国内のセキュリティ・トークン(ST)市場は、これまで不動産を裏付け資産とする案件を中心に拡大してきた。今、「金利のある世界」がようやく到来しつつあるなか、大きな期待を集めているのが「社債」を裏付けとしたセキュリティ・トークンだ。
SBIホールディングス株式会社が発行する「SBI START債」は、同社初の社債ST。発行額は社債STとしては過去最大規模の100億円。引受販売は株式会社SBI証券(金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第44号、加入協会:日本証券業協会)が担い、大阪デジタルエクスチェンジ株式会社(ODX)が運営する私設取引システム(PTS)である「START」(STのセカンダリー(流通)市場)で取扱う。
「SBI START債」は3月11日にWEBを中心に販売を開始した。WEB販売分は活発な需要のもと、17日夕方には完売し、3月25日には「START」での取扱いがスタートしている。
今回の案件は単なる新商品ではない。発行、引受販売、流通を担う三者が足並みを揃え、「社債をST化すると何が変わるのか」を市場に問う、国内ST市場の次のステージを見据えたものだ。
発行者であるSBIホールディングス、引受販売を担当するSBI証券、そしてセカンダリー市場であるODXの担当者の話からは、不動産偏重だったST市場に「社債ST」という新たな柱を持ち込み、個人向け社債そのものの裾野を広げていきたい。ひいては、日本の家計に眠る1,000兆円を超える預金を動かし、日本経済の活性化につなげたい──そんな思いが伝わった。
エポックメーキングな商品に

SBIホールディングスは、これまでも普通社債を継続的に発行してきた。直近では、個人向けで1,600億円規模の起債実績もある。そうした発行体が、今回はあえてSTという新しい形式を選んだ。
その理由について、SBIホールディングスは「ブロックチェーン上で管理することで、保有状況がリアルタイムにわかる」と説明する。そのような技術的な特性を活かして、今回初回特典として暗号資産エックスアールピー(XRP)を付与することに加え、年に1回の継続的な利払い時に特典(内容未定)の付与を行うことで、投資家との接点を増やす。また特典の受取を通じてグループ内の暗号資産交換業者での口座開設を促す狙いもある。
「グループ連携、グループシナジーも含めて、社債市場を盛り上げていきたい。そうした狙いから、SBIホールディングスとして初めてのSTでの社債発行を決定した」と振り返る。
そこで気になるのが「なぜ発行額が100億円なのか」という点だ。
この問いに対してSBIホールディングスは「発行額が小さいと市場に対してインパクトがない。とはいえ、SBIホールディングスにとって初の社債STであると同時にODXで取り扱われる初めての社債STであり、確実な起債を重視した」と率直に語った。
これまでに国内で発行された社債STは、年限も短く、発行額も1億円、10億円など、従来の社債に比べると、比較的小さな案件が多かった。今回の「100億円」という額は既存の社債と比べるとまだ限定的かもしれないが、社債STの文脈では明確な存在感を持つ。
しかもSBIホールディングスは、今回の販売状況が良好であれば、「次のタイミングで、増額することも検討できる」としている。第1号を成功させ、その先の継続発行や大型化につなげたい考えだ。
金利ある世界で、個人向け社債市場は変わるか
今回の100億円の社債STの背景にあるのが、足元の金利環境の変化だ。SBI証券は「日本にもようやく『金利のある世界』が戻り、今、個人向け社債の市場が盛り上がってきている」と語る。
長く続いた低金利環境では、日本の社債市場は個人向けには広がりにくかった。
だが、インフレが進み、預金金利だけでは物足りないと感じる投資家が増えていることで、社債という商品への関心が高まりつつある。
SBI証券は「預金だけでは資産は目減りする、ということを認識する人が多くなってきている」と分析。一方で、日本の家計の預貯金は1,000兆円以上あるとされるが、「その受け皿となる商品が十分ではなかった」とも述べた。
また、この案件で興味深いのは、社債STを単なる新たな資金調達手段として位置付けるだけではなく、個人投資家との接点を増やす商品として位置付けている点だ。個人向け社債市場が拡大するなかで、さらに一歩進めて、企業と投資家のつながりをどう設計するか。その文脈の延長線上に今回の社債STがある。
SBI証券は「社債STによって、発行体である企業は個人投資家とリアルな接点を持つことができる。資金調達に留まらないプラスアルファの魅力を追求する多くの企業に、社債STを活用してもらいたい」と話す。
単に資金を集めるだけではなく、保有者との関係性を可視化し、継続的な接点を持つ──。そこにST化の意義を見出している。
小口化は「1万円」レベルで終わらない
今回の社債STで発行額100億円と並んで重要なのが、額面金額(最低販売額)が「1万円」であることだ。つまり、1万円からこの社債STを購入できる。
SBI証券は「1万円に設定することのシステム上の制約等はかなり議論したが、小口化はSTの魅力のひとつだと考えている。そこにもこだわって調整した」と振り返る。
しかも、1万円はゴールではないという。SBI証券は「今回の販売状況を踏まえて、将来的にはさらに額面金額を小さくしていく可能性もある」と述べた。
この発言は、今回の案件の意味を大きく広げる。STの可能性として小口化はよく語られるが、それが実際に100億円規模の社債で実装され、しかも「1万円以下」も視野に入るということは、STの可能性が実際の商品として具現化し始めたことを意味する。
小口化がさらに進めば、社債は「まとまった資金で買う商品」から、「若い層も含めて、日常的にアクセスできる商品」へと近づいていく。
また、年限(償還が行われる満期日までの期間)についても、今回は3年債だが、いずれは10年債といった長期化も見据える。
SBI証券も「オンライン証券会社として、もともと若年層に強いが、今回の社債STを若い人たちが購入してくれるのか、どういった投資行動が見られるのかを注視している」と話す。
販売データが蓄積されれば、どの価格帯に需要があるのか、どういった層がボリュームゾーンなのかなど、興味深いデータも見えてくるだろう。
XRPの付与は特典にとどまらない

