2026年7月15日、暗号資産(仮想通貨)取引に係る規制を資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移管する改正法が国会で可決・成立した。

改正法は7月23日に公布され、暗号資産関連の規定は公布日から1年以内の政令で定める日に施行される。

改正法成立後の7月22日、金商法への移行が国内市場に与える影響について、投資家やビットコイナーらが率直に意見を交わす会合が四谷のビットコイン普及施設「Tokyo Bitcoin Base」で開かれた。

登壇したのは、上智大学法学部教授の森下哲朗氏(以下、森下氏)と、ジョージタウン大学とバージニア工科大学で研究教授を務める松尾真一郎氏(以下、松尾氏)。

森下氏は金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」の座長、松尾氏は委員を務めた。両氏は「デジタル資産の産業構造 ディスカッション・ペーパー」の執筆者でもある。

同ペーパーは一定の結論を示すための文書ではなく、「産官学で開かれた議論をするためのたたき台」と位置づけられている。今回のイベントもその趣旨に沿い、参加者から率直な意見を募る場として企画された。

そもそもビットコインは何のために生まれたのか

Video call on a computer monitor showing a man with round glasses and a blue shirt speaking from what looks like a home office, with a small video tile of other participants in the corner.
<オンラインで登壇した、ジョージタウン大学/バージニア工科大学コンピュータサイエンス学部研究教授の松尾真一郎氏>

議論の冒頭、松尾氏は、そもそもビットコインは何のために生まれた技術なのかを振り返った。

設計者のサトシ・ナカモトを「間違いなく天才」と評しながらも、一方で、ビットコインの設計だけでは対応できない課題も、誕生当初から残されていたと指摘した。

中央管理者に頼らず、特定の主体に取引を止められにくい形で価値をやり取りできる仕組みを実現した点は画期的だったとした。一方、その仕組みは、同じ資産を重ねて使う「二重支払い」を中央管理者なしで防ぐことを主眼としており、本人確認や取引監視といったマネーロンダリング・テロ資金供与対策(AML/CFT)の要請に応える設計にはなっていなかったという。

マネーロンダリング対策は以前から行われていたが、2001年9月の米同時多発テロ以降は、テロ資金供与対策を含む国際的な規制が一段と強化された。

ビットコイン自体に組み込まれていない本人確認や取引監視の負担は、2008年の論文公表後、主に暗号資産交換業者が担ってきたというのが松尾氏の見立てだ。

金商法移行の背景と、暗号資産規制見直しの四本柱

Man with gray hair presenting at a counter, holding papers, in a room with a TOKYO BITCOIN BASE sign on the wall
<上智大学法学部教授の森下哲朗氏>

続いて森下氏は、国内で暗号資産が投資対象として広がった実態を示しながら、規制を金商法へ移す背景を説明した。

金融庁の2026年4月公表資料によると、国内の暗号資産交換業者の口座開設数は1400万を超えた。国内のアンケート調査では、利用者の取引動機のほとんどが長期的な値上がりへの期待だったという。

実際には投資目的での利用が中心となる一方、現行制度は暗号資産を決済手段として捉え、資金決済法で規制してきた。この実態と制度のずれが、今回の見直しの背景にある。

また、申告分離課税(税率20%、復興特別所得税を除く)は金商法改正を前提に制度化されており、今回の改正法成立によって適用の前提が整った。適用開始は、改正金商法の施行日の属する年の翌年1月1日以降となる。

一方、資金決済法を中心とする現行制度では、規制が十分に及んでいない領域もあった。

具体的には、交換業者には比較的手厚い規制が課されていたものの、暗号資産の現物取引に関する投資助言は、金商法上の投資助言業規制の対象外だった。

このため、投資セミナーやオンラインサロンで詐欺的な投資助言が疑われても、投資助言業規制に基づいて対応できないことが課題となっていた。

また、ビットコインのように特定の発行者がいない暗号資産では、投資判断に必要な情報を誰が公表するのかが明確でなく、情報提供の枠組みも整っていなかったという。

暗号資産規制の見直しは、主に四つの柱で構成される。

  • 無登録業者への対応強化(10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、または併科。無登録業者による未公表暗号資産の売付け等に係る契約を原則無効とする規定も新設)
  • 発行者の有無に応じた情報公表規制の整備
  • 交換業者を「暗号資産取引業者」と改称したうえでの業規制強化(第一種金融商品取引業者に準じる体制整備のほか、現行のコールドウォレット管理規制の引き継ぎや、責任準備金制度の新設など)
  • インサイダー取引規制の創設を柱とする不公正取引規制の強化
Slide titled ‘FIEA AMENDMENT (3/3)’ with Japanese text, three-column layout of regulatory topics and their descriptions.
<暗号資産取引業者には、業務管理体制の整備やコールドウォレット管理、責任準備金の積立てなど、証券会社に準じる規制が課される見通し>

一方、参加者からは、規制強化が国内業者の負担を増やし、海外勢との競争をさらに難しくするのではないかとの懸念も示された。

同ペーパーによると、2026年5月時点でJVCEAが公表する国内の取扱暗号資産は111銘柄で、米Coinbaseの約398銘柄を下回る。一方、会場では、国内交換業者の約9割が赤字だとの見方も紹介された。

また、同ペーパーは、2026年3月のグローバルCEX総取引高と2026年2月の国内現物・証拠金取引高を比較し、国内の取引高は約0.4%にとどまると試算している。

規制対応コストを負担する国内登録業者と、それを負わない海外の無登録業者やDEX(分散型取引所)との間で公正な競争条件をどう保つか、「規制を守る者ほど不利になる」構図への危機感も語られた。

加えて、規制が厳しくなるほど、利用者が海外サービスへ移ったり、国内業者を介さずに自ら暗号資産を管理する「セルフカストディ」を選んだりする可能性もある。こうした暗号資産特有の性質を踏まえ、規制と利便性をどう両立させるかも議論された。

会の後半には、参加者が3つのグループに分かれてのディスカッションも実施された。自由な投資と投資家保護の線引き、国内に育てるべきインフラのあり方など、テーマは多岐にわたった。

中央管理者に依存しないという暗号資産の理念と、投資家保護のための規制をどう両立させるかについて、参加者の間で活発な議論が交わされた。

|取材・文・撮影:平木 昌宏