● 今回のハッシュレート急落は価格要因ではなく、米国寒波による電力制約を主因とする一時的な供給ショック。
● 主要マイナーの日次生産量は短期的に急減したが、中期的な生産能力の構造悪化を示すデータは限定的。
● 難易度調整とハッシュレート回復の速度、マイナー売却動向が30日先の需給判断の検証ポイント。
CryptoQuantの主要アナリストであるKi Young Ju氏、Darkfost氏、Julio Moreno氏のデータによると、直近数日間でビットコインのハッシュレートは急低下した。観測ベースでは、わずか2〜3日で約1.13 ZH/sから690 EH/s近辺まで落ち込み、短期的に約30%の減少が確認されている。添付のハッシュレートと価格のチャートでも、価格が88,000ドル前後で推移する一方、ハッシュレートのみが急落している様子が示されている。
重要なのは、この動きを価格下落に起因する典型的な「マイナー降伏」と即断しない点である。今回の主因は、米国を襲っている深刻な寒波による電力網の不安定化だ。電力需給が逼迫する中、非必須電力の制限や電力価格の急騰が発生し、マイナーが自発的に稼働を抑制する状況が生じている。米国はネットワーク全体の大きな割合を占め、特にテキサス州周辺に主要マイナーが集中しているため、その影響がハッシュレート全体に反映されやすい。
Julio Moreno氏の原データでは、この影響が日次生産量に明確に表れている。直近数日で、CleanSparkは22BTCから12BTC、RIOTは16BTCから3BTC、IRENは18BTCから6BTCへと日次生産量が急減した。MARAはソロマイニングの特性もあり変動が大きく、45BTCから7BTCまで落ち込んでいる。
一方、添付のマイナー別オンチェーンデータを中期視点で確認すると、影響の深さには差がある。MARAは月平均比でも明確な下方乖離が確認でき、生産量の不安定さが際立つ。一方、CleanSpark、RIOT、IRENも短期的な生産低下は見られるが、現時点では中期的な生産能力の構造的毀損を示すデータは限定的だ。これは、今回の動きが「全マイナー一律の収益悪化」ではなく、地域・電力条件に依存した一時的な稼働調整である可能性を示唆する。
短期的には、ブロック間隔の伸びとともに、次回難易度調整は約▲4%台が見込まれている。寒波が長期化すれば、固定費を賄うためのBTC売却が一部で増える可能性はあるが、現段階では供給サイドの恒常的な悪化を示す決定的証拠はない。今後は①ハッシュレートの回復速度、②難易度調整後の安定性、③マイナー由来の取引所流入、④価格とハッシュレートの乖離解消の有無を確認することで、この供給ショックが一時的か構造的かを検証する局面にある。
オンチェーン指標の見方
ハッシュレート:ビットコインネットワーク全体で毎秒どれだけの計算(ハッシュ計算)が行われているかを示す指標で、ZH/s(ゼタハッシュ/秒)はその規模を表す単位である。数値が高いほど、マイナーの参加量が多く、ネットワークのセキュリティと競争環境が強い状態を意味する。添付のグラフでは、青線がハッシュレート、黒線がビットコイン価格を示しており、両者は中長期では相関することが多いものの、短期的には乖離が生じやすい。特にハッシュレートは、価格だけでなく電力コスト、気候、インフラ制約といった外部要因の影響を強く受けるため、急激な上下動が発生することがある。このため、ハッシュレートの急落を見た場合、それがマイナーの恒常的な撤退や収益構造の悪化を示すのか、それとも一時的な稼働調整なのかを切り分ける必要がある。実務的には、ハッシュレート単体ではなく、難易度調整後の回復状況や価格との関係性を合わせて確認することで、ネットワークの健全性や供給サイドの状態をより正確に読み取ることができる。

