2月24日から27日まで都内で開催中の「GFTNフォーラム・ジャパン2026」で26日、国内初の日本円建てステーブルコインを発行するJPYC社代表取締役の岡部典孝氏とN.Avenue/NADA NEWS 代表取締役CEOの神本侑季が対談した。JPYCの設計と実装を取り上げながら、「デジタル円の未来」をテーマに意見を交わした。
岡部氏はまず、世界のステーブルコイン市場は約50兆円規模に達したが、その大半を米ドル建てが占めていると指摘。日本は4カ月前にJPYCの発行が始まったばかりだと述べ、発行額は数億円規模に留まると説明した。岡部氏はこの対照的な構図について、「日本の規制は世界で最も進んでいるが、発行額は遅れているという面白い状況にある」と分析した。
市場の起爆剤として岡部氏が最も注視しているのが、AIエージェントの台頭だという。AI専用SNS「MoltBook(モルトブック)」の登場などを例に挙げ、AIが自律的に経済活動を行う世界観はすでに現実のものだと指摘。海外ではすでに、AIエージェント間の決済にUSDCなどが活用されており、その「日本版」としてJPYCへの需要が急速に高まっていると説明した。
また、ドル建てが90%以上を占める現在の「ドル一強」からの脱却を考えるうえで、厳しい規制をクリアして発行される日本円ステーブルコインへの期待は世界的に大きいとし、日本円はドル以外の法定通貨候補として「最も大きくなり得る存在だ」とポテンシャルを強調した。
神本は岡部氏に、JPYCが他社に先駆けてライセンスを取得できた背景について質問。岡部氏は、2021年から「前払式支払手段」としてJPYCプリペイドの発行を続け、実戦経験を積んできた実績を強調。さらに、米サークル(Circle)社からの出資を受けグローバル規格を熟知していたことが、金融庁から認可を得る大きな原動力になったと振り返った。
国内外で異なるJPYCの需要
岡部氏は円建てステーブルコインの存在意義について、国内外で異なる2つのニーズがあると説明。海外では、ドル一強への不安を背景としたファミリーオフィスによる分散保有や低金利の円を借りて高利回りで運用する「円キャリートレード」の基盤としての活用があるという。
対して、国内のメリットとしては、税務と会計処理の圧倒的な簡略化を挙げ、暗号資産による決済などで障壁となる煩雑な利益計算が「楽になる」ことが最大のメリットだとその実用性を強調した。
一方で、普及に向けた課題については制度面に残る複数の「宿題」を挙げた。特に強調したのが、JPYCが準拠する第二種資金移動業特有の「100万円制限」だ。JPYCの発行償還時のこの制限が解消されない限り、機関投資家による大規模なオンチェーンFXや貿易決済への展開は難しく「緩和されないと、大きなビジネスには使いにくい」と話した。

また、JPYCの法的性質を「金銭」と明確に見なすかどうかも重要な論点だと説明。「各省庁の法律の中で、JBYCをどう扱えばいいか」という点がまだ課題として残っているとし、法的解釈が統一されれば、給与支払いや出資金払い込みなどのユースケースが一気に拡大すると展望した。ただ、こうした制度上の課題は「時間の問題で解決する」との見通しを語った。
「信託型」との住み分け、AIエージェントへの期待
さらに、現在国内で進んでいる三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクが進める信託型ステーブルコインとの違いについても言及。信託型は主に、「トークン化預金」に近い性質を持ち、管理者が承認した相手のみが利用できる「ホワイトリスト方式」で大企業向けのホールセール領域を狙うものになると予測。
対してJPYCは、AIやロボットを含め誰でも自由に持てる「ブラックリスト方式」を採用しており、「悪いことをした者だけを止める権利を留保する」設計になっていると説明。この仕組みこそがパーミッションレスな経済圏を支える鍵となると、JPYCの立ち位置を強調した。
対談の締めくくりとして、岡部氏は「JPYC社でなければできないことに注力する」との哲学を語った。JPYCを活用できるウォレット開発や店舗決済の導入などは、エコシステム内の外部プレイヤーによる自律的な発展に委ねる方針だ。

「AIに向けた情報提供はしっかり行うが、それを使って何をするかは皆さんが自由に、勝手にやっていただくフィールドだ」と述べ、外部のプレイヤーがJPYCの活用法を自律的に発想することで社会実装が加速していくとの見方を示した。
|文・写真:橋本祐樹
|トップ画像:JPYC社代表取締役の岡部典孝氏(左)とN.Avenue代表取締役CEOの神本侑季