円建てステーブルコイン、実装元年の課題——政府自ら使う姿勢を、ガラパゴス化回避の条件を議論【デジタル通貨カンファレンス】

世界に流通するステーブルコインの99%はドル建てだが、これは需要の差というより、他通貨の選択肢がほとんど存在しなかったためだ。円のステーブルコインは今後存在感を高めていく──。

アステリア代表取締役社長/CEOの平野洋一郎氏がこう言い切ったのは、「Japan Fintech Week 2026」(JFW2026、金融庁主催)の初日である2月24日、当社N.Avenueが主催した「FUTURE OF DIGITAL MONEY ― デジタル通貨カンファレンス」のパネルセッション「ステーブルコインの実装と、グローバル標準への戦略」でのことだ。

JPYCが日本で発行されておよそ半年。円建てステーブルコインは発行そのものがニュースだった段階を過ぎ、実際にどのような場面で使われるのかというユースケースの構築に関心が移りつつある。だが、その普及には技術・規制・ユースケースが複雑に絡み合う課題が待ち受ける。

このセッションでは、平野氏のほか、ソニー銀行DX事業企画部長の金森伽野氏、ソラナ財団アジア太平洋事業統括のLu Yin(ルー・イン)氏らが登壇。日本が世界標準のデジタル通貨経済圏を構築するための具体的な条件について議論が交わされた。モデレーターは、Web3・DeFi領域で200件超の投資実績を持つ主要ベンチャーファンド「IVC」のパートナー、Ann Chien(アン・チェン)氏が務めた。

なぜ「円建てステーブルコイン」が必要なのか

チェン氏から「世界のステーブルコインの99%は米ドル建てである中で、なぜ円建てステーブルコインが必要なのか」と問われた平野氏は、これまで円建てという選択肢がなかっただけだと回答。「世界のマネーシェアを見れば、円はもっと存在感を持っていい。だがオンチェーンの世界で円建て流動性が薄い現状を変えるには、使われ続ける理由を作る以外にない」と付け加えた。

〈アステリア代表取締役社長/CEOの平野洋一郎氏〉

これを受けてソラナ財団のイン氏は、ステーブルコインを金融インフラの進化の文脈で位置付けた。

「ステーブルコインは、金融インフラが新たなテクノロジークラスへ移行している象徴だ」と述べ、「ステーブルコインは、その新しい技術と接続するための主要なプロダクトの一つだ」と指摘。さらに、各国が自国通貨のステーブルコインを発行する意義は、この新しい技術基盤への接続口を確保することにあるという。

一方でソニー銀行の金森氏は、ソニーグループの強みを踏まえたユースケースの可能性を示した。

「エンターテインメント企業の観点からは、NFTや証券トークンなどを組み合わせたB2B2Cのユースケースも広げていきたい」

「AIエージェント経済」と決済の融合

では、企業が実際に利用する場面はどこになるのか。決済、財務管理(トレジャリー)、ロイヤルティ、NFT、B2B決済の中でどれが最もスケールするかとの問いに、平野氏は「B2B決済とトレジャリーサービスの組み合わせ」と答えた。

その理由として、24時間365日のリアルタイム決済、APIによる基幹システムとの統合、AIエージェントとの連携を挙げた。

さらに、JPYCエコシステムの決済インフラについて問われると、「JPYCゲートウェイ」をリリース予定であることを明らかにした。これは企業実装のボトルネックを解消するためのインフラ製品だという。

承認のワークフローやウォレット管理、ガス代処理、ログ、監査対応といったエンタープライズ機能を備え、100以上のコネクターを通じてERPなどの企業システムと接続できる。

平野氏は、今後の経済構造にも言及。「人間の経済とAI経済が融合する中では、エージェントが処理するタスクごとに、マイクロペイメントが必要になる」とし、「10セント以下の単位でも成立する決済インフラとして、円建てステーブルコインはAI時代の基盤となる」と強調した。

ソニー銀行もすでに複数の事例を積み上げている。

〈ソニー銀行DX事業企画部長の金森伽野氏〉

大人気漫画「鬼滅の刃」のコンサートでは来場者へNFTを配布し、体験価値と保有・利用権をデジタルで証明。別のプロジェクトではアートワークをRWA(現実資産)連動型NFTとして発行した。また、米国で開催されるポップカルチャーの祭典「ニューヨーク・コミコン」では、IPに紐づくデジタルアイテムの所持者のみが体験できるAR機能を提供しているという。

金森氏は、「将来的には、ソニーグループのデジタルアイテム全体が、デジタル通貨と同じチェーン上で流通する世界を描いている」と述べた。

コンプライアンスの壁——ソラナが用意する「三層構造」 

日本の大企業がステーブルコインを導入するには、コンプライアンス要件を満たすことが前提となる。

イン氏はソラナのエコシステムとして、コンプライアンスとセキュリティに関する複数の選択肢を提供するツールの整備を目指していると説明した。柱は3つあり、「トークン拡張機能(Token Extensions)」「ソラナ・パーミッションド環境(Solana Permissioned Environment)」「コントラ(Contra)」だという。

「トークン拡張機能」は、メインネット上でコンプライアンス機能を有効にする仕組みで、トークンの凍結や引き出し制限、ホワイトリストの強制適用などをネイティブ機能として提供する。

