金融庁主催の「Japan Fintech Week 2026」(JFW2026)の開幕初日にあたる2月24日、当社N.Avenueは「FUTURE OF DIGITAL MONEY ― デジタル通貨カンファレンス」を主催した。パネルセッション「制度から実装へ ― デジタル通貨エコシステムの今」では、デジタル通貨がPoC(概念実証)の段階を越え、実装フェーズに入りつつある現状が議論された。
登壇したのは、JPYC代表取締役の岡部典孝氏、ディーカレットDCP取締役副社長執行役員 COOの平子惠生氏、三井住友フィナンシャルグループ執行役専務グループCDIOの磯和啓雄氏。モデレーターはARIGATOBANK代表取締役CEOで日本暗号資産ビジネス協会副会長の白石陽介氏が務めた。
議論の中で示されたのが、JPYCのトランザクションの95%をAIエージェントが動かしているという現実だった。デジタル通貨は、AIや既存の金融インフラとどう共存していくかを問う段階に入りつつある。
PoCで終わった時代から、実装フェーズへ
冒頭で白石氏は、これまで規制を中心に語られてきたデジタル通貨が、実務的な実装フェーズに入りつつあるのではないかと問題提起した。

実際、2019〜2020年頃のブロックチェーン導入はPoCにとどまるケースが多かったが、足元では空気が変わりつつあるという。事業会社や金融機関と日常的に接する立場から、平子氏は現場に強い期待感が生まれていると語る。
その背景にあるのは、既存の業務改善の限界だ。「これ以上の飛躍的な生産性向上は難しい。ブロックチェーンによってその壁を越えられるのではないか、という認識が広がっている」と指摘した。
海外では、DVP(証券と代金の同時決済)やRTGS(リアルタイム決済)、24時間365日決済といった事例がすでに広がりつつある。一方で、日本の金融機関にとっての論点は「やるかどうか」ではなく「いつやるか」に移っている。
平子氏はこの状況を、2000年前後のインターネット黎明期に重ねた。「当時もネットで何ができるのかが議論されていた。ただ今回は先行事例が出揃いつつあり、その波がすぐそこまで来ている」との認識を示した。
AIの登場で揺らぐ「全銀ネット最強説」
一方、既存金融機関の側にも変化が見られる。
磯和氏は、日本の決済インフラについて「世界最高水準にある」と評価した。中央集権型でありながら、1円から巨額決済までリアルタイム処理が可能で、ほぼ24時間稼働している。ブロックチェーンの登場当初は既存システムの優位性が意識されていた。

しかし、生成AIの登場によって状況は一変。プログラマビリティが現実のものとなり、AIエージェントが自律的に資金を動かす可能性が現実味を帯びてきた。
問題は、既存の勘定系システムがその前提で設計されていないことにある。磯和氏は、現在のシステムはオンプレミス中心で保守性も低く、「AIネイティブではない」と指摘。クラウド移行の議論がようやく本格化し、さらに量子コンピューターの進展も重なり、抜本的な対応が不可避との認識が広がっているという。
具体的な課題も顕在化している。
例えばグローバルキャッシュマネジメントでは、海外拠点の資金を集約する作業が依然として人手に依存しているとし、「時差の関係で処理が翌日に持ち越されることも多く、資金が一晩滞留するのが常態化している。ブロックチェーンであれば即時に解決できる」と、その非効率性を認めた。
銀行口座を持てない人に
JPYCを手がける岡部氏は、ステーブルコイン発行後の変化として海外の中央銀行関係者などと専門的な議論を行う機会が増えたと語った。
海外から見た日本の評価は高いと指摘し、規制の整備に加え、税務・会計の取り扱いが明確である点が、実務面での優位性として認識されているという。「キャッシュフロー計算書上で現金として扱えるなど、制度と実務がかみ合っている」と指摘した。
また、ドル建てステーブルコインが大半を占める中で、円建てという選択肢への期待も大きい。為替や金利差を背景にした需要も含め、ユースケースは広がりつつある。

さらに、パブリックチェーン上で発行されていることも特徴だ。岡部氏は「銀行口座を持てない主体にリーチできる」と説明し、AIや訪日外国人など、従来の金融インフラではカバーできなかった領域が重要になるとの見方を示した。
「第二勘定系」という現実解
ディーカレットDCPが展開するのは、主にBtoB領域だ。請求書発行や入金確認、消し込みといったバックオフィス業務は、依然として人手に依存している。
平子氏はこうした課題に対し、商流・物流・金流を一体でデジタル化することで、構造的な効率化が可能になると指摘した。

その際の設計思想が「第二勘定系」だ。既存の銀行システムを維持しつつ、一部の資金のみをデジタル化し、プログラマブルに扱う。平子氏は「すべてをプログラムで制御するのではなく、一部を切り出してリスクを遮断する」方法だと説明した。
AIが動かす経済圏
メガバンクの立場からは、より慎重な視点も示された。
磯和氏は、全銀システムが社会インフラとして機能している以上、「新しい技術が出てきたからといって簡単に置き換えることはできない」と強調。銀行は決済だけでなく、信用創造機能も担っており、流動性リスクとも常に向き合っていると説明した。
AIがトランザクションの大半を担うようになった場合、AML(マネーロンダリング対策)をどう担保するのかなど、新たな論点も浮上する。そのうえで磯和氏は、「レガシーを持たないプレイヤーが先行して事例を積み上げる意義は大きい」と話し、JPYCの取り組みに期待を示した。
議論の後半では、AIとステーブルコインの関係に焦点が当たった。
岡部氏は、JPYCでは、トランザクションの約95%をAIエージェントが占めていると明かした。AI同士がやり取りするSNS「Moltbook」の日本版では、AIが自動でウォレットを持ち、報酬を受け取る仕組みがすでに稼働しているという。
「人間が想定しているより速いスピードで世界は進んでいる」と岡部氏は続け、変化の速さに警鐘を鳴らした。
この動きは、法制度の前提にも影響を与えかねない。AIが自律的に経済活動を行う場合、責任の所在をどこに求めるのか。岡部氏は「人に責任を帰属させるという考え方自体が変わる可能性がある」との認識を示した。すでにAI同士が参加し、審査し、報酬を分配するハッカソンも実施されているという。
銀行はなくなるのか
では、AIが経済活動を担う時代で銀行の役割はどう変わるのか。
この問いに対し、磯和氏は「AIが主導する世界は現実になる」としつつも、インフラ面ではまだ課題が残ると指摘。「処理能力の制約はあるが、数年のスパンで大きく変わる可能性がある」との見通しを示した。
一方で平子氏は、「銀行の機能は必要だが、銀行という形態は変わるかもしれない」との認識を示した。いわゆる「Banking is necessary, banks are not」という考え方に触れつつ、構造変化の可能性を示唆した。

磯和氏は、「銀行はなくなると言われ続けてきたが、現実には依然として強い存在感を持っている」と述べ、、銀行自身がブロックチェーンを取り込んだ新たな金融市場を形成する可能性にも言及。「対立ではなく共存の方向に進むのではないか」と述べ、セッションを締めくくった。
|文:橋本史郎
|編集:NADA NEWS編集部
|写真:多田圭佑
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