30万人の潜在ウォレット圏が始動──東急ステイ「宿泊権リセール」全国拡大を追う【取材】

予定変更で宿泊代が無駄になってしまう懸念を解消し、ホテルの宿泊権をユーザー間で安全に売買できる「東急ステイ公式宿泊権リセールサービス」。

初期6施設でのスタートから、本日31日に全国の施設へと拡大する。

宿泊権の二次流通プラットフォームはなぜ誕生し、稼働開始から2カ月を経た現在、どのような成果と展望を見せているのか。

本プロジェクトを主導する東急不動産の白倉弘規氏と、ホテル運営を担う東急リゾーツ&ステイの冨田平氏への取材をもとに、ホテル業界が抱える構造的課題、裏側で稼働するブロックチェーン技術の仕様、そして全国展開で見据えるプラットフォーム構想を紐解く。

宿泊権のトークン化によるキャッシュフロー改善

本プロジェクトは消費者向けのサービスであるが、その起点はホテル側の課題解決にあるという。

東急不動産の白倉氏は、ホテル業界が抱える構造的な課題について次のように語る。

「大半のホテルにおいて、オンライン旅行予約サイト、いわゆるOTA経由の集客が全体の8〜9割を占める。OTAはシステム投資が不要である半面、ホテル側からすれば、宿泊料金が入金されるのは末日締めの翌月末払いと、資金回収までに最大で60日程度のタイムラグが生じることになる。その間にも当月払いの清掃費用などの支出が先行するため、ホテルのキャッシュフローは厳しくなりやすい」

<東急リゾーツ&ステイ提供>

さらに、直前キャンセルの増加もホテル運営を圧迫している。

「インバウンドの増加や、コロナ禍において『キャンセル』の概念が一度失われたことなどが要因となり、予約から宿泊までのリードタイムが著しく短縮している。加えて、複数のホテルを仮押さえするケースもあり、結果としてキャンセル率が40〜50%に達する事態も生じている」と白倉氏は指摘する。

ホテル側としては、「早割」のような返金不可プランで一定の稼働率を確保し、段階的に価格を上げていくレベニューマネジメントを機能させたいところだが、直前キャンセルの増加がそのコントロールを難しくしている。

資金回収の長期化とキャンセル率の高止まりという、これらの課題を解決する手段として開発されたのが、今回の宿泊権リセールサービスである。

<東急ステイウェブサイトから>

「予約段階で『NFTチケット』として販売すれば、返金不可であるためその時点でキャッシュインが発生し、そのままホテルに送金できる。予約から入金まで60日ほど空いていたものが、予約段階で資金を回収できるようになれば、キャッシュインのタイミングは飛躍的に早まる」(白倉氏)

<東急リゾーツ&ステイ提供>

システム上の取引ルールとして、出品者は宿泊日前日の23時59分まで、自身が保有する宿泊権をリセール市場に出品することができる。販売価格は1000円から100万円の範囲内でユーザー自身が設定できる。

取引が成立した際、購入者からは購入金額の3パーセントが手数料として徴収される。

一方、出品者に対しては、元の仕入れ値と販売価格の差額、すなわち利益分に対してのみ20パーセント程度の手数料がシステム利用料として差し引かれる設計となっている。利益が出ない価格で販売した場合は、出品者への二次流通手数料は発生しない。

過去にも宿泊権の転売サービスは存在したが、広く普及するには至らなかった。白倉氏によれば、過去のサービスとの違いはホテルの管理システムとの連携にあるという。

「コロナ前にあったサービスなどの大きな問題は、プラットフォームを通じて宿泊する権利を別の誰かに移した時に、ホテル側の予約の名前が変更されていないことだった。一番困るのは、予約されている人と違う名前の人が来て『あなたは誰ですか?』となってしまうこと。我々は、リセールが行われた段階で、ホテルの宿泊管理システム側の名前も同じタイミングで直接書き換えに行く仕組みにしている。ホテル側のオペレーションに負荷をかけずにできるというのが大きいポイントだ」

30万人の巨大ウォレット圏と、転売リスクのコントロール

今回のシステム構築において注力された点の一つが、ユーザーインターフェース(UI)の設計である。

基盤技術としてブロックチェーンを活用しているものの、実際の予約画面やマイページにおいて「NFT」や「Web3」といった専門用語は排除されている。

白倉氏は、この戦略の背景について「2022年のニセコのNFTなどの取り組みの中で、Web3を意識させることによって圧倒的に利用率が落ちるという実感をしていた。そのため、Web3を意識させず既存サイトと同じ感覚で使える操作性にこだわった」と説明する。

