ステーブルコイン、トークン化預金、CBDC……お金の形はどう変わるのか。“こじらせた高校生” が見つけた価値交換の面白さ【2026年 創刊特集】

財務省理財局国庫課は、中央銀行デジタル通貨を含む通貨制度の企画・立案を担っている。鳩貝淳一郎氏は2025年7月、日本銀行から財務省へ出向。FinTech副センター長という役職から、同課のデジタル通貨企画官となった。

日本銀行で中央銀行デジタル通貨(CBDC)の実証実験に携わり、民間事業者とCBDC推進のための議論を進めていた鳩貝氏はまた、日本のビットコイン開発者、さらには暗号資産/ブロックチェーン開発者のバイブルと言える『マスタリング・ビットコイン』の翻訳者として知られている。

早くからビットコイン、ブロックチェーンに注目してきた鳩貝氏に、お金・金融のトークン化、オンチェーン化について聞いた。話は「価値交換」の意味、面白さにまで広がった。

日本銀行と財務省での仕事の違いは?

──日本銀行から財務省への出向は、関係者の間では驚きでもあり、納得の人事として捉えられた。今、どのようなことに取り組んでいるのか。日本銀行と財務省での仕事の大きな違いはあるか。

鳩貝氏:日本銀行の決済機構局で、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を担当してきた。今は、一緒にプロジェクトを進めてきた財務省に出向した形になる。日本銀行では技術面について民間事業者と検討しており、財務省では制度面について政府の各部署や日本銀行と議論している。

立場や仕事内容が変わったことになるが、マインドセットの変化が大きい。日本銀行にいた時、制度はある程度は所与のものであり、その中でオペレーションや技術面を深く検討することが多かった。政府の一員になって、制度自体をどうデザインするかという発想が強くなった。日本銀行と財務省の役割の違いもあるのだと思うが、いずれにせよ、組織の境界をまたいだ結果としてマインドセットが変わり、得難い体験をさせてもらっていると感じる。

〈財務省でともにCBDCに取り組んでいるメンバーと〉

──今、日本の中央銀行デジタル通貨(CBDC)はどういう段階にあるのか。

鳩貝氏:これまで公表してきたことと同様、CBDCに対する社会的ニーズが高まる状況に備えて準備している。発行は、国民的な議論の中で検討され、決まっていくものと認識している。具体的には、関係府省庁・日本銀行連絡会議を開催し、財務省はその事務局を担っている。日本銀行は実証実験を続けており、密にコミュニケーションを取っている。

国の通貨制度は、国民一人ひとりの生活に直結するものであり、さまざまな関係者のコンセンサスを大事にしていかなければ成り立たず、丁寧な検討プロセスが求められる。

ステーブルコインとCBDCの関係

──昨年、国内でもステーブルコインが登場した。特に円建てステーブルコインの存在は、CBDCの検討に影響を与えているのか。

鳩貝氏:ステーブルコインに限らず、社会に受け入れられる形で新しいマネーの試みが生まれることは、歓迎すべきことだと捉えている。新しい技術は既存の仕組みの外から生まれてくるケースが多いので、次にそれを社会とどうハーモナイズさせていくかというプロセスがあり、ステーブルコインはそういう経路をたどっているのだと思う。ステーブルコインなどの民間マネーはそれぞれ得意分野があり、多様なユーザーニーズに応えていくだろう。一方でその外側に、どうしても民間マネーでカバーされない領域が存在すると考えている。

そういう領域、たとえば人口が少ない地域などでは、現在、現金が重要なツールとなって支払いに関するユニバーサルアクセス性が担保されている。つまり、民間マネーを主役にしながらも、カバーされない領域を公的なマネーが補完しており、この構図を今後も維持していくことが大事だと考えている。その意味で、デジタルな決済手段を公的な主体が発行することは、有力な選択肢のひとつと言えるだろう。

いずれにせよ、ステーブルコインを含めた民間マネーとCBDCとの関係は、競争ではなく共存であり、代替ではなく補完だと考える。共存し補完した結果として、民間マネーのイノベーションをさらに促進するような、ある種のカタリスト(触媒)のような役割を果たすイメージを持っている。

──一方で、デジタルマネーを使おうとした時には、デジタルデバイスが必要になってくる。民間マネーを補完する存在と考えたとき、どのようなデバイスを考えるのかは大きな問題ではないか。

鳩貝氏:デジタル化を考えれば考えるほど、現金の“UXのすごさ”を感じる。手渡しすることで二重支払いが不可能になることはもちろん、ハンディキャップのある方も手で触れれば券種がわかるようになっていたり、物理的なモノとしての紙幣や硬貨に偽造対策を施したりすることで、特別なデバイスがない状態で支払いができる状態を維持している。

デジタルなお金ではデバイスがUXの点で大変重要になっており、その認識のもとで検討が進められている。将来を見通せば、これはCBDCに限らない議論になるが、顔認証による支払いも一般化する可能性がある。価値を保存したデータベースがあり、そこへのアクセス権を証明できれば、個人がデータベース内に持つ残高を減らして、お店の残高を増やすことはできるだろう。デバイスを使うのか、それ以外の方法なのか、いろいろなパターンがあり得るだろう。

