの実現が欠かせない。
円ステーブルコインは競争原理で

──12月に円建てステーブルコインの共同開発を発表した。一方でCircleと提携してドル建てのUSDCを日本で初めて取り扱い、RippleのRLUSDの日本導入も予定している。円建てとドル建ての2種類のステーブルコインは、どういう役割分担になるのか。
北尾氏:円からドルへ、ドルから円へという流れは必ず生まれる。貿易金融にも使えるようにしたい。
特に円建てステーブルコインが重要なのは、円安・低金利環境の中で、円を低コストで借り、海外の高金利で運用するキャリー取引が広く行われ、海外に円が蓄積されているからだ。
シンガポールでも、円建てステーブルコインを発行したいと考えている。USDCを手がけるCircleも、Rippleもすでにシンガポールに拠点を置いている。SBIはシンガポールでライセンスを持っており、さまざまな可能性が考えられる。
また昨年8月には、SMBC(三井住友銀行)ともステーブルコインの共同検討について発表している。シティバンクは、ステーブルコイン市場は2030年までに最大4兆ドルになると予測している。非常に大きなデマンド(需要)があり、全方位で取り組まなければならない。
──3メガバンクがステーブルコインを共同発行するという構想も伝えられている。
北尾氏:実験的な取り組みは構わない。だが、ビジネスは競争を促進する方向で進めなければならない。そのために独占禁止法がある。
アメリカでは、AmazonもGoogleもMicrosoftも、すべてベンチャーとして始まり、自分たちで新しい世界を切り拓いてきた。日本もそうあるべきだ。
常に意識しないといけないのは、金融サービスの受益者である利用者や投資家。そうした人たちが本当に良いと思えるサービスを提供する義務がある。そのために最も重要なのが、競争原理。競争がなければ進化は生まれない。
日本が難しければ、シンガポールやドバイでサービスを進化させ、世界と競争しながら、その成果を日本に導入していく。
──広い視点でみると、日本円や日本自体への信頼が低下している。この状況をどう立て直すべきか。
北尾氏:ノーマライゼーションに向け、その根本原因である円安を是正することが必要だ。成長を促進し、海外に出ていった日本企業が、再び日本に戻る環境を作らなければならない。
また、成長率をどう測るかも重要になる。昔は人口増加率が重要な指標だったが、これは20世紀の考え方。今後は生産性を高めることが重要になる。例えば、AIエージェントを理解できる人を育成したり、フィジカルAIを税金を使ってトレーニングするなど、そういう時代だ。
金融サービスも大きく変わる。TradFiとDeFiをどのように融合していくか。預金のあり方も変わる。法定通貨と暗号資産の関係もステーブルコインを中心に変わる。オンランプ/オフランプが整い、ステーブルコイン同士の交換も簡単になる。
これは極めて画期的な変化だ。2026年はまさに日本にとって転換点になる。
|インタビュー・文:増田隆幸
|撮影:多田圭佑