昨年11月に開催された、国内最大規模のビットコイン特化型カンファレンス「BITCOIN JAPAN 2025」。この日のテーマの一つが、ビットコイン(BTC)をめぐる評価が、世界と日本で大きく異なっている点だった。
かつて「ビットコイン先進国」とまで呼ばれた日本は、なぜ潮流から取り残されてしまったのか。
本記事では「ビットコイン世界地図から読み解く、日本再興への道」と題されたセッションの模様をレポートする。米国や中国、グローバルサウスなど各国・各地域の事例を比較しながら、登壇者たちは日本の現在地と今後の方向性について議論を交わした。
ビットコイン競争に勝つ国は?
モデレーターを務めたステファン・リヴェラ(Stephan Livera)氏は、ビットコインの理解促進を目的としたポッドキャストの配信で知られる人物だ。セッション冒頭、「競争に勝つのはどの国か」という問いを登壇者に投げかけた。

これに対し、米国最大の暗号資産系シンクタンクBitcoin Policy Institute(BPI)の共同設立者、グラント・マッカーティ(Grant McCarty)氏は「アメリカがかなり先行している」との見方を示した。
一方で「まだ勝負は決まっていないと思います」と語ったのが、エルサルバドルなど国家レベルでのビットコイン導入を推進してきたサムソン・モウ(Samson Mow)氏。もっとも、現時点での米国の優位性自体は認めたうえで、次のように続けた。
「アメリカが最有力であることは間違いないでしょう。SDR(戦略的デジタル準備資産)が設けられ、法整備が活発に議論されるなど、制度と立法の両面からビットコインを国家戦略に組み込み始めています」
企業によるBTC保有の面でも、米国の存在感は際立っている。
米ナスダック上場のストラテジー(旧マイクロストラテジー)は、2026年1月上旬時点で68万超のBTCを保有しており、上場企業としては突出した規模だ。
ETF(上場投資信託)の存在も無視できない。なかでも、ブラックロックが運用する現物型ビットコインETFであるiShares Bitcoin Trust ETF(IBIT)は、約70万BTCを裏付け資産として保有するまでに拡大し、市場における主要プレイヤーの一角を占めつつある。
こうした状況を踏まえると、現時点で米国に肩を並べる国は見当たらない、という評価が妥当だろう。
国によって異なる「勝ち筋」
ここでマッカーティ氏は、「勝つ」という意味そのものが国ごとに異なるのではないかと問題提起した。
「エルサルバドルを見てください。ビットコインを法定通貨にしたことで海外からの投資が増え、ビットコイン準備金の評価益を通じて、他の債務返済にも一定の余地が生まれています。保有量の多寡だけで、勝ち負けを判断することはできません」

この指摘は、日本にとっても示唆的だ。利上げが進めば国債の利払い負担が増す日本の財政状況を踏まえると、ビットコイン準備金という選択肢が、財政運営の一助となる可能性を示している。
「自国の財政状況や通貨、経済構造を踏まえたうえで、ビットコインとどう向き合うのかを決める。それこそが、ビットコインレースの本質だと思います」とマッカーティ氏は語った。
リヴェラ氏は、ブータンでは国民一人当たりのBTC保有量が多いことや南アフリカでは約70万カ所でBTC決済が可能になっていることを紹介。そのうえで、次のような問いを登壇者に投げかけた。
「人々が日常的にビットコインを利用するようになれば、規制当局のビットコインに対する見方も変わってくるのでしょうか」
当局も無視できなくなった存在感
この問いに、中国の事例を挙げて応じたのが「Would Mao Hold Bitcoin?(毛沢東はビットコインを保有するか?)」の著者として知られるロジャー・ホアン(Roger Huang)氏だ。
「中国では、ビットコインを資産として保有することは認められている一方で、通貨として利用することは認められていません」

ホアン氏は、国家にとって最大の懸念は自国通貨に対する主権的コントロールを失うことだと指摘。「もしビットコインが自国通貨を脅かす存在だと見なされれば、一気に状況は変わってくるでしょう」と述べた。
もっとも、規制のあり方には国や地域ごとの温度差もある。米国では原則としてBTC決済のたびにキャピタルゲイン課税が発生するが、実際にはBTC決済を導入する店舗は増えつつある。オーストラリアでは「個人利用の資産」として一定額まで非課税で利用できる制度が整えられている。
こうした状況を踏まえ、マッカーティ氏は「規制当局にとって、ビットコインはもはや無視できない存在になっている」と指摘した。
日本はなぜ停滞しているのか
現在、日本におけるビットコインの保有額や利用頻度、信頼度は、世界的に見ても低水準にとどまっている。背景には、「規制に従順であること」や「国に対する反発が強くない」といった、日本社会特有の構造が影響しているのだろうか。
「さまざまな要因が重なった結果でしょう」と語ったのは、国内ビットコイナーの草分け的存在の一人である東晃慈氏だ。

