なぜバイナンスジャパンは急拡大したのか──1400万口座を巡る国内取引所の陣取りゲームを読み解く【記者コラム】

「イノベーション1、規制9ぐらいの肌感覚だ」
「交換業者の9割が赤字、業界が存続できない」─。

昨年11月、金融審議会のワーキング・グループ。日本ブロックチェーン協会の代表理事を務めるbitFlyerの加納裕三氏は、金商法への移行を見据えた新たな規制案に対し、強い危機感を口にした

提示された資料には、ガバナンスや審査体制の強化など、取引所に対する厳格な要求が並ぶ。

[金融庁:事務局説明資料から 2025年11月7日]

議論の過程とはいえ、委員から「重厚すぎる」と指摘が入り、事業者が悲鳴を上げるのも無理はないボリューム感だ。

取引所の経営を圧迫しているのは、こうした規制のプレッシャーだけではない。

暗号資産銘柄の上場についてCoincheckのCFOへ取材した際、1銘柄を維持するだけで大きな「見えないコスト」がかかる事実が浮き彫りになった。

ノード運用にかかる技術的・人的コスト、銘柄ごとの高額な会計監査費用、そしてカバー取引のための流動性確保。こうした日々の重い負担に、コンプライアンスの厳格化が追い討ちをかけているのだ。

莫大なコスト増を前に、国内の暗号資産取引所は事業環境の大きな転換点にある。

こうした中、4月1日にJVCEAのデータをもとに、国内の暗号資産口座数が1400万を突破したニュースを報じた。厳しい環境下でも、投資家の裾野は確実に広がっている。

では、この規制強化と市場拡大が入り混じる状況下で、実際にシェアを伸ばしているのはどこなのだろうか。

CoincheckやbitFlyer、SBIグループといった大手が順当にパイを奪い合っている─。そう想像するのが自然だろう。しかし実際の数字は、少し意外なトレンドを示す。

現在、急速にシェアを拡大しているのは既存大手ではなく、2023年参入のバイナンスジャパン(Binance Japan)である。

データが示すシェアの急拡大

その変化は、取引データを見ると一目瞭然だ。

Bitcoin日本語情報サイト」でビットコイン(BTC)のデータを覗いてみると、市場の勢力図が塗り替わりつつあることがわかる。(※SBI VCトレードは集計対象外)

まずは、差金決済(レバレッジ取引)や先物を含めた月間出来高を見てみよう。

直近の3月、バイナンスジャパンは約3880億円の出来高を記録している。

bitFlyer(約6847億円)やGMOコイン(約4785億円)といった大手が上位にいるものの、バイナンスジャパンは同月のCoincheck(約2964億円)を上回る規模にまで成長した。

参入からわずか2年半で月間4000億円に迫る取引高を叩き出している事実は、無視できないインパクトがある。

さらに現物取引のデータに絞ると、その傾向はもっと顕著になる。

同月の現物月間取引高を見ると、バイナンスジャパンは3万5080BTCを記録。

Coincheck(2万6796BTC)やbitFlyer(1万5699BTC)を大きく引き離し、現物市場でトップクラスのシェアを獲得しているのだ。

また、ビットコイン価格が急落した2月のデータを確認すると、国内の現物取引高が全体で14万2523BTCに膨れ上がる中、バイナンスジャパンは単独でその42.4%を占める突出した数字を記録している。

2026年に入ってから、同社が猛スピードで国内の取引シェアを奪っている様子が浮かび上がってくる。

なぜバイナンスジャパンへ流れるのか。3つの要因

2026年に入り、同社へシェアが集中している背景には、大きく分けて3つの要因が考えられる。

1つ目は、グローバル版ユーザーの国内移行だ。

バイナンスのグローバル版は2023年11月末をもって日本居住者向けのサービス提供を終了した。

その移行フェーズにおいては、ユーザーに対して期限や利用制限の縮小を知らせる案内メールが幾度となく送られ、新たな本人確認(KYC)手続きとともに国内版「Binance Japan」への移行が強力に促された。

<筆者にも口座の移行を促すメールが何度も届いた>

その結果、もともと世界最大のプラットフォームを日常的に使っていたアクティブな層がそのまま国内法人へと引き継がれ、これが現在の彼らの強固な顧客ベースとなっているわけだ。

2つ目は、大口投資家やシステムトレーダー(Bot)による流動性を求めた動き。

直近の出来高増加を牽引しているのは、まさにここだろう。

昨夏の「IVC SUMMIT」のセッションにおいて、同社の千野剛司代表は、自社の事業モデルを「国内で独立した取引所を運営しているわけではない」と説明した。

その役割は、日本の利用者とグローバル版「Binance.com」を結ぶ橋渡し役であり、世界最大級のプラットフォームへのアクセスを提供することだという。

つまり、日本のユーザーでありながら世界規模の流動性(板の厚さ)を利用できることが最大の武器なのだ。

この強みが如実に表れたのが、2026年2月のビットコイン急落のタイミングだった。

<2月急落したビットコイン:CoinMarketCap>

価格の急変動時、一般的な国内取引所の板(オーダーブック)は薄くなりやすい。

板がスカスカな状態で大口の取引を行うと、想定していた市場価格よりも不利な価格で約定してしまうスリッページ(価格滑り)が発生するリスクが高まる。

2月の急落相場において、このスリッページによる損失を避けるため、約定力に優れるバイナンスジャパンへ、大口プレイヤーが取引の場を移したと見られる。

3つ目は、マス層の開拓とキャンペーンによるユーザー&資産の囲い込みだ。

2025年11月にはPayPayとの連携を開始した。

PayPay残高での暗号資産購入や、売却代金の即時チャージが可能になり、日常の決済と投資が直接つながる仕組みを構築している。

これに加え、最大年率20%に達する高利回りキャンペーンを断続的に展開。入ってきたユーザーと資産を他社へ逃がさない、強力な囲い込み戦略をとっている。

<バイナンスジャパン公式Xから>

既存層の移行、大口の流動性確保、マス層の開拓と資産の囲い込み。この全方位へのアプローチが、現在の出来高急増の背景ではないだろうか。

国内取引所、生き残りをかけたシビアな戦いへ

国内取引所の業界再編も、すでに具現化している。

LINE BITMAXのサービス終了やSBIグループ内での取引所統合は、まさにその象徴。さらに、一部の古参取引所が長期のサービス停止状態に陥るなど、厳しい事業環境を背景にした「選別」がいよいよ隠しきれないものになってきた。

関連記事:【独自】暗号資産取引所BTCBOX、全サービス停止から2カ月超──「担当者不明」窓口対応、ガバナンス不全か

冒頭で触れた「存続できない」という事業者の声は、決して大げさなポジショントークではなかったというわけだ。

足元で過熱するキャンペーン合戦は、拡大する市場の新規顧客を狙う以上の意図が透ける。「黒船」バイナンスジャパンの台頭、そして目前に迫る金商法への移行─。

1400万口座の陣取りゲームは、生き残りをかけたシビアな戦いのフェーズに入っている。

|文:栃山直樹
|画像:バイナンスジャパンWebサイトから(キャプチャ※一部加工)

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