日本でのイーサリアムの認知拡大などを進める一般社団法人Ethereum Japanは3月9日、国内企業によるオンチェーン技術の実務利用をテーマとした「Digital Assets Working Group(DAWG)」の設立を記念したイベントを開催した。当社N.Avenue/NADA NEWSの共催で、Ethereum JapanのSho H.氏による基調講演の様子などは既報の通りだ。
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ステーブルコインの利用やRWA(現実資産)のトークン化が進みつつあるが、日本企業がオンチェーン経済圏へ参入するには、会計・税務、セキュリティ、規制への対応といった「実務の壁」が大きく立ちはだかっている。今回設立されたWGは、こうした課題を解決し、企業の安全なオンチェーン参入を支援することなどを目的としている。
本記事では、Ethereum Foundationのリー・エイドリアン(Adrian L.)氏によるスペシャルセッションや今後のエコシステム拡大に向けた力強いビジョンが語られた企業ピッチの模様をお届けする。
イーサリアムの「堅牢性」と「継続性」
Ethereum Foundationでアジア総括責任者を務めるエイドリアン氏は、企業が数あるブロックチェーンの中からイーサリアムを選ぶ理由について、「信頼」の観点から解説した。同氏は、イーサリアムの最も重要な価値はネットワークの堅牢性と継続性にあると指摘。2015年の立ち上げ以降、メインネットは一度も停止することなく稼働し続けている。

さらに、RWA.xyzのデータをもとに、トークン化資産の50%以上がイーサリアム上で発行されており、その規模は約150億ドルに達していることを紹介。「トークン化資産の分野でも中心的なネットワークだ」と強調した。
具体例として挙げたのが、ブラックロックのトークン化ファンド「BUIDL」だ。米国債の利回りをトークン保有者に分配する仕組みで、パブリックブロックチェーン上では最大級のマネーマーケットファンドとなっている。RWA.xyzによれば、2024年3月の立ち上げ以降、すでに約25億ドルの資産を集めているという。
このほか、Visaによるステーブルコイン決済の実証や、Coinbaseのレイヤー2展開にも触れ、「資産運用、決済、金融サービスなどで企業の実験が少しずつ増えている」と述べた。
エイドリアン氏は最後に、①イーサリアムがオンチェーン金融の基盤であること、②トークン化・ステーブルコイン市場が世界で拡大していること、③日本は金融と技術の両面で重要な役割を担う可能性があること、の3点を提示し、セッションを締めくくった。
海外と日本企業をつなぐ架け橋に:Fracton Ventures 亀井氏
続いてWGの参画企業によるピッチが行われ、各社がソリューションとビジョンを共有した。
最初に登壇したのは、2021年に創業した日本初のWeb3特化型インキュベーター・Fracton VenturesのCo-Founderである亀井聡彦氏。同社はこれまで約50のWeb3プロジェクトを支援してきた実績を持ち、Web2企業のWeb3進出も支援している。Arbitrum Foundation(アービトラム財団)と提携し、国内拠点「Arbitrum Japan」を展開した経験もある。

亀井氏は、日本企業がWeb3に参入する際の課題として、「分散化された海外プロジェクトには、BD(事業開発)担当の窓口がない」点を指摘。今回のWGやEthereum Japanの活動全体が、海外エコシステムと日本企業をつなぐ役割を担うことへの期待を示した。
また、世界中のDAOビルダーが集う「DAO TOKYO」や「ETH Meetup Tokyo」といったカンファレンスやハッカソンの共催を通じた開発者コミュニティの育成にも言及。資本と人材の供給を通じて、エコシステムの成長を支えていくと語った。
インテントベース技術でクロスチェーンの操作を簡単に:Pheasant Network 田上氏
Pheasant Network CEO・PGL代表取締役の田上智裕氏は、今年から拠点を構えるポルトガルのリスボンからビデオ登壇。AIを活用したインテントベースのクロスチェーン技術を紹介した。同プロトコルは2022年、Ethereum Foundation直接のグラント(支援)を受けた。これまでに300億円以上、12万件のトランザクションを処理してきた実績を持つという。
現在、異なるチェーン間で資産を移動して運用するには、ユーザー自身がブリッジの利用やガス代の準備などを行う必要があるが、同プロトコルの「インテントベース技術」を使えば、AIによる自動化が可能だと説明した。
田上氏はまた、暗号資産のスタートアップの地理的特性についても解説。「VCが集中する北米は資金調達拠点、ユーザーや代理店の多いアジア・中東はマーケティング対象、ノマドワーカーの多い欧州は開発拠点になることが多い」と分析した。

