「インターバンクの流通量を超える」──JPYC岡部代表が語る、ステーブルFXの破壊力【2026年 創刊特集】

昨年10月、国内初となる資金移動業のライセンスに基づいた日本円建てステーブルコイン「JPYC」の発行が開始された。

発行から約1カ月半(2025年12月11日取材時点)でホルダー数は10万を超え、DeFi(分散型金融)での利用や実店舗での決済など、具体的な活用事例が報告されている。

2026年、JPYCは米サークル社との提携を通じ、オンチェーン為替プラットフォーム「ステーブルFX(StableFX)」への参画を予定している。

これは、米ドル建てステーブルコイン「USDC」を軸に、ブロックチェーン上で各国の通貨を即時交換する仕組みである。

従来の銀行を介した為替取引では決済までに数日を要するのが一般的だが、このプラットフォームでは数秒単位での決済完了を目指しており、資金効率の大幅な向上が見込まれている。

AIエージェントによる自動決済の普及や、国内メガバンクによるステーブルコイン参入が本格化すると予測される2026年、JPYCはどのような役割を担うのか。

代表取締役の岡部典孝氏に、今年の展望を聞いた。

2025年の「顔」、今年の仕掛けは?

「2026年、最大の仕掛けは何か?」と問われると、岡部氏は即座に「ステーブルFXだ」と答えた。

2025年に国内での発行基盤を整えたJPYCが、次の一手として見据えるのは、米サークル(Circle)社が推進するこのプロジェクトへの参画を通じた、グローバルな金融市場への本格進出である。

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米ドル建てステーブルコイン「USDC」をハブとして、各国の通貨を即時交換することを目指すこのインフラにおいて、JPYCは開発初期段階から日本円ポジションを担う唯一のパートナーに選定された。

岡部氏は「インパクトは非常に大きい。予想以上に展開が早かった。さすがサークルだ」と述べ、その意義を強調する。

サークル社が構築する「Arc」チェーン上で稼働するステーブルFXは、主に銀行やヘッジファンドなどの機関投資家による大口の為替取引をターゲットとしている。

岡部氏は、既存のDEX(分散型取引所)が抱える課題について次のように分析する。

「機関投資家のニーズは、取引内容を伏せたい一方で、取引相手が信頼できるかを確認したいという点にある。誰と取引しているかわからない、あるいは反社会的な存在であるかもしれないという懸念が、彼らがDEXを使いにくい最大の理由だ。そこを解決し、オンチェーンで安全にFXを行うのがステーブルFXの役割となる」

ここで、昨年11月にサークル社が公開した技術資料「StableFX Litepaper」から、オンチェーン為替インフラが解決しようとしている重要な論点を整理しておきたい。

◆ 1. Introduction(既存金融における資本の滞留)
EN: the costs of correspondent banking are enormous. Estimates suggest roughly $27 trillion sits idle in nostro/vostro accounts globally to support pre-funding of FX transactions.
訳: コレスポンデント・バンキング(国際送金時の中継銀行業務)にかかるコストは莫大だ。推計によると、外国為替取引のプレファンディング(決済資金の事前確保)を支えるため、世界全体で約27兆ドルもの資金がノストロ・ボストロ口座(銀行間の決済用口座)に滞留しており、投資などに回されず遊休状態にあるとされる。

◆ 2.2 OnChain PvP Settlement Contract(決済リスクの技術的解消)
EN: StableFX mitigates it through a PvP escrow smart contract, ensuring funds move only when both sides deliver.
訳: StableFXは、PvP(Payment vs Payment:資金同時受渡)機能を備えたエスクロー(第三者預託)・スマートコントラクトを通じて、これを軽減している。これにより、双方が資産の引き渡しを行った場合にのみ資金が移動することが保証される。

◆ 2.3 Circle Partner Stablecoins(各国ステーブルコインの統合)
EN: StableFX integrates select fiat-backed stablecoins via the Circle Partner Stablecoins program.
訳: ステーブルFXは、「Circle Partner Stablecoinsプログラム」を通じて、厳選された法定通貨担保型ステーブルコインを統合している。

◆ 4.2 Beyond RFQ(為替市場の支配)
EN: BIS and market structure research show that 60–70% of buy-side flow is executed via RFQ or Request for Stream (RFS) channels, reflecting their dominance in FX markets.
訳: BIS(国際決済銀行)や市場構造に関する調査によれば、バイサイド(ヘッジファンドや資産運用会社などの投資家層)による取引フローの60~70%は、RFQ(見積依頼)やRFS(連続的な価格提示要請)といったチャネルを通じて執行されている。これは、為替市場におけるそれらの支配的な地位を反映している。

ライトペーパーでも触れられている通り、ステーブルFXはスマートコントラクトを活用した即日決済(T+0)を基盤とする。

この仕組みが本格稼働した先の展望について、岡部氏は「資金効率が一気に高まることで、取引量は爆増する。私の読みでは、いずれインターバンクの流通量を超えるのではないかと考えている」と言及した。

インターバンクとは、銀行同士が巨大な資金をやり取りする為替市場の核心部を指す。

日本銀行が2025年10月に公表した調査によれば、その主戦場である東京外国為替市場の1日平均取引高は約4400億ドル(約69兆円、1ドル=157円換算)に達している。