ここで、実際のプランの表示画面を見てみよう。

通常プランと並ぶ形で「リセールプラン」が自然に配置されており、利用者にブロックチェーン技術を意識させない設計になっていることがわかる。

具体的には、東急リゾーツ&ステイが運営する会員組織「SMART CLUB」の約30万人の会員に対し、システム登録時に裏側で自動的にウォレットを付帯させる仕組みを採用した。

ユーザーはウォレットの管理を意識することなく、サイト上のリセールプランを購入・出品できる。

これによりウォレットが約30万人のユーザーに付与される計算となり、国内におけるWeb3ウォレットの社会実装としては、約100万ダウンロードを記録したEXPOウォレット(現HashPort Wallet)に次ぐ規模感の事例とみられる。

関連記事:EXPOウォレット、「HashPort Wallet」へ刷新── JPYC・マルチチェーン対応やガスレス機能を発表

実際の稼働状況について白倉氏は、「対象施設やプランを限定しているため、現段階でリセールプランに関連する予約は全体の1パーセント程度にとどまるものの、現場のオペレーションに支障を来したとの報告は受けていない。

一旦は4月以降、全国の施設への実装が完了した段階で、本格的な利用促進の取り組みを進めていきたい」と述べる。

これを受け、東急リゾーツ&ステイの冨田氏は、懸念される転売対策について次のように説明する。

「転売ヤーへの対応については、現状では際立って取引が過熱しているわけではなく、特段の困りごとは生じていない。在庫の出し方によって制限が可能であり、全販売枠を一斉にリセール対象として開放しているわけではないため、買い占めによってホテル側が管理不能に陥る事態は回避できる。一方で、一度購入されたものに対して転売自体を制限することはない。既に購入された権利をいくらで売ろうが、それを売らせないようにするといった制限はしていない」

<東急ステイウェブサイトから>

ユーザー間の取引においても、需要と供給に応じた自律的な価格形成の実例が見られ始めている。

白倉氏は「ニーズが高い日で金額が上がっていれば、キャンセルする代わりにリセールすることで補填ができたり、もしかすると値上がった状態でキャピタルゲインが得られるかもしれない。ホテルのブッキングカーブの特性をうまく活用し、値上がり益を享受できるかもしれないという期待感をエンドユーザーに醸成した商品設計ができていると思う」と手応えを語る。

業界全体へ、変わる「旅予約」の形

本プラットフォームの基盤となるブロックチェーンには、イーサリアムのネットワークが採用されている。完全なパブリックチェーンではなく、ノンカストディアルのプライベートなEVM(イーサリアム仮想マシン)互換チェーンを選択した点も興味深い。

その選定理由について、白倉氏は「純粋なイーサリアムチェーンに比べると、手軽かつガス代も安価といったところがまずベースにある。それに加えて、マーケットプレイスや会員組織をブロックチェーンで持とうとされている事業者さんがEVMチェーンを使っていると聞くので、将来的に何かしらの連携をする時に便利になる可能性が高いと判断した」と説明する。

また、リセール成立時に出品者が受け取る売金の還元方法にも特徴がある。現金での直接返金ではなく、NTTカードソリューションが提供する「EJOICA」を経由し、AmazonギフトカードやPayPayなどの各種電子マネー、あるいは「SMART CLUB」のポイントとして受け取れる仕組みを構築した。

全国の施設への展開を機に、この新しい宿泊スタイルが本格稼働する。そして、白倉氏は「東急ステイ」に留まらないサービス展開を見据える。

「自社ウェブにおける機能拡充という意味で、いろんなホテル様にもこの仕組みを活用いただけるようなシーンを作っていければと考えている」

東急ステイによる宿泊権の流動化は、ホテル業界の商慣習を変化させる可能性を持つ。

ブロックチェーン技術の存在を感じさせないまま、30万人規模のユーザーを巻き込んで展開されるこの二次流通市場が、これからの旅行業界において「予約」の概念をどう再定義していくのか、注目される。

|インタビュー・文:栃山直樹
|トップ画像:東急ステイWebサイトから(キャプチャ)

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