日本での活動としては、アライドアーキテクツとのパートナーシップ締結を発表したばかりで、PGLがオンチェーン実装の開発を担うことで、日本企業の参入を本格的に推進する方針を示した。
会計・税務…「裏側の負担」を軽減:RIKYU 高瀬氏
3人目に登壇したのは、RIKYU代表取締役の高瀬兼太氏。同氏は日本ブロックチェーン協会(JBA)税制分科会副会長も務めており、企業が直面する「実務の壁」の中でも、特に会計・税務の課題に焦点を当てた。

企業がオンチェーン資産を保有すると、損益計算や税務、監査対応などの負荷が急増する。この「裏側の負担」こそが普及を阻む最大の要因だと指摘。具体的には3つ挙げ、①ウォレットベースでの正確なオンチェーン取引取得、②トランザクションの検証・分類、③税務・会計・監査の精度が未整備であることを挙げた。
そのうえで、同社はこれらの課題解決のため、「暗号会計 RIKYU」と「RIKYU API」を提供していると説明。国内外の49のブロックチェーンと18のカストディアルサービス・取引所に対応しており、ウォレットアドレスやAPIを登録するだけで、複雑な取引を自動で収集・構造化し、仕訳データとして正規化・配信できるという。
高瀬氏は、自社を「単なるSaaSではなく、ユースケースごとにデータを提供するデータプロバイダー」だとし、WG内でも税務・分析・監査の文脈から貢献したい意向を示した。
誰もがデジタル資産を活用できる世界を:マイナウォレット 橘氏
マイナウォレット代表取締役の橘博之氏は、マイナンバーカードを活用したウォレットと決済インフラについて紹介した。

2021年頃にEthereum Foundationのグラントを獲得した同社は、全員がエンジニアの技術者集団だという。ICチップを署名デバイスとして利用するセルフカストディ型の「マイナウォレット」を開発。ガス代を意識せず利用でき、銀行・証券口座との連携にも対応している。
同社はまた、ステーブルコイン決済を可能にする「マイナペイ」も発表。既存の決済端末を利用し、マイナカードをタッチするだけでJPYCやUSDCなどのステーブルコイン決済が完了するもので、既にJCBや三井住友カードなどと連携して実証実験に取り組んでいる。
橘氏は、「誰一人取り残すことなく、デジタル資産を活用できる世界を実現したい」などと述べた。
次世代の金融インフラの基盤:アライドアーキテクツ 大木氏
最後に登壇したのは、アライドアーキテクツで最高暗号資産責任者(CCO)を務める大木悠氏。事業会社の視点から、企業が暗号資産を保有する戦略的意義を語った。
同社は、AIを活用したデジタルマーケティング支援などを展開。累計6000社以上の顧客ネットワークを持ち、2026年1月から「次世代DAT(Digital Asset Treasury)構想」を進めている。詳細は近く発表予定だというが、「自社でのデジタル資産の保有・運用」「他社への提供体制」「イネーブラー事業」の3軸で展開する予定だと説明した。
大木氏は、日本企業の多くがインフレを懸念しながら対策を講じられていない現状を踏まえ、国家の介入がない暗号資産を「自分の身は自分で守る時代の防衛手段」だと指摘。企業はビットコインやイーサリアムをバランスシートに組み込むべきなどと主張した。

また、2033年までに2800兆円規模に成長するとされるトークン化資産市場について、取引の基盤となり得るイーサリアムへの投資の重要性を強調。「次世代の金融インフラ」を巡る競争はすでに始まっていると指摘した。
大木氏はさらに、イネーブラー事業の重要性を強調し、「暗号資産を持っているだけでは不十分で、エコシステムに貢献しているとは言えない」と説明。同社が供給サイドと需要サイドのマッチングと設計を担うアーキテクトとしての役割を担うとし、「アライドもエコシステムを育てる企業になる」と述べた。
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イベントではこのほか、来場者の質問に登壇者が答えるQ&Aやネットワーキングも行われた。

デジタル資産市場は実証実験の段階を終え、企業が本格的に財務や決済の基盤に組み込む「社会実装」のフェーズに入りつつある。イーサリアムという強固なインフラの上に、実務的なソリューションが整備されれば、日本企業がグローバルなオンチェーン経済で存在感を発揮する日が訪れるかもしれない。
WGでは6月に、国内企業がイーサリアムを活用するうえでの課題と今後の方向性をまとめたレポートを公開する予定としている。
|文:瑞澤 圭
|写真・編集:NADA NEWS編集部
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