暗号資産XRPの付与も注目ポイントのひとつだ。
XRPを受け取るには、SBIグループ内の暗号資産交換業者であるSBI VCトレード株式会社での口座開設が必要になる。つまり、社債STの購入をきっかけに暗号資産交換業者とのつながりを作り出す仕組みだ。
SBIホールディングスは「これをきっかけに、グループ内のさまざまな商品・サービスに触れる機会を作りたい」と話す。
従来の社債でも、購入時の特典付与は可能だった。だが、社債STであれば、「リアルタイムに保有者を把握できるので、期中での特典付与が行いやすくなる」と説明する。発行時の販売促進にとどまらず、将来的には保有期間や継続保有に応じた特典設計、あるいは他サービスとの連携にも広がる余地がある。
期中の特典付与などは今後の検討事項であり、保有者とのコミュニケーション設計はまだ途上にある。だが、「途上」であることこそが、STの可能性を示している。
STは、発行体である企業と保有者をつなぎ、関係性を強化することができる。今、多くの企業は自社の経済圏を構築し、顧客に自社の「ファン」になってもらおうとしている。「エンゲージメント」などと言われるが、今後どのようなエンゲージメントが生まれていくのかも楽しみだ。
ODXが実現する社債の「市場取引」

今回、ODXにとっては初めての社債STの取扱いとなる。
ODXは現状のST市場について「不動産STがほとんどを占めている」としたうえで「大規模な社債ST案件が登場したことで、セキュリティ・トークンの世界が広がっていくという期待がある」と語る。
さらに重要な点は、個人投資家の社債の取引に「市場取引」という概念を持ち込むことだ。「社債の取引は、従来は証券会社との相対取引が主だった。そこに市場取引を持ち込むことになる。社債の取引の新しい選択肢になりうる」と説明する。
市場取引になれば、価格の「見える化」が進み、期中で売買に参加する投資家が増える可能性がある。売買が増えれば、ST市場全体の活性化につながり、さらに新しい投資家を呼び込むことにもつながる。
SBIグループを率いる北尾吉孝氏は、講演などでしばしば「プライマリーとセカンダリーは両輪」と語っている。セカンダリー市場の整備は、セキュリティ・トークン市場の活性化、規模拡大につながる重要な要素だ。

もっとも、市場取引の実現は簡単なことではない。SBI証券は「どういう市場設計にすれば良いのか、社内や関係者も含めていろいろ検討した」と述べた。
今回の案件は、社債STという商品の組成のみならず、STの流通インフラ自体を一歩前に進める案件でもある。
見据えているのは「次の標準」
関係者が見据えている先の景色も印象的だ。
SBI証券は「個人向けの社債市場が大きく広がって、そのうちの半分は社債STという世界になってほしい」と語る。さらに「発行体にフラットに、こういう条件の時は社債ST、こういうときは振替債とアドバイスでき、世の中に提供できる社債商品が倍に増えるという世界を目指したい」とも話す。
ODXも「こういう大きな案件が出てくることで、次に何ができるかと、セキュリティ・トークン市場自体が発展していく大きなステップ」と位置づける。
SBIホールディングスは、現状の不動産ST、社債STの枠を超え、「セキュリティ・トークンだからこそ実現できる商品があるはず。伝統的な仕組みでは実現できない商品を目指す、その途中の商品が今回の社債STだ」と述べる。
この「途上」という認識が、今回の案件の本質かもしれない。
まずはプレーンな社債をST化する。小口化によって市場を広げ、保有者との関係を可視化し、流通市場を整える。こうして社債STがより親しみやすく、馴染みある商品になれば、その先に、STだからこそ可能な商品が続く。
不動産、社債、そして次に何が来るのか。
本記事で紹介の社債STについてはこちらから
(ご参考)
● ST紹介動画(SBI証券公式YouTube)
● もれなく100円プレゼント!ST(セキュリティ・トークン)取引口座開設キャンペーン(2026年3月31日まで)(SBI証券キャンペーンページ)