「デジタル証券フォーラム 2025」が12月2日、東京・兜町のKABUTO ONE ホールで開催された。5回目となる今回のテーマは「セキュリティ・トークン 資本市場の拡張へ」。着実な成長を見せるセキュリティ・トークン(ST)市場において、オンチェーン経済と既存金融経済の融合は今後の日本市場を左右する重要な論点となりつつある。
不動産を中心に拡大してきたSTの発行市場では近年、案件の大型化に加え、多様なアセットクラスへの展開が進んでいる。2020年の法令化から5年を経て、新たな成長局面に入ってきた。
制度・市場・技術の各側面から官民のキープレイヤーが交わした議論を、前編(本記事)と後編に分けてレポートする。
「決済高度化プロジェクト」で金融庁が支援
冒頭の開会挨拶には、金融庁総合政策局参事官の島崎征夫氏が登壇。セキュリティ・トークン(ST)やRWA(現実資産)など、伝統的な資産をオンチェーン化・トークン化する動きが活発化していると指摘した。
具体的な進展例として、国債のレポ取引における担保のオンチェーン化、社債の発行や取引のオンチェーン化、大手金融機関によるMMF(マネー・マーケット・ファンド)のオンチェーン取引などを挙げた。

島崎氏は「これらによってコストの削減や決済の効率化、商品・サービスの多様化といった効果が期待されている。ユーザーのニーズや効率性と強く連関しながら拡大していく可能性がある」と述べ、金融資産がトークン化する背景には、トークン化預金やステーブルコイン(SC)といった決済手段の進展も相まっていると指摘。さらに、オンチェーン上でスマートコントラクトを活用した取引の自動化も視野に入ってきていると説明した。
金融庁は2025年11月、2017年に設置した「FinTech実証実験ハブ」内に、決済分野に特化した制度や技術検証を支援する枠組みとして「決済高度化プロジェクト」を新設している。
「Payment Innovation Projectの頭文字をとって『PIP(ピップ)』と呼んでいる。クロスボーダー送金や証券取引におけるDVP決済(証券と代金を同時にやり取りする決済方式)など、対象を限定せず幅広く扱う」と島崎氏。同プロジェクトの第1号案件は、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行の3メガバンクによる円建てステーブルコインの共同発行に向けた取り組みだ。
「民間事業者の新たな技術を用いた取り組みで、経済にプラスの効果をもたらせるよう支援していきたい」と島崎氏は述べ、挨拶を締めくくった。
広がる商品タイプの多様化
続く「不動産STの現在地と未来像」と題された講演には、KDX STパートナーズ代表取締役社長の中尾彰宏氏が登壇。ケネディクスは、J-REIT(Jリート)や私募ファンドを通じて総額4.7兆円を運用する国内有数の不動産運用会社であり、次なる柱として不動産ST事業を位置づけている。2021年に日本初の不動産ST公募案件を組成して以来、物流施設や賃貸戸建住宅などJ-REITにはないアセットにも対象を広げてきた。
中尾氏が強調したのは、不動産STの商品性の高さだ。
2001年に登場したJ-REITは、多数の物件で構成される大規模ポートフォリオであるのに対し、不動産STは単体または少数物件を対象とし、投資対象が明確。加えて、価格は不動産鑑定価格に基づくネットアセットバリュー(NAV)を基準に形成されるため、市場センチメントに大きく振られやすいJ-REITと比べて価格変動が抑えられやすいことも特徴として挙げられる。

