大学生の頃、友人が「デートには、お好み焼きがおすすめ」と教えてくれた。焼いたり、ひっくり返す作業で会話が盛り上がり、自分の「腕」も見せられるという話だった。
4月7日、お好み焼きの千房が、HashPortと連携してステーブルコイン「JPYC」での決済の実証実験を開始したと発表した。前日の夕方には、HashPort代表取締役CEOの吉田世博氏がXに【“お好み焼き”とかけまして“日本円ステーブルコイン”と解きます。】から始まる投稿を行い、こう結んでいる。
「ウマくいくかは、返すタイミング次第でしょう」
軽い言い回しの裏にあるのは、通貨主権をめぐる問いだ。
今、ステーブルコインは「米ドル建て」が大部分を占める。吉田氏は「この状況を“ひっくり返せるか”に、日本の通貨主権がかかっていると言っても過言ではありません」と記している。
ステーブルコインは、もはや単なる決済手段ではない。オンチェーン経済における「レール」、すなわちインフラそのものになりつつある。そのレールの上を走るのがドルなのか、それとも円なのか──。この問いは、プロダクトの競争を超え、国の経済をも左右する競争へと姿を変えつつある。
現実を見れば、米ドル建てステーブルコインの優位は明らかだ。流通総額、流動性、対応サービスの広がり──いずれを見ても、グローバルなデファクトになっている。
吉田世博自身も「短期的には、既存市場の大きい米ドルステーブルコインの決済インフラを日本国内で整備する方が、選択と集中が求められるスタートアップにとっては経済合理性があります」と認める。
例えば、同じ7日、SBI VCトレード代表取締役社長の近藤智彦氏は、国内での発行・流通を目指す米ドル建てステーブルコイン「Ripple USD(RLUSD)」について、「100万円制限」を回避できる方向での認可を目指していると語った。100万円の壁がなくなれば、クロスボーダー決済など、BtoBでの利用が一気に広がるかもしれない。
一方で、日本円は、規模では米ドルに劣るとはいえ、グローバル経済の中で重要な基軸通貨のひとつだ。その日本円がステーブルコインとしてオンチェーン経済で存在感を発揮することには、大きな意味がある。
こうした問題意識は、業界全体でも共有されつつある。JVCEA(日本暗号資産等取引業協会)の小田代表は、「JPYCとJPYSCが競合かどうか」は本質的な問いではないとし、「どのように『日本円建てステーブルコインを世界に普及させていくか』」が重要だと指摘する。
日本円ステーブルコインとしては、JPYCのほか、SBIグループとスターテイルグループの「JPYSC」が6月の発行を目指している。JPYSCは「信託型」であり、100万円制限がない。
先週の編集長コラムに、JPYSCについて「機関投資家と国際決済での利用を目指している」と記したところ、スターテイルの渡辺創太氏は「憶測や誤認識が多いけど、toBの大口決済もだけど、もちろんtoCの小口決済や活用、AIエージェントも視野にいれている」とXにリポストした。
円ステーブルコインが、ドルステーブルコインが圧倒的優位を占める状況を“ひっくり返す”──そのタイミングは、まだ残されているのだろうか。
さて、冒頭の話には続きがある。友人はデートにお好み焼きを勧めたが、ほぼ同じタイミングで、ある女性から「デートのためにおしゃれしているのに、匂いがつくから、お好み焼きはダメ」と言われたことがある。「確かに」と思ったのは、もう40年以上昔の話だ。
筆者は小3から社会人の4年間を関西で過ごしたが、実は千房には行ったことがない。だが、映画館で本編が始まる前のCMで何度も見た記憶がある。「ちぼ〜」というナレーションが印象的だった。
東京では有楽町店がJPYC決済に対応したという。かつて「匂いがつくから」とお好み焼きを敬遠した彼女のように、新しい決済手段もまた、思いがけないハードルに直面するのだろうか。
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