[外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ(2025年4月中 取引高調査)について、から]

現在のJPYCの流通規模(約3億JPYC、2025年12月29日時点)と比較すれば極めて野心的な目標だが、岡部氏が「インターバンク超え」を見据える背景には、上述した「死蔵された27兆ドルの資本」を解放する即日決済の実現と、それに伴う資金効率の劇的な改善がある。

岡部氏は、具体的な市場の広がりについて次のように期待を寄せる。

「FXだから、当然『USD/JPY』『EUR/JPY』『EUR/USD』といった主要ペアの取引が大きくなる。その中にJPYCが関わることになるので、非常に期待している。順当に立ち上がれば、おそらくArcが最も流動性の高いチェーンになる」

従来の銀行間取引では決済完了までに多額の資金が拘束されるが、ステーブルFXによって決済が数秒単位に短縮されれば、同じ元手でも既存市場とは比較にならない頻度で資金を回転させることが可能になる。

決済速度の向上が取引頻度の飛躍的な増加を招き、最終的な流通総量において既存市場を逆転する可能性もある、と岡部氏は考えているのだ。

サークル社はArcのメインネット公開を2026年内と発表しており、すでに金融機関を対象とした検証が進んでいる。2026年は、JPYCがグローバルな為替インフラの一部として本格的に稼働し始める年となる。

広がるエコシステム

ステーブルFXの大規模な流動性を見据える上で、国内規制における「100万円」の上限は、いかに影響するのか。

現行の第二種資金移動業では、発行体であるJPYC社が一度に扱う発行や償還の金額に100万円の上限が課されている。

しかし、ブロックチェーン上の動態はこれと異なる。岡部氏は「セルフウォレット(自己管理型ウォレット)同士のオンチェーン送金については、この100万円の制限は適用されない」と説明する。

発行・償還というゲートウェイにおいて制限はあるものの、オンチェーン上の取引そのものが国内法の上限によって直接的に制約されることはないという認識だ。

この仕組みを支える土台は、2025年に着実に築かれた。

「EXPO2025デジタルウォレット(現HashPort Wallet)」を手掛けたHashPortのキャンペーン等の影響もあり、ホルダー数は発行1カ月半で10万人を突破。

[JPYC infoから]

さらに岡部氏を驚かせたのは、エコシステムの多様な広がりだ。

「ガスレス決済を最初に導入したのは、IT系やNFT販売所ではなく”うずら”の卵屋さんだった。他にも整骨院や、海外の『Tria』というカードにJPYCでチャージしてVISAとして使う事例など、予想以上のペースで広がっている」と、実需の拡大に手応えを示す。

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この草の根の広がりを2026年の普及に繋げる鍵が、ステーブルコインによる給与払いだ。

岡部氏は厚労省との対話を通じ、労働者の合意があれば実施のハードルは極めて低いことを確認したという。

「準備さえ整えば、来月の給与からでも導入できる。動きの早い小さな組織ならよりやりやすいはずだ」と述べ、2026年には企業がJPYC払いを採用する事例が一般化することへの期待を示した。

機関投資家の数億円単位のニーズに対しては、第一種資金移動業の取得に向けた法制度の整理を金融庁等と進めており、大口と小口の両面から円ステーブルコインの社会実装を加速させる構えだ。

[財務省から]

AIエージェント決済の自動化

グローバルな流動性の拡大や国内での実需が普及した先に、岡部氏が予測するのが「AIエージェントによる決済の自動化」だ。

数兆円規模の取引や日常の微細な決済を、人間がすべて手作業で管理し、秘密鍵を操作して署名を行う現在の仕組みには限界がある。

岡部氏は「人間が自ら操作するよりも、AIがプログラムに従って処理を行う方が、初心者にとっても安全かつ確実なものになる」と指摘し、決済の主役が人間からAIへと移行していく未来像を説く。

この動きは、すでに同社の外部で加速している。

エンジニアコミュニティでは、AIがチャットの指示に基づいて送金や残高照会を自律的に行うデモプログラムが、テストネット上で公開されている。

[UNCHAIN Xから(キャプチャ)]

岡部氏は、こうした外部開発の活発化を歓迎しており、「JPYC社が自らサービスを開発するのではなく、提供するSDK等を活用して便利なツールを構築した外部のエンジニアが利益を得ることを期待している」と述べた。

2026年は、ユーザーがウォレットや鍵を意識することなく、AIが背後で資金を動かす自律的な経済圏が、実社会の中に現れ始める年となるか。

メガバンクと共存

2026年は、メガバンク3行によるステーブルコインの本格流通も視野に入る。

岡部氏は既存金融の参入について「既存の仕組みを動かしながら変えるのは容易ではない。セキュリティやマネロン対策のノウハウも重要だ」とその難しさを指摘しつつも、「銀行は法人間、我々はDeFiや実店舗決済と、領域は被らない。むしろ我々に任せていただくような形で住み分けができるはずだ」と共存の姿勢を見せる。

「ステーブルコイン、DEX、セルフウォレット…3つのパーツが国内でようやく揃った。2026年はこれらが相互に成長し合う年になる」

日本円ステーブルコインJPYCが社会に溶け込み、新たな経済圏を形成する一年が始まる。

|インタビュー・文:栃山直樹
|写真:撮影・多田圭佑(2025年12月16日「Year End Party」から)