一方で、10万円程度から投資できる小口性や店頭取引・大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)を通じた期中換金性など「金融商品としての利便性」はJ-REITに近い。「現物不動産のわかりやすさと安定性に、J-REITのような金融商品の利便性を兼ね備えた不動産投資商品として、不動産STの商品設計を行っている」と中尾氏は説明した。
市場の広がりとともに、商品タイプも多様化しつつある。安定利回り型に加え、短期のバリューアップ型、ホテルなどアップサイドの大きいインカム成長型、さらにはドル建て海外不動産STなど、準備段階のものも含めて多くの商品が実現しつつある。
「ライフステージや価値観に合わせて、STだけでポートフォリオを構成できる世界が近づいている」と中尾氏は述べた。
ケネディクスが次の成長ドライバーと位置づけるのが、デジタルアセットマネジメント。その中心を担う戦略子会社として「KDX STパートナーズ」は2023年に設立された。不動産運用のプロフェッショナルに加え、デジタルやマーケティングの専門人材を含む体制で、不動産STとデジタル技術を掛け合わせた新サービスの開発に取り組んでいるという。
中尾氏は同社の具体的な成果の一つとして、複数の金融機関にまたがる不動産ST残高を一元管理できる資産管理機能を備えた「KDX STアプリ」の開発を挙げた。ブロックチェーン上のデータと連携し、投資対象に紐づいたデジタル優待(ユーティリティトークン)、商品検索、学習コンテンツ、運用状況の通知機能などを実装している。
「リリースから半年で約9000人が登録するなど、確かな手応えを感じている。将来的には会員5万人を目標としている」と語った。
パブリックチェーンがもたらす可能性と課題
一方、中尾氏が長期的な変化として強い危機感と期待を込めて語ったのが、パブリックチェーンをどう活用するかという点だった。
現在、日本のSTは金融機関の許可制に基づくコンソーシアムチェーン上で管理されている。対して海外では、パブリックチェーンを前提とした証券型トークンの実装が急速に進んでおり、ブラックロックのオンチェーンMMF「BUIDL」は大きな話題を呼んだ。
関連記事:約3900億円規模のブラックロックのトークン化ファンド「BUIDL」、バイナンスで担保として利用可能に──BNBチェーンにも拡大
ステーブルコインの普及や、暗号資産を証券規制の枠組みで捉え直す議論も、パブリックチェーンの実現性を高めつつある。
もし不動産STがパブリックチェーンで取引されるようになれば、証券口座を持たない国内外投資家も直接参加できるようになり、発行体による自己募集やダイレクトファンディングの拡大が予想される。商品性とサービスのあり方が根本から変わる可能性があるのだ。
その一方で、KYC(本人確認)やAML(マネーロンダリング対策)といった従来型金融に必須の枠組みとの整合性をどう図るかは、大きな課題として残る。国境をまたぐ証券規制への対応、秘密鍵管理や誤送金リスクをどう投資家保護と両立させるかなど、制度・技術の両面で検討すべきテーマはまだまだ多い。
「プロ・セミプロ向けの実証から始め、制度・技術の両面で課題をクリアしながら段階的に一般投資家へ広げていくアプローチが現実的だろう」と中尾氏は説明した。

J-REIT誕生から約20年。2021年に始まった不動産STは、既に6500億円の市場規模に達し、ケネディクスは2030年までに2.5兆円への成長を見込んでいる。「商品とサービスの両輪で、不動産投資のあり方そのものを変えていきたい」と語り、中尾氏の講演は幕を閉じた。
海外はオンチェーン化が進展、国内市場も順当に成長
「『金融×オンチェーン化』の潮流と最新動向 ー日本が”プログラマブルな価値交換の世界”を牽引する道筋とはー」に登壇したのは、Progmat代表取締役 Founder and CEOの齊藤達哉氏。グローバルと日本の両面から、STとステーブルコイン(SC)を軸にした金融の変化について解説した。

