2026年1月5日、暗号資産運用会社のGrayscale Investmentsが、同社が提供するEthereum ETF(上場投資信託)の投資家に対し、ステーキング報酬の分配を開始したと発表しました。これは、米国のEthereum ETF市場において、ステーキングによって得られた収益をETFの保有者へ直接還元する初めての事例となります。
また、翌1月6日には米金融大手Morgan StanleyがBitcoinおよびSolanaの現物ETFの申請を行ったとの報道もあり、2026年の年明けとともに、暗号資産ETF市場は新たな局面を迎えています。
今回は、これらの動きが持つ意味と、市場全体の動向、Grayscaleの公式発表に基づくステーキング収益分配の仕組みとリスクについて解説します。
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ETFにおける「ステーキング」と規制の動向
このニュースをより深く理解するために、これまでの暗号資産ETFが抱えていた制約と、どのように解消されたかについて振り返ります。
従来の現物ETFは、BitcoinやEthereumをカストディアン(保管機関)のウォレットに保管し、その資産価値に連動する証券として発行する仕組みでした。しかし、EthereumのようなProof of Stake(PoS)コンセンサスを採用するブロックチェーンでは、資産をネットワークに預け入れる(ステーキングする)ことで、トランザクション検証への貢献に対する一定の報酬をETHで得ることができます。
これまで米証券取引委員会(SEC)は、流動性の確保や証券法上の懸念から、ETF内の資産をステーキングすることを認めてきませんでした。そのため、ETF投資家は、現物を直接保有し、ステーキングしていれば得られるはずの年数%のインカムゲイン(ステーキング報酬)を放棄せざるを得ない状況にありました。
2024年にEthereum ETFが承認されて以降、運用会社各社はこの制約の解消に向けて調整を続けてきました。こうした状況が大きく動いたのは、2025年11月です。
米財務省と内国歳入庁(IRS)が、暗号資産ETFにおけるステーキング報酬の分配に関する新たなガイドライン「Rev. Proc. 2025-31」を発表したのです。このガイドラインにより、ファンドがステーキング報酬を受け取り、それをETFの保有者に分配する際の税務上のプロセスが、連邦所得税の観点から初めて公式に示されました。
2025年5月にSECが特定の条件下におけるステーキング活動については証券取引に該当しないとの見解を示していましたが、この時点ではまだステーキング報酬分配時の課税処理は不透明でした。このガイドライン発表により、運用会社各社がステーキングETFを展開し、収益を分配できる道筋が立ったといえます。
今回のGrayscaleの分配は、この新ガイドライン施行後、米国で初めて実施された事例です。今後、Grayscaleの他にステーキングETFを展開している21Sharesなどの運用会社も、同様にステーキング報酬の分配を実施するものとみられます。
分配の詳細とファンドのリスク
Grayscaleの公式発表によると、今回の分配は2025年10月6日から12月31日までの期間に発生したステーキング報酬に基づくものです。
また、ETFの保有者に分配されるのはETHそのものではないことも示されています。ファンドは獲得したステーキング報酬(ETH)を売却し、その売却益を現金として分配するとしており、これにより、投資家は暗号資産ウォレットを管理する手間なく、証券口座上で米ドルとしてインカムゲインを受け取ることができます。
対象となるのは「Grayscale Ethereum Staking ETF(旧Grayscale Ethereum Trust)」などで、1株あたり0.083178ドルの報酬が1月6日に支払われるとされています。Grayscaleは2025年10月、米国で初めて現物ETFにおけるステーキング機能を有効化し、その後2026年1月に、ファンド名称を正式に「Staking」を含む形に変更しています。
発表では当該ETFのリスクについても言及されており、ステーキングに伴うロックアップ期間中、ファンドはその資産を動かせないため、市場急変時に即座に対応できないといった特有の流動性リスクがあることや、当該ETFが1940年投資会社法の対象外である点などが明記されています。
Morgan Stanleyの参入と市場動向
Grayscaleが商品性の高度化を進める一方で、伝統的金融(TradFi)のプレイヤーによる市場参入も加速しています。
1月6日、世界有数の運用資産残高を誇るMorgan Stanleyが、SECに対し「Morgan Stanley Bitcoin Trust」および「Morgan Stanley Solana Trust」の登録届出書を提出しました。これまで同社は、BlackRockなどが提供する他社のETFを顧客に推奨する立場に留まっていましたが、自社ブランドを冠した商品を投入することで、方針を大きく転換しました。
BloombergのETFアナリストであるEric Balchunas氏は、この動きを「BYOA(Bring Your Own Assets)」戦略の一環であると分析しています。これは、顧客の資金を他社商品ではなく、自社の独自商品に誘導することで手数料収入を内部化する手法です。Morgan Stanleyのような巨大な販売網を持つ金融機関が自社ETFを持つことは、暗号資産が一部の投資家向けのアセットクラスから、機関投資家を含めた一般的なポートフォリオの一部として定着しつつあることを裏付けています。
考察
Grayscaleによる報酬分配の開始と、Morgan Stanleyによる自社ブランドETFの申請は、暗号資産ETFが「エクスポージャーの提供」という初期の役割を終え、「金融商品としての高度化」という次のフェーズに入ったことを示しています。
特にステーキング報酬の分配は、EthereumなどのPoSを採用する暗号資産ETFを、単に値上がり益(キャピタルゲイン)を狙うコモディティではなく、保有することで配当のような収益(インカムゲイン)を生むアセットとして投資家に提供できるようになったことを示しています。これにより、債券や配当株を好む伝統的な機関投資家にとって、暗号資産ETFをポートフォリオに組み入れる理論的な根拠が強化されたといえます。
規制環境の変化によるハードルの解消により、今後もSolanaなど他の暗号資産ETFにおいても同様のステーキング対応が進む可能性があります。金融インフラの中に暗号資産のネイティブな機能がどこまで統合されていくのか、今後の動きにも注目したいところです。