「2017年ごろまで、日本は世界の中でもビットコイン先進国でした。米国以上に社会へ浸透していた時期もあったのです。しかし、2018年に起きた国内最大級の取引所のハッキング事件を契機に規制が一気に厳格化し、市場は停滞してしまいました。実際には、日本人で被害を受けた人はほとんどいなかったにもかかわらずです」
東氏は、中国ではビットコインの禁止措置が取られた後も、人々が抜け道を見つけて利用を続けてきた点に言及。一方、日本で同様の規制が敷かれれば、利用が一気に止まってしまうのではないかとの懸念を示し、こう続けた。
「『秩序』や『従順さ』のおかげで、日本社会は安定しています。街はきれいで、人々は礼儀正しく親切です。しかし同時に、それがビットコインの社会的な浸透を妨げている要因の一つでもあると思います」
「パッケージ化」という現実解
リヴェラ氏は、BTCの利用を広げる手段として、人々により受け入れやすい形に「パッケージ化する動き」について問いを投げかけた。具体例として挙げたのが、BTCを保有するトレジャリー企業やその優先株、さらには米国で議論が進むBTC連動債(ビットコイン・ボンド)だ。
モウ氏は、こうした取り組みを「現実的なアプローチ」と説明。ビットコインを、より安全で馴染みのある形に変える試みだとした。
一方でマッカーティ氏は、トレジャリー企業を「増幅されたビットコイン」だと表現。良くも悪くも、その増幅(レバレッジ)は上昇局面と下落局面の両方向に作用すると指摘したうえで、次のように述べた。
「ビットコイン・ボンドも対象が国家となっただけで構造は同じです。長期的に見れば、これは正しい選択だったと証明されるでしょう。人々がビットコインにアクセスするための、非常に分かりやすい手段だからです」
観光でのBTC決済、狙うは税収増
普及に向けた別の入口として、モウ氏は観光領域を挙げた。国家が懸念するのは通貨主権の侵食だが、「税収」というインセンティブ設計であれば話は変わるという。

「タイ政府に対し、観光地で外国人のBTC決済を認める提案を行い、結果としてプーケットでの限定導入につながりました」とモウ氏。現在は「韓国の済州島に同様の提案をしたところ。これは新たな収入源を加えるという、極めてシンプルな話なのです」と続けた。
東氏も、米国でSquareがライトニング決済の導入を進めている点に触れ、「円安を背景に訪日需要が高まる中、『BTCで支払う』という外国人観光客の動きが強まれば、店舗側の導入も進む可能性があるでしょう」と語った。
「痛みの可視性」と集中リスク
マッカーティ氏は、ビットコイン普及の論点を「痛みの可視性」という観点から整理した。インフレや決済手数料といった負担は日常の中で徐々に進行するため、当事者にとっては見えにくい。

「痛みが見えなければ、その深刻さに気づくことはできません。いつの間にか、財布の中身の価値が目減りしてしまっているのです」
その一方で、ビットコインの価格変動による「痛み」は可視化されやすいと指摘。30%、40%といった下落は、多くの人に強い不安を与える。そこで重要になるのが、痛みを前面に出さず、メリットを直感的に伝える設計だと述べた。
Cash AppやSquareによる店舗向けのビットコイン決済は、管理や保管に対する不安を取り除きつつ、「決済手数料を約3%削減できる」という利点を明確に打ち出している。「メリットを可視化し、デメリットを目立たせない導入が、理想的な普及ルートです」とマッカーティ氏は語った。
この流れを受け、ホアン氏は日本の構造的背景にも言及した。日本は歴史的に世界有数の債権国であり、経常黒字によって金融緩和の影響が表面化しにくかった。一方で、国内最大の輸出産業である自動車分野では、中国がEVで存在感を強め、競争環境は厳しさを増している。
「過去にインフレが顕在化しなかったからといって、今回も同じとは限りません」と強調した。
さらに、国による影響力の偏りも論点となった。
東氏は米国が制度・規制・金融商品化で先行する現状を認めつつ、「勝ちすぎは健全ではない」と懸念を示した。モウ氏も、かつて中国に集中していたマイニングが米国へ移行し、同様の集中リスクが生じていると見ているという。
アジアのビットコイン・ハブになれるか
セッションの終盤、日本再興の第一歩としてマッカーティ氏は「問題を認め、とにかく早く動くことだ」と強調した。円を取り巻く環境や国際経済における日本の立ち位置は、危機的な状況に入りつつある。一方で、ビットコインを戦略的準備資産として位置づけようにも、法制度の整備や調達手法、カストディの在り方など検討すべき課題は山積している。
「地味ではありますが、本質的な作業を進めなければならない段階に、日本は来ています」
マッカーティ氏のこの発言に対し、モウ氏は、日本には他国にはない可能性があると語った。

「本当の意味での『アジアのビットコイン・ハブ』は、まだどこにも存在していません。確かに課題は山ほどありますが、日本はいま、非常にエキサイティングな局面に入りつつあると感じています」
「今動かなければ、さらに遅れを取るだけだ」というマッカーティ氏の意見に東氏は同意しつつ、インフレの進行によって市民生活がじわじわと圧迫される中で、日本社会にも危機感が芽生え始めていると話した。
東氏は市民の間に空気の変化を感じているとし、「そういう意味では、私は少し楽観的になっています」と語った。
「日本の政策、技術、実務の担い手とのコミュニケーションを深め、継続的な協力関係を築いていきたい」。東氏の言葉は、動きの遅い日本にあっても、インフレという現実を契機に変化が始まりつつあること、そしてその先に「日本再興」への可能性が残されていることを静かに示していた。
|取材・文:橋本史郎
|編集:NADA NEWS編集部
|撮影:多田圭佑