──3メガが共同でステーブルコインを発行すれば、ホールセールが効率化され、いわゆる「ホールセール型CBDC」が担うと言われてきた役割も変わってくるのだろうか。

鳩貝氏:用語を整理すると、まず、個人や企業が用いることを想定した「一般利用型CBDC」がある。小口の個人間送金や、店頭決済などが典型的なユースケースだ。「ホールセール型CBDC」は、金融機関などの限られたユーザーが、主として大口取引のために用いることを想定したものだ。クロスボーダー決済が典型的なユースケースとなる。

後者については、日銀や国内の複数の銀行がBIS(国際決済銀行)が主導するプロジェクト「アゴラ」に参加している。ここでは、共通の台帳を使うことで、現状のクロスボーダー決済の非効率性などを改善できないかという問題意識のもと、検討が進められている。なお、最近ではホールセール型CBDCは、分散型台帳基盤を利用した「トークン化された中央銀行預金」と表現されることが多い。

このプロジェクトに限らないが、台帳間のインターオペラビリティ(相互運用性)、たとえばトークン化された価値の交換容易性については、強く意識されている。今回の3メガバンクのステーブルコインについても、企業間取引やクロスボーダー取引も念頭に置いて、他の台帳と連携していく将来像をイメージしているのではないか。そういう連携の中で、すでに話をしたように、さまざまなマネーが得意分野を活かして流通していく姿になるのではないかと考えている。

トークン化・オンチェーン化に対する目線

──今、伝統的金融の分野では、資産をブロックチェーンに乗せる、いわゆる「資産のトークン化」「金融のオンチェーン化」がひとつの動きとなっている。早くからブロックチェーンの可能性に注目していたお一人として、このトレンドをどのように見ているか。

鳩貝氏:Asset Tokenization(アセット・トークナイゼーション)と呼ばれる動きは、国債や株式など伝統的な金融商品だけでなく、さまざまなRWA(現実資産)をトークン化しようとしており、興味深いものと受け止めている。

既存のパブリックブロックチェーン上で行われている取り組み、たとえばDeFi(分散型金融)を活用した価値交換などは、これまでは暗号資産とステーブルコインがメインだったが、そのかなり近接したところに伝統的な金融資産が登場し、スムーズな交換が実現できるようになってきている。ビットコインを源流としたブロックチェーンの世界と伝統的金融がより一層関係を深めていくだろう。

全体像を整理すると、一番下にインターネットがあり、その上にパブリックブロックチェーンがあり、その上に分散型金融を実現しているスマートコントラクトがあって、スマートコントラクトが何かしらの価値をやり取りしている。つまり、一番下のレイヤーから上のレイヤーまで信頼できる特定の管理者を必要とすることなく、分散化された価値交換を実現している。

そうしたものが既存の伝統的な仕組みの外に存在し、既存の仕組みとつながり始めている。そこには当然リスクもあるわけで、新たな仕組みを手放しに良いものとして捉えるのではなく、もうすでに “そこにある現実” と認識したうえで、より良いものにするにはどうするべきかを考えることが重要になってくると感じている。

“こじらせた高校生”が考え続けるお金の形

──これまで暗号資産やブロックチェーンの世界を長く見てきたと思うが、そもそもどういったところからビットコイン、ブロックチェーンに関心を持ったのか。

鳩貝氏:極めて個人的な話になるが、高校時代から「お金の存在って不思議だな」と考えていた。そういう抽象的なことを考えてばかりいる、やや “こじらせた高校生” だったのかなと思う。お金は、非常にしっかりした基盤であって、その上に社会が構築されているイメージがあったが、その基盤が実はそこまで安定的ではないらしいことに徐々に気づいていった。

日本銀行券も過去においては金と交換しますと券面に書いてあった。その後、金との交換はできなくなったが、それでも人々は1万円札は1万円としての価値を持っていると認識し、経済活動が成り立っている。

だが、金と切り離された時点で、いつでも糸の切れた凧のようになる可能性はあるわけで、それが顕現したのがハイパーインフレーションであり、その時、紙幣は文字通り紙切れになってしまう。世界の歴史を見れば、そうした事例であふれている。

そうは言っても、どうも基本的には貨幣の価値は安定しているようにみえるが、これはなぜか。どうやら価値を安定させる仕組みが社会の中に埋め込まれていて、そのひとつが中央銀行なのだ、ということに思いが至った。そういう高校生は経済学部に進むほかなく、その流れの中で日本銀行で働くことになった。

──「お金」のあり方に興味を持ち、日本銀行で仕事をする中で、さらにビットコイン、ブロックチェーンに出会った。

鳩貝氏:貨幣の価値の安定は自明のものではなく、それを安定させるための仕組みがある。金融政策という形で、物価を安定させるために金利やお金の量を調節し、1万円は明日も1万円という状態を維持することを、日本をはじめ多くの国々で行っている。