齊藤氏がまず示したのは、2025年時点でのグローバルの動向。証券はSTへ、資金はSCへと流れ、暗号資産はETF(上場投資信託)を通じて既存金融に吸収されつつある。SCの時価総額は急増し、実物資産をトークン化するRWAは約5兆円規模に達した。
齊藤氏が、今年の象徴的なテーマとして話したのは「株式トークン化」。米ナスダックが株式そのもののトークン化を見据えた動きを本格化させ、「無視できないフェーズに入った」。この背景には「オンチェーンで形成された富を既存金融に流す」米国側の狙いがあるという。トランプ政権はSCを国債の新たな買い手と見ており、その影響はパブリックチェーン経由で日本にも波及すると齊藤氏は見ている。
一方、日本のデジタルアセット市場はどうか。
2025年のST新規発行額は前年比2.5倍へ拡大している。不動産STが依然として大半を占めており、KJRマネジメント(KJRM)が手掛ける925億円のオフィス(汐留シティセンター)、ケネディクスの634億円に上るホテル(W OSAKA)など大型案件が登場した。しかし、公募ベースの新規案件数で見ると期待とのギャップもあり、不動産が16件、債券が7件の計23件と伸び悩んだ。これは、1件当たりの金額が大型化した一方で、主要な資産運用会社以外の新規発行が伸びなかったことなどが要因だ。
債券分野では、個人投資家向けのトークン化社債が広がった。三菱UFJ銀行が個人向け100億円規模のトークン化社債を発行したことは象徴的だ。グループベースでデジタル社債に取り組む動きが、来年は他の金融グループにも波及する可能性がある。
「トークン化法」のような枠組みが必要
齊藤氏は、こうした国内外の動きを統合する概念として、「オンチェーン経済圏」と「既存金融経済圏」の二層構造を提示した。前者は、パブリックチェーンとウォレットを前提とする世界であり、そこに商品を届けるにはパブリックチェーン接続が不可欠だ。一方、後者は証券会社や銀行を介した既存金融の世界であり、ここでは専用チェーンやコンソーシアムチェーンの方が接続しやすいという。
海外では、もともとオンチェーンから始まったSTやSCが、ナスダックや銀行コンソーシアムを通じて既存金融に降りてきている。対照的に日本では、金商法の枠組みの中で証券会社経由のSTからスタートし、オンチェーン経済圏にはまだ手が届いていないのが現状だ。

「縛りプレーの中でここまで戦ってきたようなもの。来年以降のテーマは、オンチェーンの世界に伸びていけるかどうかだ」と齊藤氏は指摘。不動産に加え、海外で先行する投資信託や株式などをパブリックチェーン側に乗せ、オンチェーン投資家にも届けられる世界を視野に入れている。
「あながち日本は遅れているわけでもない。パブリックチェーンにつなげられれば、むしろ先行できる可能性もある」
ステーブルコインでは日本でもUSDCやJPYCが登場したものの、100万円上限などの制約があり、大口決済にはまだ使いにくい。MMFや株式トークン化の動きが進む中で、より大口利用を見据えた制度設計が求められる。
一方で、法制面の壁は依然として残る。投信や地方債、TMK(特定目的会社の持分)については、現行制度では証券保管振替機構または券面での管理が前提で、トークン化した場合の譲渡の法的効力が担保されない。「金融のトークン化を後押しする『トークン化法』のような枠組みを、関係者の力を結集して作っていく必要がある」と齊藤氏は呼びかけた。
齊藤氏は最後に、STとSCの先にある世界として「AIエージェント」の存在を挙げた。世界ではすでに、AIが自律的にトークンを売買する仕組みが実装され始めており、「AIエージェント×ST×SC」をどう接続するかが、次の競争軸になるとまとめた。
「国内だけを見て内向きになるのではなく、海外に視野を広げながら、ITと金融が連携していくことが重要だ」とし、講演を締めくくった。
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後編では、「実装が進む、個人投資家の新たな選択肢としてのセキュリティ・トークン」「未来予想-アセット多様化・ステーブルコインで拡張する資本市場とは?」と題して行われた2つのパネルディスカッションの模様をお伝えする。
日経チャンネルでは、アーカイブ動画も公開中。記事と合わせてぜひご覧ください。
https://channel.nikkei.co.jp/sto2025/
|文:橋本史郎
|編集:NADA NEWS編集部
|撮影:多田圭佑