「ソラナ・パーミッションド環境」は、日本の金融機関などのために、完全に隔離されたプライベート環境を提供する。既に、シティグループがトレード・ファイナンスチームでこの製品を利用していると発表している。

3つ目の「コントラ」は、これら2つの中間に位置する製品・技術。金融機関が独自チャネルを構築しながら、取引のプライバシー保護や資金の移動方法といったルール設定、ガス代ゼロなどを実現できるという。

イン氏は「米国のようにオープンな環境よりも、日本のような規制に慎重な国にとって特に魅力的だ」と胸を張った。

〈ソラナ財団アジア太平洋事業統括のLu Yin氏〉

さらに、ソラナの規模感を示すデータも紹介された。直近四半期の処理額は12兆ドル、1日の取引処理件数は約1億件で、NASDAQの1日5000〜8000万件を上回る水準にあるという。

 「世界のオンチェーン標準」をクリアせよ 

日本は歴史的に、グローバルスタンダードとは異なる強固な国内システムを発展させてきた。結果として、「ガラパゴス化」していると呼ばれることも多い。

では、ステーブルコインの分野で日本がグローバルの流動性から孤立しないためには何が必要なのか。

〈「IVC」のパートナーを務めるAnn Chien氏〉

チェン氏の問いかけに、イン氏は回避のための条件として4つのポイントを挙げた。

まず、機関投資家グレードのウォレットとAML・KYT・KYCといったコンプライアンスインフラの整備。次に、マーケットメーカーが参加できる流動性環境の構築で、特にドル円ペアの成立が重要になるという。さらに、東アジアや東南アジアとのクロスボーダー決済ユースケースを確立すること。そして、規制当局や中央銀行自身がユースケースを生み出し、技術への信頼を実証していくことを挙げた。

イン氏の指摘を受け、平野氏もグローバル標準への適合の重要性を強調。「日本独自の競争力や独自性を持つことは大事だが、世界のオンチェーン標準はEVMとERC20。日本独自の技術仕様でステーブルコインを作れば、国内では動いても海外からは使えない」と語った。

さらに、資金決済法で認められている3種類のステーブルコインのうち、オンチェーン型だけがグローバルに開かれていると指摘。「この一点を守れるかどうかが、日本が世界に接続できるかどうかを分ける」とした。

Web2とWeb3の接続、FX大国という武器

議論は「3年後」という中期展望へと移った。

平野氏が最重要テーマとして挙げたのは、「AIエージェント決済」だ。AIが自律的にタスクを処理する経済では、処理のたびにマイクロペイメントが発生する。

10セント以下の粒度でもリアルタイムに成立する決済インフラは、現状の銀行系システムでは実現できない。平野氏は、「ビジネスのスピードはAIが決める。決済がそのスピードに追いつけるかどうかが企業競争力を左右する分かれ目になる」と述べた。

金森氏が挙げたのは「Web2とWeb3のシームレスな融合」。企業は現在、Web2の世界で事業を運営しながらWeb3に拡張しようとしている。両者をいかに「シームレスかつ緊密に接続できるかが鍵」だと述べ、デジタル通貨の普及条件となると予測した。

一方、イン氏は日本固有の強みとしてFX(外国為替証拠金取引)市場に注目した。

「日本はFX取引規模で世界トップクラスに入る」とし、円建てステーブルコインをFXヘッジや決済に組み込むことは、他国では成立しにくいユニークなユースケースだと主張。「日本の金融機関にとって、最も説得力のある入り口になり得る」と説明した。

「グレーゾーンの解消」と政府の関与

最後に、金融庁をはじめとする規制当局への具体的な提言が相次いだ。

平野氏が求めたのは、「グレーゾーンの解消と税制の整理」。現行の制度では、企業が円建てステーブルコインを本格活用する際、法解釈が明確でない領域が残っているためだ。

さらに、より踏み込んだ提案も行った。平野氏は「政府や自治体が自らステーブルコインを使うべきだ」と主張。「税関連の取引にステーブルコインを活用するだけで、日本経済全体の処理速度は上がる。政府が率先して使い始めれば、民間の普及速度は桁違いに変わる」と強調した。

イン氏は金融庁との対話を「常に前向きで建設的だ」と評価した上で、本質的なジレンマを指摘した。

「プライバシー設定やパーミッション制御、コンプライアンス要件を積み上げれば積み上げるほど、流動性は下がる。これは技術の問題ではなく設計の問題だ」と指摘。スタートアップから大企業までが新しいユースケースを試せるよう、パブリックエコシステム上で迅速に実験できる枠組みの必要性を訴えた。

金森氏はユーザー保護の視点から、KYC(本人確認)とAML(マネーロンダリング対策)の重要性を指摘。KYCをどのタイミングで実施するかという設計が、サービスの利便性と安全性のバランスを決めると述べた。

円建てステーブルコインが「存在する」段階から「普及させる」段階へと移行する中、世界標準に乗り遅れれば、円建てステーブルコインが国内専用の閉じた仕組みにとどまるリスクもある。

平野氏が述べた「日本独自の技術で作れば、海外からは誰にも使われない」との言葉は、日本が過去のガラパゴス化を繰り返さないためにも、改めて意識する必要がありそうだ。

|文:瑞澤 圭
|編集:NADA NEWS編集部
|写真:多田圭佑

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