そこに、ビットコインという、まったく違うコンセプトのものが出てきた。時間当たりの発行量はマイニングに依存し、発行上限も2100万BTCと決まっている。需要の増減は、法定通貨との交換レートである価格の変動で吸収される。

法定通貨の世界とビットコイン的な世界がどう関わり、人々の生活にどう影響を与えるか、非常に興味深く感じたことを覚えている。

当時は、日本語の文献はまったくと言っていいほどなく、英語圏の文献も断片的なものばかりだったが、ビットコインの技術について包括的に説明する『Mastering Bitcoin』が出版され、ボランティアとして翻訳することになった。この本は「古典」として版を重ねており、第3版の邦訳が昨年末に出たところだ。

価値の「交換」は「交歓」につながる

──お金のあり方に興味を持ち、ビットコインやブロックチェーンに注目する中で、金融の未来像、あるいは理想形をどのように描いているか。

鳩貝氏:先ほど説明した新しい仕組みが、伝統的な仕組みに刺激を与えている側面があると思う。先ほどのレイヤー構造における、イノベーション支える「パーミッションレス」という性質が非常に大事になっている。

つまり、一定のルールは守る前提で、特定の主体の許可を必要としない環境で、イノベーションが生まれている。プログラマビリティも、パーミッションレスなイノベーションと分かち難く結びついている概念だと理解している。パブリックチェーン上に存在する機能を自由に組み合わせてることができ、コンポーザビリティと表現される。これにより、すでにデプロイされている機能を前提に新たなサービスをスピーディに提供できるという意味で、「巨人の肩に乗る」ことを可能にしている。

インターネットを作った人たちは、今のパブリックブロックチェーンのようなものがインターネットの上に生まれるとは想定していなかったはずで、同じように、私たちにはパブリックブロックチェーンの上に何が生まれるかはわからない。何が生まれるわからない状況が、イノベーションの源泉のひとつと言えるのかもしれない。

もっとも、こうした環境は、APIなどを活用して伝統的な仕組みの中でも再現できる可能性があり、伝統的な金融機関なども刺激を受けている。ブロックチェーン上の世界と伝統的な世界が、パラレルに進歩しうるのではないかと考えている。

逆に伝統的な仕組みにおける取り組み、例えばトークンの裏付け資産の管理方法の進歩がブロックチェーンの経済圏に影響を与えている面がある。今後、パブリックブロックチェーン上の経済圏で動く価値を、より安全なものとして社会が受け止めていくために、こうした伝統的な金融界のプレーヤーの取組みが重要になってくるだろう。

双方向の進化、双方向での刺激が大事になる。もちろん、こうした見方は楽観的過ぎる可能性があり、影の部分というか、2つの世界の関係の深化がリスクを深めている側面をきちんと意識し、手を打っていくことは引き続き重要だ。

──「お金」にまつわる話は、広くて深く、さまざまな観点がある。

鳩貝氏:とても興味深く、奥深いと感じる。少し変わっているという自覚はあるのだが、お店で食事をした後、支払いができるとちょっとうれしい。「今日もちゃんと使えているな」と。ライフラインなどインフラを支える仕事について、やりがいの感じ方はそれぞれだろうが、私の場合は日々お金がちゃんと使えていると感じることがそれなのだと思う。自明にみえるものが実は自明ではないと気付くことは、人生を面白くしてくれる面がある。

お金を介して価値の交換がスムーズに行われることは、当たり前のようでいて当たり前ではない。そして社会にとって極めて大切なことだ。お金があるからこそ、交換が容易になり分業が実現する。自分の得意な分野で仕事をし、得たお金でご飯を食べ、レジャーを楽しみ、人と交流できる。

自分が生み出した価値を他人の価値と交換できることは、社会に参加していることを日々実感する機会になる。事情があって高齢者の方などが自分で買い物ができなくなると、生きる活力が失われやすいといったことを聞く。交換に参加していることが、人の生きる実感に直結するのだろう。「交換」は、言葉遊びではなく「交歓」につながっている。

そういったことを考えながら、デジタル通貨の政策の一端を担う者として、また日々お金を使っている生活者として、新しい時代の新しいお金のデザインに取り組んでいきたい。

鳩貝淳一郎氏
財務省 理財局 国庫課 デジタル通貨企画官
2002年、日本銀行に入行。2020~2024年、決済機構局フィンテックグループ長。2024~2025年、FinTech副センター長、デジタル通貨検証グループ長。2025年7月から財務省に出向し現職。2025年4月から東京大学大学院経済学研究科CARF 招聘研究員。
著書に『Web3の未解決問題』(日経BP)、『Web3・暗号資産 13人の未来予測』(朝日新聞出版)。
翻訳・監訳に『ビットコインとブロックチェーン』(NTT出版)、『マスタリング・イーサリアム』、『マスタリング・ライトニングネットワーク』、『マスタリング・ビットコイン(第3版)』(以上、オライリー・ジャパン)など。

|インタビュー・文:増田隆幸
|撮影:多田圭佑