2025年、暗号資産で本当に変わった5つのこと──価格ではなく、構造の話を【年末 編集長コラム】

多くの企業が年内の営業最終日となる12月26日、我々は新生「NADA NEWS」の立ち上げを発表した。2019年から運営してきた米CoinDeskの公式日本版「CoinDesk JAPAN」を独自ブランドに進化させた。

NADAは、“New Atlas for Digital Assets”の頭文字。この名前に決まるまでには、社内でさまざまな議論があった。だが1つ、揺るぎない背景となったのは、今年、暗号資産(あるいはWeb3、ブロックチェーン)を取材してきたなかで、大きな「構造の変化」が静かに、だが確実に起きていることを実感したことだった。

2025年は「ビットコインETF」の定着に加えて、「トークン化MMF」「ステーブルコイン」「トークン化預金」を通じて、暗号資産の世界と伝統的金融の世界の融合が大きく進展した年として記憶されるだろう。

ちなみにこれはしばしば、「TradFiとDeFiの融合」とも言われる。少し横道にそれるが、実は「TradFiとDeFiの融合」という表現には、個人的にはどこか違和感を覚える。2020年夏から2021年にかけての「DeFi Summer」を見てきた者としては、DeFiと聞くと「イールドファーミング」など、極めて限定的で、マニアックな世界を思い浮かべてしまうからかもしれない。

「今起きていることは、もっと大きなこと」、そう感じてしまう。

年末に伝統的金融業界と暗号資産、Web3業界をまたいだ新たな団体として「日本デジタル分散型金融協会(JDFA)」の設立が発表された。団体名に「DeFi」が入っていないのは、同じように感じる人がいるということだろうか……。

念のために言っておくと「DeFi」を軽視しているわけでは、まったくない。むしろ重要だと感じているからこそ、「DeFi」という昔の名前に縛られないでほしいと思っている。

前置きが長くなりすぎた。タイトルにあげた「5つのこと」を急いで見ていこう。

第1:ビットコインの位置づけが変わる(変わった)

2025年、ビットコインは10月に史上最高値となる12万6000ドル超を記録したが、その後は下落。年末にかけて下落し、年初来ではマイナスとなっている。だが一方で、国内では暗号資産の規制法(根拠法)を資金決済法から金融商品取引法(金商法)に移行させるための議論が進んだ。来年の国会で法改正が成立する見通しだ。つまり、ビットコインは決済手段ではなく、投資対象として位置づけられる。

実際、企業が財務資産としてビットコインを保有する動きも進んだ。米Strategy(ストラテジー)がパイオニアとなり、メタプラネットが日本だけでなく、世界にも広めたDAT(デジタルアセットトレジャリー)戦略は、日本では東証の上場基準見直しの議論を背景に、企業価値(時価総額)を向上させる手段として注目された。

暗号資産市場の低迷で、DAT(特に短期的な企業価値向上を狙う戦略)には疑問の声もあがっているが、ビットコインやイーサリアムなどをインフレや円安へのヘッジとして保有する動きは一定のポジションを確立した。

2:ステーブルコインは「決済」から「清算」へ

3月にUSDCの取り扱いが始まり、10月にようやく、国内初の円建てステーブルコインとしてJPYCが登場。送金や決済の新たな手段として活用が期待されている。

だがその一方で2025年に気になった動きは、金融機関や企業が、最終清算や資金移動の裏側でステーブルコインを活用しようと動いていることだ。

「決済」と「清算」という言葉は、違いがわかりにくい。決済が「支払う瞬間」を指すとすれば、清算は「取引が最終的に帳簿上で完了するプロセス」を意味する。スーパーで多くの人がステーブルコインを使って支払い=決済をする。これはイメージしやすい。

1日の営業が終わるとスーパーは売上をまとめる。そして多くの場合、1カ月毎に売上と仕入れの代金などを計算して、その月の利益を確定する。これが「清算」だ。

表には見えづらいが、ステーブルコインが清算レイヤーに組み込まれることで、24時間365日稼働や即時性が、企業の業務効率や資本効率を向上させることが期待されている。

これは、ユーザー、一般生活者の視点からは見えにくい。だが、大手金融機関、大手決済企業が血眼になって狙っている領域だ。

3:トークン化は地味だが大きな領域へ

トークン化の華々しい、わかりやすい例は、アート作品をトークン化したもの、つまりはNFTだった。「NFTが●億円で取引された」といったニュースを伝えたのが懐かしい……。

2025年は国債、MMFといった金融商品のトークン化が進んだ。株式のトークン化も始まっている。

ここでのポイントは、新しい投資商品が生まれたことではない。既存の金融商品がトークン化、オンチェーン化されたことだ。「オンチェーン金融」とも呼べる領域が生まれつつある。

4:DeFiはクリプト最先端ユーザーだけのものではなくなった

DeFi(分散型金融)は冒頭に長々と書いたように、人によって受け取り方が違うのかもしれない。かつてDeFiは、クリプトが技術に詳しい最先端ユーザーの世界だった。ある意味、投資手法のひとつだったかもしれない。

だが本来、DeFi(分散型金融)が示す意味は大きい。日本にもようやくステーブルコインが登場した2025年、DeFiは個人に一歩近づいた存在になった。と同時に、金融機関や機関投資家も新たな投資手段、あるいは投資対象としてDeFiに注目している。

3で「オンチェーン金融」と書いたものと、DeFiはほぼ同じ意味を示していると個人的には感じている。

5:規制を武器に変える

暗号資産の規制は、資金決済法から金商法に移行することが、ほぼ確定している。これはただのルール変更ではない。暗号資産は「決済手段」から、金融商品となり、資本市場の中で扱われるものになる。

金商法移行に伴い、暗号資産ビジネス、Web3ビジネスに携わる者にとっては、負担が重くなり、動きが取りづらくなるとの見方もある。だが、グローバルで見たとき、規制の明確化は大きな武器になる。ビジネスの予見可能性が上がるからだ。

規制は市場を縛るものではなく、どこで何ができるのかを定義する設計図として機能し始めている。

2025年に起きたこれら5つの変化は、どれも派手なものではない。しかし、金融インフラそのものを静かに書き換え始めている。金融と呼ぶと、それもまた、意味が狭いかもしれない。「価値交換のあり方」と言うべきだろうか。

そもそも、ビットコインは「価値交換のあり方」を変えるものとして誕生した。2008年にサトシ・ナカモトがホワイトペーパーを発表してから来年で18年。いよいよビットコインは成人となる。

大人への階段を登った──。2025年はそんな1年だったのかもしれない。

|文:増田隆幸
|画像:Shutterstock